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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6222号 判決

主文

一  被告が、原告らに対し、平成五年二月一六日に行なった各戒告処分が無効であることを確認する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、全部被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告が、原告らに対し、平成五年二月一六日に行なった各戒告処分は無効であることを確認する。

二  被告は、原告らに対し、各金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対しては平成五年二月一七日から、内金一〇万円に対しては本訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告らの手記を記載した書籍が、被告の名誉信用を毀損するなどとして、被告から戒告処分を受けた原告らが、被告に対し、右戒告処分の無効確認を求めるとともに、違法な戒告処分により精神的苦痛を受けたとして不法行為に基づき慰謝料等の損害賠償を求める事案である。

二  前提事実(当事者間に争いのない事実)

1  当事者

原告らは、いずれも被告に雇用されていた従業員であり、これまでいずれも戒告処分等の懲戒処分を受けたことはない(以下、個々の原告を表示するときは、氏のみによる。ただし、原告P1、同P2、同P3、同P4については氏名で表示する。)。原告らは、いずれも、三和銀行従業員組合(以下、単に「組合」という。)の組合員である。

被告は、全国に支店をもつ我が国有数の都市銀行である。

2  戒告処分

被告は、原告らに対し、平成五年二月二八日、戒告処分(以下「本件戒告処分」という。)を行った。本件戒告処分の理由は、原告らの手記を掲載した平成四年七月一五日株式会社日本機関紙出版センター(以下、単に「出版社」という。)発行、月刊「銀行マン」編集部編「トップ銀行のわれら闇犯罪を照す 告発する銀行マン一九人と家族たち」と題する一冊の本(以下「本件出版物」という。)が全体として被告を中傷、非難し攻撃するものであり、その中には虚偽もしくは事実を著しく歪曲した表現が含まれ、被告の信用を著しく傷つけるものであるから、本件出版物の出版(以下「本件出版」という。)は、被告の就業規則第五四条第三号「故意または重大な過失により銀行の信用を失墜し、または銀行に損害を及ぼしたとき」、同第八号「銀行、役職または取引先に関する事実を歪曲し流布し、その名誉または信用を傷つけたとき、あるいはこれにより職場の秩序を乱したとき」に該当する、また、第五条第一項で「職員は・・・銀行の信用と利益を保全する義務がある。」から、第五四条第一〇号の「就業規則に違反するとき」に該当し、更に少なくとも第五四条第一〇号の「前各号のほか・・・これに準ずる行為をなしたとき」に該当するというものであった。

第三当事者の主張

一  本件戒告処分の効力について

(被告の主張)

1 本件出版物への手記の寄稿及び本件出版物の出版の懲戒事由該当性

(一) 懲戒事由該当性

本件出版物は、原告らの手記の部分を中心とする出版物である。右手記の部分、あるいはその余の部分においても、後述のとおり随所に被告の経営理念、労務管理の方針や人事諸制度あるいは個々の事実関係につき、被告を誹謗、中傷する表現がなされており、本件出版物の販売により被告の信用ないし利益が損なわれたことは明らかである。そして原告らは、本件出版物として市販されることを知りながら、敢えて右の手記を寄稿し、掲載させたものである。よって、原告らの右行為は明らかに被告の就業規則第五四条第三号の「故意または重大な過失により銀行の信用を失墜し、または銀行に損害をおよぼしたとき」、及び同条第八号の「銀行、役職・・・に関する事実を歪曲して流布し、その名誉または、信用を傷つけたとき、あるいはこれにより職場の秩序を乱したとき」に該当するとともに、同就業規則第五条第一項の「職員は、・・・銀行の信用と利益を保全する義務があるものとする。」に違反し、同第五四条第一〇号の「就業規則その他の服務に関する諸規定、示達に違反し(たとき)」に該当し、少なくとも同条第一〇号の「前各号のほか、・・・これに準ずる行為をなしたとき」に該当することは明らかである。

(二) 就業規則の解釈について

企業は、その存立を維持し、目的たる事業の円滑な運営を図るために必要不可欠な企業秩序を定立する固有の権能を有しており、企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができる。そして、労働者は労働契約を締結して雇用されることによって企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができる。

懲戒が企業秩序維持権能に由来する使用者の固有の権限であり、使用者は企業秩序確保のために必要な事項を規則をもって一般的に定めるほか、たとえ準拠すべき規範がない場合でも、企業秩序に違反した労働者に対して、その行為に応じて適当な制裁を加えることができるのであり、また、このような趣旨に照らせば、就業規則に定める懲戒事由は、企業秩序違反行為を例示的に列挙したものと解するのが相当であるし、就業規則の各条項も規定の形式ないし文言のみにとらわれることなく、企業秩序維持の観点から客観的合理的に解釈すべきであり、懲戒規定の各条項の解釈を厳格、限定的に限る必要はない。さらに、企業において、懲戒の対象となる事象は極めて多様であり、しかも懲戒そのものが日常的に行われるものでないことから、将来生じる可能性のある全ての企業秩序違反行為を予測して網羅的に就業規則に定めることは殆ど不可能であるから、懲戒事由に定める行為と同等の企業秩序違反性が認められる場合には、懲戒の準用条項や包括的懲戒条項を適用して懲戒することが許されるべきである。

(三) 結果発生の必要性について

(1) 企業秩序維持の観点から客観的、合理的に解釈するならば、就業規則が定める各懲戒事由に該当するためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生、あるいは職場秩序における具体的な支障等は要件とされておらず、少なくとも被告の社会的評価や職場の秩序に悪影響を及ぼしたと客観的に評価し得る場合であればこれに該当するというべきである。

(2) 本件出版物が、内容的に被告の経営理念、労務管理の方針や人事諸制度に対する誹謗、中傷に満ちていることは明らかであるところ、左の点からも本件出版物の販売が被告の社会的評価や職場の秩序に悪影響を及ぼしたと客観的に評価しうることは明らかである。

ア 本件出版物は、一般図書として一般書店の店頭で並べられた。ビラが読者において短期間に廃棄される一過性のものであるのに対し、図書は長期間保存される持続性のあるものであること、ビラの場合、原告らの配布する場所や地域が限定され、基本的に配布の相手方だけを読者とするのに対し、図書の場合は、一般の流通過程におかれて広範囲に流通して多種多様な人々を読者とし、しかも書店の店頭、図書館での閲覧、購買者からの回覧により発行部数を大幅に上回る人達の目に触れること、一般的に、ビラが一方的、主観的な意見の開陳、事実の主張であると読者に受け取られるのに対し、図書は客観的な事実の記述、資料と評価され、読者が記述の内容を真実と誤信する可能性が高いこと、また、ビラに比べ図書の方が記載の情報最が多いことなど、種々の点において、図書とビラは本質的に相違し、図書はビラに比べはるかに影響力が大きく、被告の社会的評価に与える悪影響の程度も大きいものといわざるを得ない。

イ また、本件出版物は「大銀行の祉会責任を問う=闇シリーズ」第三作として出版されたのであるが、本件出版物末尾の広告欄に、第一作の「大銀行のナカは闇」は、「堂々一〇刷突入」、第二作の「大銀行のわれら闇を照らす」は「三万部突破」と記載されたことは、取りも直さず、原告らが、本件出版物が広く読者に行きわたることによって被告に対する世間一般の非難を惹起させることが出来、その非難が被告に寄せられることによって、被告が原告らの要求に応じざるをえないであろうとの見通しをもっていたというべきである。そうとすれば、原告らはもともと本件出版物が、被告の社会的評価に対して、大きな悪影響を与えることが可能であったものとして発行したことは明らかであり、このことから言うならば、本件出版物の発行により被告の社会的評価に悪影響があったと評価されることについて原告らが異議を唱えるべき筋合いは全くない。

(四) 本件戒告処分に至る経緯―手続の公正さ

平成四年七月、本件出版物が出版、市販された。被告では、本件出版物が原告らの手記を掲載し、これを編集するという形を取っていたことから、原告ら各人に対し、「手記は自ら書いたものか」「このような本になって出版されることを知っていたのか」という点についてヒアリングを行った。右ヒアリングは同年七月に行われたが、原告らはいずれも右二点の事実を認めた。被告としては、本件出版物の内容に多くの問題点があると受けとめ、当時の人事部企画給与班のスタッフ(責任者P5次長)を中心に本件出版物の内容の仔細な検討作業に入った。各作業は、本件出版物の記載内容から問題箇所を洗い出して分析、検討、集約し、さらにいくつかの点について関係者からのヒアリングを行って事実関係を確認したうえ、最終的に問題点を確定するという手順で行われたが、何ぶんにも本件出版物は三〇〇頁にも及び、かつその内容も多岐にわたっていたことから、各作業には相当の時日を要することとなり、これを終えたのは平成五年一月のことである。被告では、右検討結果をふまえ本件出版物が被告の名誉、信用を著しく低下、毀損するものであるとして、同年一月二八日、原告らに対し戒告処分に付することを決定した。原告らに対する処分通知は、同年二月一六日各支店長を通じて行われ、戒告処分通知書に基づいて処分事由の説明がなされた。

原告らは、本件出版物については、既に決着がつき、被告も了解していたと主張するが、右経緯から明らかなように「既に決着がつき、被告も了解していた。」といえる事実はない。

(五) 懲戒処分の相当性

本件出版物の販売がビラの配付に比較し、被告の社会的評価や職場の秩序に対し、より大きな悪影響を及ぼしたものと客観的に評価しうるものであることは明らかである。しかも、原告らは出版物の内容について原告ら全員で討議した上で出版に及んだというのであるから、本件出版物の販売が被告に右のような悪影響を及ぼすことについても、十分に認識していた筈である。そうであるとすれば、原告らはそのことを十分に認識しながら、それでも構わないと考えて本件出版物の発刊に協力したということになるのであるから、いわば、計画的なものというべきであって、企業秩序違反の態様としては、極めて悪質なものといわなければならない。ところで、被告の就業規則第五五条においては、懲戒の方法として、戒告、謎責、降格及び懲戒解雇の四種類が定められ、戒告、謂責、降格については、事情により、賞与減額、賞与停止、昇給停止、または減給を併科することがあるとされている。しかるところ、本件で、原告らに対しなされた懲戒処分は戒告であり、しかも右の併科も一切なされていないのであるから、被告における懲戒処分としては最も軽いものであることは明白である。本件行為の内容や事情に照らせば、より重い懲戒処分を課すことは十分可能であったと考えられるのであって、本件戒告処分は軽きに過ぎることはあっても、重きに過ぎるとされるような理由は全くない。よって、本件戒告処分が相当性を有することは明らかである。

(六) 名誉、信用毀損の成否(表現の自由の保護 刑法第二三〇条の二の解釈の類推)について

本件出版物は、原告ら一九名が資格、賃金、仕事等において不当な差別を受けたという事実を指摘することを内容とし、是正を求めることを目的とするものである。確かに、本件出版物の記載の中には、原告らが指摘する「職業病」、「男女差別賃金」、「サービス残業」等に関する記述が一部に存在することは事実であるが、それは差別を受けるに至った背景的事情の一つとして記述されているにすぎない。しかるに、原告らが、あたかも、本件出版物の主たる内容が右の事実の指摘にあり、その目的が右のような労働実態の改善にあったと主張することは、およそ事実に反するものという外ない。のみならず、本件出版物の内容の一部に被告の労働条件あるいは労働環境に法違反が存在することを指摘する部分が含まれている点に着目し、そのような労働実態の改善が出版の目的であったと仮定したとしても、そのことから、当然に本件出版物が公共の利害に関する事実にかかわるものであり、また、専ら公益を図る目的で出版されたものであると解することもできない。すなわち、刑法第二三〇条の二所定の「公共の利害に関する事実」については、一般的には「多数一般の利害に関する事実」あるいは「それを摘示することが、公共の利益になるような事実」と定義されているのであるが、右にいう「多数一般」とは国民一般、あるいは社会一般を指し、「公共の利益」とは、そのような国民一般ないしは社会一般の利益と解すべきである。しかるところ、被告の規模がいかに大きなものであったとしても、あくまで一私企業にすぎないものであって、一私企業内の労働条件ないし労働環境に関する事実関係を指摘することが、国民一般あるいは社会一般の利益に関係するものとは到底考えられないところである。また、仮に本件出版物の出版の目的が原告ら主張の如く、被告内において適法な労働条件と労働環境を実現することにあったとしても、これもやはり一私企業内の事柄にすぎないのであるから、そのような目的を以て「その目的が専ら公益を図ることにあった」とすることができないことも明白である。以上のとおり、本件出版物の記載事実は、いずれも事実に反するものである外、右事実は決して「公共の利害に関する事実」に該当するものではなく、また、「その目的が専ら公益を図ることにあった」ものでもないのであって、この点に関する原告らの主張は、失当である。

(七) 正当な組合活動の成否

(1) 原告らの本件出版物への寄稿・出版は、そもそも憲法第二八条や労働組合法が問題とする「組合活動」に該当しない。

すなわち、原告らも自認しているとおり、原告らの本件出版物への寄稿・出版は、原告らの所属する組合の活動としてなされたものではない。一般に、労働組合内の組合員の活動が、いかなる範囲で憲法第二八条や労働組合法の問題とする「組合活動」と評価しうるかという点については、かかる活動が専ら組合内部におけるものにとどまる場合と、組合外部に対して行動に出る場合とに分けて議論されている。組合員の活動が組合大会における発言や他の組合員に対する働きかけなど組合内部におけるものにとどまる場合はともかく、これが本件の如く組合外部に働きかけるものである場合は、所属する組合の統制下にある組合員の当該活動を「組合活動」と評価しうるためには、それが組合の方針に従ったものでなければならないことは、組織原理として、当然のことである。これを本件に即して言うならば、原告らの本件出版物への寄稿・出版は、原告らの所属する被告従業員組合の授権もしくは承認に基づくものでない以上、そもそも「組合活動」に該当しないことは明らかである。

また、仮に、原告らが主張するように、所属する労働組合から疎外され、独自の活動を余儀なくされている一部の組合員の活動についても、その活動の主たる目的が他の組合員の労働条件の維持、改善のためのものである場合には、「組合活動」として労働組合法上の保護の対象となりうる余地が存すると解する立場に立脚したとしても、本件にあっては、原告らの本件出版物への寄稿・出版は、専ら原告ら自らの利益のためになされたものであり、他の組合員の労働条件の維持、改善のためになされたものでは決してない。従って、「正当性」の範囲を逸脱するものであるかどうかの検討を経るまでもなく、原告らの本件出版物への寄稿・出版は、そもそも労働組合法上の「組合活動」に該当しないものである。

(2) 労働者・労働組合が社会的な宣伝活動を広げる権利を有するとしても、それは自ずから限界を有することは言うまでもない。労働者、労働組合が宣伝活動により他人の名誉を毀損すれば、名誉毀損罪として刑事処罰の対象となるし、不法行為として民事責任を問われることになるし、さらにそれにより企業秩序を侵害した場合には懲戒の対象となるのである。

それゆえ、本件出版物への寄稿・出版が組合活動として正当性を有するか否かは、主体、動機・目的、手段、内容の各点を検討して総合的に判断しなければならない。

ア まず、組合員の組合外部に対する広報、宣伝活動が組合活動として正当性を有すると認められるためには、「それにつき組合の明示もしくは黙示の承認があり、または承認があるものとみることが労働常識上是認され(る)」ことが必要であるが、前述したように、原告らの本件出版物への寄稿・出版は右要件を欠くものである。

イ また、原告らの手記部分を含め本件出版物には、随所に事実に反する記載、事実を歪曲、誇張した記載、あるいは被告を誹謗中傷する表現がなされている。これは原告らが主張するように、同人らが意図する被告に対する外部からの批判、非難を喚起するためになされたものと思われるが、このような記載、表現を行なう以上、少なくとも原告らは本件出版物によって被告の信用が失墜することを認容していたのである。したがって仮に、原告らの本件出版物への寄稿・出版の目的が、自らの労働条件の是正にあったとしても、事実に反する記載、事実を歪曲、誇張した記載、あるいは被告を誹謗中傷する表現を内容とする手記の寄稿、出版が被告の信用を失墜させることに変わりはなく、その正当性は認められない。

ウ 更に、ビラが読者において短期的に廃棄される一過性のものであるのに対し、図書は長期間保存される持統性のあるものであること、ビラの場合、原告らの配布する場所や地域が限定され、基本的に配布の相手方だけを読者とするのに対し、図書の場合は、一般の流通過程におかれて広範囲に流通して多極多様な人々を読者とし、しかも書店の店頭、図書館での閲覧、購買者からの回覧により発行部数を大幅に上回る人達の目に触れること、一般的に、ビラが一方的、主観的な意見の開陳、事実の主張であると読者に受け取られるのに対し、図書は客観的な事実の記述、資料と評価され、読者が記述の内容を真実と誤信する可能性が高いこと、また、ビラに比べ図書の方が記載の情報量が多いことなどを考えれば、図書とビラは宣伝媒体として本質的に相違し、図書はビラに比べはるかに影響力が大きく、被告の信用失墜の程度も大きいといわざるを得ない。それ故、本件出版物への寄稿・出版は、労働者の組合活動であるとしても手段において相当性を欠くと言わざるを得ない。そして原告らの主張するように、本件出版物の発行部数が数千部にとどまったとしても、図書の発行部数が売れ行きによって決まるものであり、原告らの意図によるものではなく、売れ行きの結果に過ぎない。原告らは本件出版物による大きな影響力を期待して手記を寄稿していたのであるから、結果としての発行部数と配布したビラの枚数とを単純に比較して、その影響力、手段の相当性を論ずることは失当である。

エ 本件出版物の記載に多くの点で基本的な誤りがあることは、後に詳述するとおりである。

そして、本件において被告が指摘した部分は、単に、強調的な表現や評価にとどまるものではなく、事実に反し、または被告を誹謗、中傷するものである。それゆえ、労使間で生起する紛争・問題については、事実自体の認識・理解において、労働者・労働組合と使用者との間に鋭い対立・相違を来し、まして評価やその表現方法において対立・相違するのはむしろ当然であり、また、労働者・労働組合についてはその見方・立場に由来する強調的な表現や評価が起こりがちであるとの原告らの主張は前提を誤るものである。

また仮に、被告が原告らに対し本件出版物に記載されているような種々の差別を行ってきたとするならば、原告らとしては法的な救済を求めることは十分に可能であるから、言論活動しか残されていないとの原告らの主張は事実に反する。さらに労使関係に不可避的に伴う対立感情の発露として許容される余地があるとしても、それは、その対立感情の発生自体に根拠がある場合に限られるのであって、十分な根拠のない誤った事実認識に基づく対立感情など考慮すべき必要性は存在しない。加えて、評価にかかわる表現方法である「不当」、「差別」は、労働者・労働組合が使用する常套的な表現であり、これをもって「中傷・誹謗」、「誇張・歪曲」というのは失当であると主張するが、被告は、単に「不当」、「差別」という表現だけではなく、原告らが右表現で読者に訴えようとしている誤った事実の記載を問題としているのであるから、右主張は的はずれである。最後に原告らは、その表現方法が相当であることの根拠として、被告が長年にわたり、一貫して、原告らの各種差別の是正等の要求を何ら顧慮することなく、かえってひたすら敵対的な対応に終始し、また「不当」、「差別」等の主張に対しても、公正で差別に当たらない旨を裏付ける根拠・資料を提供して原告らの理解を求めるなどの真筆な対応をして来なかったことも挙げているが、そもそも被告は原告らに対して主張のごとき差別をしたことは一切ないのであるから、被告として、原告らの「是正の要求」に応ずべき理由はないし、各部店の職場においては、原告らよりの各種の申し出を受けた支店長その他の上司は、その都度説明しているのであるから、この点においても右の主張は事実に反する。

2 不当労働行為

原告らの不当労働行為の主張は争う。

3 責任

(一) 共同行為

被告は、本件出版物は、全体として被告を非難、中傷、攻撃し、被告の名誉、信用を低下、殴損する出版物であり、これに原告らが、事実に反する記載、事実を歪曲、誇張した記載、あるいは被告を誹謗する表現等が含まれている手記を寄稿、掲載させたことを問題にしているのである。従って、原告らは、各人が本件出版物が右のようなものであることを認識したうえ、右手記を掲載させたのであるから、自らの手記部分にとどまらず、本件出版物全体(当然のことながら、その中には他の者の手記以外の部分も含まれている。)について、責任を負うべきもである。この点については、一般に、二人以上の者が、社会観念上全体として一個の行為と評価される数個の行為(共同行為)の一部について、それぞれ関与、分担するものであることを互いに認識したうえ、これに関与、分担する行為をなしたときは、自らが直接に分担した行為にとどまらず、全体としての共同行為により生じた結果についても責任を負うのであり、この理は、懲戒責任を問題とする場合においても妥当する。

一般に、二以上の者が、特別の者を非難、中傷し、あるいは攻撃することを意図ないし目的とする出版物を出版するに際し、ある者においてはその出版物の一部の執筆・寄稿を担当し、他の者においてはその出版物の編集あるいは出版を担当した場合であっても、いずれの者も右出版物の意図ないし目的が特別の者を非難、中傷し、あるいは攻撃するものであることを互いに認識したうえ、かかる執筆・寄稿もしくは編集、出版という行為(分担行為)に及んだときは、右出版物の出版を共同して行ったものとして、自ら担当した一部の行為、すなわち執筆・寄稿もしくは編集、出版という行為によって生じた結果のみならず、全体としての出版物の出版によって生じた結果に対しても責任を負うところである。執筆・寄稿行為も、編集行為も、あるいはまた出版行為も、いずれも出版物の出版という社会観念上全体として一個の行為と評価される数個の行為(共同行為)の一部(構成部分)であることは何ら疑問の余地の存しないものである。また、懲戒規定の解釈についていうならば、企業秩序の維持という観点からは、就業規則上の懲戒規定について、合理的解釈がなされるべきことは当然である。即ち、懲戒規定において共同責任を認める旨の定めが明定されているか否かに拘わらず、社会観念上一個の行為(共同行為)たる企業秩序違反行為の一部を分担する場合については、その一部たる分担行為のみを切り離して企業秩序違反行為に該当するか否かを判断するのではなく、社会観念上一個の行為と認められる合体の行為が企業秩序違反行為に該当するか否かを判断しなければならないことは、企業秩序の維持という観点からすればむしろ当然である。従って、本件における就業規則第五四条第三号及び第八号の解釈としても、原告らの各手記の執筆・寄稿行為が本件出版物の出版(共同行為)の一部を分担したものであると評価される限り、各々の手記部分のみを切り離して前各号の該当性が判断されるのではなく、本件出版物の出版全体につき、その該当性が判断されるべきである。また、仮りに百歩譲って、「懲戒責任として共同責任を追及するには、就業規則に共同責任を認める規定がなければならない」との見解を採るとしても、社会観念上一個の行為(共同行為)と認められる場合には、自らが直接関与、分担しない共同行為の一部については、少なくとも同条第一〇号にいう「前各号のほか…これに準ずる行為をなしたとき」に該当するものと解すべきである。いわゆる実行行為を一切伴わない教唆行為、謀助行為についても、通常「前各号のほか、…これに準ずる行為をなしたとき」に該当するものとして懲戒処分が認められていることとの均衡上も、自ら実行行為の一部を分担した者に対し、自らが直接関与、分担しない共同行為の一部につき、何ら懲戒処分の対象たりえないなどという解釈はおよそ成立する余地のないものである。

(二) 共同意思の存在

原告らは、組合執行部批判派として同一の意図のもとに共同して活動するとともに、その活動を広報するため「あしおと」「銀行マン」の発行や配付に協力して来たものであるところ、更に月刊「銀行マン」編集部が単行本として発行することに協力し、その延長として、原告らの受けた差別を広く一般読者に訴えるため、具体的に各人が分担して本件出版物に寄稿したものといわなければならない。そうである以上、本件出版物の企画、出版の意図ないし目的が被告を非難、中傷し、攻撃するものであることを認識していたというにとどまらず、共同意思のもとに、意を通じてそれぞれの手記を作成、寄稿し、被告の名誉、信用を低下、殴損する行為を共同して行ったものであるから、原告らの責任が各々の手記部分にとどまらないことは当然のことというべきである。

4 本件出版物の内容について

本件出版物の記載内容で、被告が問題とする主要な点は別紙一、別紙二記載のとおりであり、別紙一に対する被告の主張は同別紙下欄「被告の主張」欄記載のとおりである。ただし、別紙一の三二番を「残業が午後八時を過ぎることはあるが、記載のような事実はない。」と、同四二番を「結婚を理由に不当な差別がされた事実はない。」と各訂正する。以下、総論として、(一)被告経営理念、人事諸制度に関するもの、(二)労務管理に関するもの、(三)人事制度に関するもの、(四)職務配置(異動、職務付与)に関するもの、(五)研修制度に関するものに分けてその問題点を述べ、次項において各原告の手記部分の重要なものの問題点を述べる。

(一) 被告の経営理念、人事諸制度に関するもの

(1) 「ノルマ漬け」との記載について(別紙二の四一番)

目標管理は、「ビッグバン」と呼ばれる厳しい変革の時代を乗り切っていくためには抽象的なスローガンを掲げるだけでなく具体的な目標を設定して管理することが必要とされたことによるものである。本件出版物の右記載は、被告の目標管理をもって「『目的のためには手段を選ばず』の考えと行動が中心にすわり、すべてを支配する」などとして、あたかも目標管理が諸悪の根源であるかのごとく誤った評価をしているものである。また、「そのためにはサービス残業が日常化し、いまや不払い労働は、企業犯罪として社会問題化しつつある。すべての計数化により、ノルマのルツボに全員がたたき込まれる。」「職場だけでなく家庭生活も含めた全生活が、細分化されたノルマのどれかの項目の達成のために、関係・関連づけられ、ニッチもサッチも身動きがとれなくなり、権利は剥奪される。」「『目標』の数字さえあげれば『すべてよし』の風潮が職場を支配し、異常が常態化し『正常』に転化し、正常は『異常』になり、人間性は著しく後退し『職場に憲法なし』の状況がさらに進行しているのが現状です。」「『目標管理』は…その行き過ぎが過労死や金融スキャンダルの源ではないでしょうか。」等の記載も、誤った事実に基づくものであり、また表現方法においても相当性を欠き、明らかに被告を誹謗、中傷するものである。

(2) 「三つのS」に関する記載について(別紙二の三五番、五一番)

「『三つのS』(Strategy(戦略性ある企画)、Strength(強さに満ちた実践力)、Speciality(高い専門性に基いた営業力))は、昭和六二年に被告がたてた新中期計画「ユニバーサルプロジェクト九〇」において指向したコーポレートカルチャー(企業文化・風土)であり、その趣旨は、多様化・高度化する顧客のニーズに応えることにより経営目標を達成しようとするものである。その中でストレングスとは、仕事に対する基本的な取り組み姿勢として、顧客より信頼されるに足る強い実践力、あるいは強い心をもつという意味である。これを顧客や従業員を犠牲にするための強さであるとする原告の主張は曲解も甚だしい。本件記載は、かかる誤った考え方が被告の方針であるかのようにねじ曲げて読者に理解させるべく、例えば、“強い心”“強い心”と呪文を唱えさせ、残業しても、つけない労働者を評価する風潮をつくり、家庭を顧みるような労働者には、失格の烙印を押し、死の直前ギリギリまで働かせる体制を作り上げました。」とか「いろいろな口実を設けて、高い金利を押しつけ、中小企業の得意先をねじ伏せているのが現状です。この交渉にのぞむ心の持ちかたに支店長より、“強い心”が要求され、こんな高い金利をとっていいのだろうか、の疑問をいだきつつも、得意先をねじ伏せています。」などと極めて生々しく綴ったうえ、「公序良俗違反、反国民的なS」と評しているもので、被告の信用を毀損するものであることはあまりに明白である。

(3) 「四つの人ザイ」に関する記載について(別紙二の一七番、一八番及び五二番)

被告では、平成二年四月より中期経営計画「ユニバーサルプロジェクトアクセルⅡ」を推進していたが、平成四年度上期より重点方針として「清新・溌刺とした強い集団作り」を掲げていた。平成四年度上期全国支店長会における「頭取訓示」は、この「清新・溌刺とした強い集団」を作り上げていくには「『人材育成』が最大のポイント」であるとして、支店長らに対し、まず自身が自分を厳しく評価し、人間的に魅力のある尊敬できる人物になるよう心がけること、そして部下においても、被告の組織強化のために教育、指導していくことを要請したのがその趣旨である。その中で言及した「人ザイ」の話は書籍から引用した比喩であり、人材育成の重要性、必要性及びその過程を印象的に説明したものにすぎず、この表現をもって「被告経営者が、金銭的な利益追求に捕らわれるあまり、人間の尊厳を無視ないし軽視し、従業員の存在意義をひたすら被告の利益追求に貢献するか否かの基準のみで計ろうとする、非人間的な考え方、経営姿勢を有していることを、実に端的に示しているものである。」とする原告らの主張は全くの歪曲である。被告も企業である以上、利益を追求することは当然であるが、被告が人材育成に努めているのはそのためだけではない。人材育成の重要性を比喩的に説明した「頭取訓示」の一部を捉えて被告が「利益至上主義の非人間的な考え方・経営思想を持っている」と評価することは全くの誤りである。原告らは、「頭取訓示」が「被告経営者がこのような考え方、経営思想によって従業員を評価し、処遇していることを求めていることを示している」と主張しているが、「頭取訓示」の趣旨が、そのような考え方で従業員を評価・処遇すること、ないし管理職に対し従業員を処遇することを求めたものでないことは、その発言内容を読めば容易に理解できる筈である。「頭取訓示」の片言隻語をもって、それがあたかも従業員の評価・処遇基準であるとする原告らの主張は牽強付会も甚だしい。以上のとおり、原告らが問題とする「人ザイ」の話は、「頭取訓示」の中での一挿話であり、人材育成の重要性を印象的に説明するために書籍から引用した比喩にすぎないにもかかわらず、それがあたかも被告の経営姿勢や「人権感覚」あるいは「人間性」にかかわるものであるとして、「三和銀行のトップの人権にゾッとします。私たちが相手にしている三和銀行の人権感覚とは、所詮この程度なのです。」「当行の人権意識と品格の低さをみせた四つの『ザイ』論」などと記載し、あるいは右の発言が従業員の評価・処遇の在り方とは関係がないものであるにもかかわらず、「自分はどの“ザイ”かな、と労働者を悩ませます。支店長は、“お前は、一番目のザイや”と言って、労働者をビクビクさせることに役立てようとします。私たち一九名の闘いに対する攻撃でもあります。」などと記載することは、事実を歪曲し被告を誹誘したものと言う外ない。

(4) TQCに関する記載について(別紙一の五九番)

被告では、昭和五二年にQCサークル活動(クローバーサークル活動)が始まったが、右活動は「各部店で係を中心にサークルをつくり、頭取の標語(尽くそう親切、燃やそうバイタリティ、磨こう心と知恵)を指針として、自己啓発、相互啓発を行い、職場の地道な管理、改善を、自主的に、全員参加で行う。」というものであり、「①お客様の立場に立って、常に物事を考え、行動する、②日々、全力を発揮して仕事に取り組める、働きがいのある職場をつくる、③人格、教養、技能ともに優れた従業員となる」ことを目指したもので、「ひと味違うピープルズバンク」をつくることを目標とした活動であった。右QCサークル活動が昭和六一年に「TQC」につながったものであるが、TQCとは、全部店のトップから第一線までの全員が、QCの考え方にもとづいて仕事の管理、改善を行うことで、「方針管理」「サークル活動」「提案」を三つを柱とするものである。TQCの柱の一つとされている「サークル活動」とは「TQC(全行的品質管理活動)の一貫として、各部店で係を中心にサークルを結成し、自己啓発・相互啓発を行い、職場の地道な管理・改善を全員参加で行う」ことである。サークル活動はQC活動の原点であり。ポイントとしては次の五点が上げられている。①自主性発揮、②自己啓発・相互啓発、③全員参加のグループ活動、④職場の地道な管理・改善、⑤TQC(全行的品質管理活動)の一貫としての活動。サークル活動のねらいは、働きがいのある風通しのよい組織をつくり、お客様のために役立つような仕事の身近かな問題を自主的に取り上げて改善を図り、その過程で各人が人間的にも成長することである。その結果、被告もより良い銀行に近づこうとするもので、いわば第一線から盛り上げる活動といえる。このように、被告のTQCは、「サークル活動」が「方針管理」「提案」ともに三つの柱の一つとなっており、QCサークル活動が「形式上の自主性尊重と内容上の外的強制との矛盾」により下火になった事実はない。また、能力開発表の「目標達成に必要な情報は自ら収集できる」との項目は職務遂行能力を、「目標達成に執着あり」、「目標達成をめざし一致協力する」との項目は意識、意欲を、それぞれ評価するものであって、これをもって「すべての労働者にいろいろなノルマ(目標)を押しつけ、その達成度を日々追求しと記載することは事実を歪曲するものであり、また「繰り返しの中で、ノルマを受け入れる思想的準備がされてきたと言えます」との記載は明らかに事実に反するものである。

(5) 「専制支配体制」なる記載について(別紙一の六三番、別紙二の二五番、四二番、四五番及び五〇番)

「専制的支配体制」「恐怖の支配体制」などという表現は、被告が従業員をあたかも奴隷のごとく唯唯諾諾とその意に従わせ働かせていて、自由にものも言えない暗い職場であるという印象を読者に与えるものであり、表現方法においても相当性を欠くものであって、まさに被告を誹謗、中傷する表現という外ない。

(6) 「反国民的」との記載について(別紙二の五〇番及び五八番)

被告が自らの利益追求のために、ことさら土地取引、マンション等の建設を勧めたり、あるいは一般消費者にハイリスク商品を勧誘した事実はない。また、そもそも、バブル経済が様々な要因の複合によるものであることは一般に言われるところであって、その責任が専ら銀行にあるとの右主張が誤ったものであることは明らかである。のみならず、仮に銀行の活動がバブル経済の一因になっていたとしても、それは大きな経済の流れによるもので被告をはじめとする銀行の意図に基づくものではないにもかかわらず、右の表現は、あたかも被告が、専ら利益追求のみに走り、意図して「反国民的」な行為を行ってきたかの如き印象を与えようとするものであって、これまた、誹謗というに十分値するものである。

(二) 被告における労務管理について

(1) 被告における事務の機械化、合理化について

ア 職員の労働負担に関する記載について(別紙一の五七番)

被告では、とりわけ昭和四〇年代初頭以降のオンライン化によって事務の大量集中処理が可能となり、営業店の事務は大幅に軽減され、かつ、職員からも時間外労働の削減や負担の軽減につながったとの評価を得ているものであって、本件出版物の右記載は事実に反するものである。

イ 「人減らし」なる記載について(別紙二の三二番、三八番、三九番及び四〇番)

被告において、事務の機械化、合理化とともに、一貫して職員数が減少しているなどという事実自体存しない(業務の多様化等が進んだ昭和四〇年代には、職員数は増加傾向にあり、また、近年も金融自由化への対応等のため、同じく職員数は増加傾向にある)。なるほど、被告においても、他の都市銀行同様、事務の機械化、合理化によって定型的な職務が減少した結果、一時期職員数の減少傾向が認められるものの(具体的には、例えば昭和五〇年代には、CD・ATMの設置台数の増加に伴って営業店の窓口事務が減少し、職員数、とりわけ、従前右窓口事務に従事していた女性職員の数もそれに応じて減少)、それは決して労働強化を伴う「人減らし」などと評価されるものではない。従って、本件出版物の右記載は、いずれも事実に反するものと言わなければならない。

ウ 事務表彰制度に関する記載について(別紙一の九七番及び別紙二の四一番)

事務表彰制度は、第一次サンバック計画において導入された前述の「ワンライン・システム」、「会計システム」の定着化を目指すものとして昭和四九年下期から始まったもの(被告が最初に導入し、その後、他の都市銀行でも導入された)であり、正確な事務処理、窓口機能の充実により、顧客の信頼に応え得る事務体制の確立と一層の事務効率の向上を図るべく実施されているものである。従って、前近代的な制度である旨の原告らの主張は全く当を得ず、かつ、職場における職員らの事務表彰制度の受け止め方も、「内部事務に携わる人の盛り上がりに貢献した」とか、「事務効率化、事務平準化、事務正確化というものを推進していくことで、執務時間も短くなり、早帰りできるという意識がうえつけられたことによって、皆にやる気が出てきた」というものであって、決して職場をより一層悪くしているものでもない。

(2) 被告における職員の健康管理問題への取り組みについて

ア 職業病(とりわけ頚肩腕障害)への対策に関する記載(別紙一の五四番、六〇番、一〇九番、一一〇番、一一一番、一一二番、一四二番、一四四番、別紙二の一一番、一六番及び五四番)

被告では、頚肩腕障害に対する予防対策として、昭和四七年に機械業務従事者に対する特殊健診の拡充(最新鋭の特殊検診機器を搭載した特殊検診車を購入し、巡回して検診ができる体制を完備)や本店健康管理センター内に物療センター(頚肩腕障害を含む神経性・筋肉性の疾病に対して牽引などの治療を行う施設)の設置を行ったほか、同じく昭和四七年に、職員が頚肩腕障害に罹患したと訴えてきた場合には、健康保険外費用の支給や時間外通院等を認める特例措置を設け、また、昭和五七年には、頸肩腕障害罹病者に治療行為としての訓練の場を提供することで職場復帰の促進を図るリハビリ出社の制度を設けているものであって、被告が頚肩腕障害について労災として認めること自体を拒否したり、あるいはまた、それに対する対策を何ら講じなかったなどと非難されるものでは決してない。特に、頚肩腕障害がいわゆる業務上災害に該当するかどうかの点につき、専門家の間でも見解が分かれ、労働省の認定基準自体が改正過程にあった昭和四〇年代後半の状況を前提とする限り、昭和四七年時点で特例措置等を設けた被告の頚肩腕障害に対する対応は、むしろ積極的に評価されるべきものである。

イ 頚肩腕障害に罹患した原告らへの対応に関する記載について(別紙一の五四番及び一一〇番)

被告が原告P6に対し、災害補償規定を受けるために、被告の指定する医師の診断を受けるよう指示したのは、同補償規定第二条の規定(右規定の適用を受けようとする者は、銀行の指定する医師または病院の診断を受けなければならない旨)からすれば当然のことであり、また、被告が原告P7に対し、同原告の主治医の指示(訓練の時間は一〇時から一五時までとし、その内に休憩時間を約二時間とること、訓練日を週四ないし五日とすること、作業内容としては、自己のペースで必要な自発休養が取れ、身体同一部所の反復繰り返しはなるべく避け、一定の限度内で多様性があることを内容とする)に基づき、顧客リストの整理、作成等の作業しか与えられなかったのも、「頸肩腕障害者のリハビリテーションとしての出社に関する覚書」第五条の規定(訓練の内容は、医師の指示に従う旨)からすれば当然のことであって、これらを不当な扱いとする原告らの主張は全く当を得ないものである。

(3) 被告における労働時間管理問題への取組みについて

ア 「長時間労働」なる記載について(別紙一の一二番、二六番及び別紙二の五九番)

被告において、夜間大学への通学を不可能にするような長時間労働の実態などは存在せず、現に原告P8が問題としている昭和二八年前後にあっても、多数の者が夜間大学に通学していたものである。

イ サービス残業に関する記載について(別紙一の二番、二七番、二八番、二九番、七五番、三五番、三七番、三八番、三九番、四一番、六九番、九〇番、一〇六番、一一五番、一一六番、一一九番、一二七番、一五四番、別紙二の一六番、三六番、四六番及び五三番)

被告において、時間外の記入を正確に行うことができず、相当なサービス残業を強いているなどという事実はない。すなわち、被告では、職員が従事する銀行業務は多種多様なものがあり、その遂行については、多くが職員各人の自主性・裁量に任されていることなどから、時間外勤務について自己申告制度(職員各人が勤務報告書の任命欄に時間外勤務の事由及び終了予定時刻を記載して上司に申告し、上司がそれを確認して時間外勤務を任命することから始まり、上司の任命を確認した職員本人が時間外勤務を行って、その内容を勤務報告書の時間外状況の実績欄に記入して、上司がこれを確認することで終了)を採用しているところ、職員各人の申告に応じて上司が時間外勤務を命じたにもかかわらず、これに時間外勤務手当を支給しないとか、上司がサービス残業を強制したり、時間外勤務の記入を妨げたり、ましてや、時間外勤務を記入する職員に嫌がらせをしたとかいった事実は一切存しないものである。なお、被告においては、「職員の健康管理の徹底と一層の経営効率の向上をはかる」との観点から、かつて時間外勤務のガイドラインを設けたことがあるが、これは、あくまで時間外勤務の削減を目指して設定されたものであり、右ガイドラインが逆にサービス残業を惹起せしめたなどという事実もない。勤務報告書には時間外項目の例示の一つとしてサークル活動が記載されているにすぎないし、同報告書では時間外勤務を行う事例として一五項目を例示し、制限の厳しいものから三つに分類しているが、サークル活動や業務打ち合せ会は最も制限の厳しい分類に位置づけられている。

また被告においては、午前七時までに、または午後八時を超えて時間外勤務を命ずる場合は、時間外勤務に関する協定書に基き、予め労働組合と協議することとされている。しかしながら、午後八時までの時間外勤務を放置しているといった実態はなく、また、右の協議においては、時間外勤務の事由、人員、時間について明示するのであるから、時間外手当を請求するのは鍵当番の二名だけという事実もない。

ウ 早帰りの促進(フレッシュ・アップ・キャンペーン)に関する記載について(別紙一の三〇番)

人事部が改めて支店長宛通達を出したのは、部店によって一部バラツキが見られたため、これを解消し、一層の定着化を図ろうとしたものにすぎず、右記載は事実に反するものである。

(4) 被告における「女子労働力政策」なるものについて)

ア 結婚・出産する女性職員への「嫌がらせ」なる記載について(別紙一の四四番、四五番、四六番、四七番、四八番、四九番、七〇番、一〇〇番、一一三番、一五二番、別紙二の四番及び六番)

被告においては、女性職員であることを理由に、あるいはまた、結婚・出産を理由に、不当な係替えを行ったり、退職を強要したりすることはない。従って、嫌がらせに関する右記載は、いずれも事実に反するものである。

イ コース別人事制度に関する記載について(別紙一の一九番、六二番及び一一四番)

昭和六一年にいわゆるコース別人事制度が導入されるに至ったのは、その当時金融自由化の本番を迎え、急速に高度化、拡大・複雑化する銀行業務や顧客ニーズに対応し得る人材の育成・確保が要求されることとなった結果、職務群を定型・非定型二つの分野に大別することにより、それぞれの持ち場で高度化を目指す体制づくりを狙いとして、これが導入されたものであって、男女差別を目的としたものでないことは当然である。そして、右制度導入の際の資格系統の選択にあたっても、職員一人一人の意思を尊重してこれを行なった結果、原告らが主張するように、男性職員は総合職、女性職員は一般職ということではなく、男性職員でも一般職を選択した者が約一〇〇名、女性職員でも総合職を選択した者が同じく約一〇〇名存在したものである。

ウ 「根深い企業の男女差別思想」との記載について(別紙二の五五番)

被告においては、職員の賃金や昇格は、職務遂行能力やその発揮度合いに応じて決定されているのであり、女性であることを理由に低い査定を行うことなどなく、また、コース別人事制度は、男女差別とは無関係のものである。ちなみに、被告が組合と合意をして、昭和四九年一〇月に実施した給与改訂(男子書記についてのみ、二級三号該当者に対して八〇〇〇円、二級二号二年次該当者に対して五〇〇〇円の各本俸引上げを行った)に関して、昭和五一年二一月二日付で大阪中央労働基準監督署から被告に対し、労働基準法第四条違反に該当することとなるので是正するよう勧告がなされたことは事実であるが、被告が右のような給与改訂を行ったのは、従前から被告にあっては、事実上職務自体が男女別で分担されていたという背景(かかる背景事情は、決して被告に特有のものではなく、日本の多くの企業において共通して存在していたものである)に由来するものである。従って、右給与改訂の趣旨は、あくまで男子書記の担当する職務と女子書記の担当する職務との差異に着目するものであったが、規定上の文言は男子書記と女子書記という区分をしていたため、是正勧告の対象とされたにすぎないものである。

(三) 被告の人事制度について

原告らは前述のとおり、本件出版物の冒頭で、資格・職位・給与について差別を受けたとして具体的な一覧表にして記載するとともに、本件出版物の他の箇所でも、枚挙に暇がないほど随所において、原告らが「不当な差別」や「冷遇」を受けて来たという趣旨の記載をしている(別紙一の一番、三ないし七番、一〇番、一五ないし一七番、二〇ないし二五番、五五番、五六番、七二番、七三番、七五番、七九番、八三番、八五番、九五番、九六番、九八番、一〇一番、一〇二ないし一〇四番、一二一番、一二四ないし一二六番、一三〇番、一三二ないし一三四番、一三六番、一三九番、一四三番、一四五番、一四八ないし一五一番、一五三番、一五五番、一五六番、別紙二の二番、二四番、三〇番、三三番、四九番、五六番及び六〇番)

被告では、前述のとおり、職員の資格や給与は人事考課に基づき、その職務遂行能力やその発揮度合いに応じて、公正に決定されているところ、結果として、同年令間においても相応の個人差は存在するのであるが、これは原告らに限らず、全職員に共通するところである。しかるにこれらの記載は、自らの資格や給与が他に比べ低いとした上で、被告が差別したことによるものであると記載しているのであって、事実に反することは明白である。

(1) 原告らと同期同学歴入行の総合書記系統の労働者の中で下位におかれ、その中位者(被告の中に在籍するものの中で、上位の資格から順次数えて真ん中の順位にあるもの)と比較において著しい格差が存在することについて

別紙三原告準備書面(二)添付の「資格分布状況」を見ても同期同学歴入行者の資格が「参事」ないしは「参事補」より「主事補」ないしは「書記」まで広く分布していることなどからも明らかなように、被告では、従来より賃金などの処遇の主要な部分は学歴や勤続年数ではなく、職務遂行能力、その発揮度合いなどによって決定されている。従って、同期同学歴入行者でも、昇格・進級の決定の機会を重ねるごとに資格の乖離も大きくなり、職員はそれぞれの資格に層別され管理されているのである。それ故、原告らと同期同学歴入行者との比較やその「中位者」なる概念は全く意味のないものである。また、原告らの主張によれば「中位者」とは「被告に在籍しているものの中で、上位の資格から順次数えて真ん中の順位にあるもの」を指すとのことである。そうだとすると、原告らの主張する「同期同学歴入行者」のうち半数は必然的に右中位者以下(同等もしくはこれを下まわる)の資格ということになる。さらに原告ら作成の「資格分布状況」によれば、「同期同学歴入行者」のうち、原告らと同等の資格に位置づけられている者は、年次によっては三二・八%にのぼるとのことである。「同期、同学歴入行者と著しい格差が存在(する)」との原告らの主張が根拠のないものであることは、こうした原告らの主張自体からも明らかである。この点、原告ら作成の資料によっても、原告らと同期入行の者で、書記ないし主事補である者が相当数いることは明らかであるにもかかわらず、原告らが「中位者」より低い資格にあることが、「不当な差別」であると主張するのであれば、原告ら一人一人について、一『中位者』と同等の職務遂行能力を有し、同等の勤務成績を収めた」ということを個別、具体的に明らかにしなければならない。すなわち、原告らの言うような「同期同学歴入行者」とか「中位者」といった概念を持ち込むとしても、原告ら一人一人が「中位者」と同等の職務遂行能力を有し、同等の勤務成績を収めたにもかかわらず、被告が「不当な意図」をもって原告らを「中位者」を下まわる資格・職位・給与に位置づけたということを、個別、具体的に明らかにして、はじめて「不当な差別」を受けたと言えるのである。原告らは、本件出版物の中で、単に自らの資格・職位・給与が他に比較して低いことのみを記載しているのではなく、それが、被告による「不当な差別」によるものであると断じ、それを広く読者に訴えようとしているのである。そうである以上原告らは、右出版物を発行した時点で、自らが中位者と同等の職務遂行能力を有し、勤務成績を収めていたこと、そして、それにもかかわらず「不当な意図」によって、資格・職位・給与が低く押さえられたことの二点について客観的な根拠を有していなければならず、仮にそれがないとしたら、そのことのみをもってしても右のような記載が許されるべきものでないことは明らかといわなければならない。

(2) 原告らは、低くとも主事補の資格に置かれるべきであると主張しているのであるが、原告らの中には主事補の一つ下の資格である主任書記にも制度上なりえない者が、本件出版物が出版された平成四年七月時点で、一三名も存在しているのである。被告においては、主任書記への昇格については、原則として中級業務試験の二科目合格を必要条件としている(なお、同試験は昭和四〇年代より主任書記資格試験として行われており、同五〇年より中級業務試験と名称が変萸された)。もとより、右の試験に二科目以上合格しても、そのことのみで当然に主任書記となるものではなく、主任書記への昇格はあくまで当該従業員の資質・職務遂行能力・勤務成績、貢献度その他を総合的に査定し、資格要件に準拠して決定されるのであるが、右試験に二科目以上合格せずして主任書記になることは、原則としてないのである。しかるところ、原告らのうち原告P9、P10、P7、P3、P11、P12の六名を除く一三名は右の試験で二科目以上合格していない(原告P13が右資格をえたのは平成五年のことであり、本件出版物の発行後である)のであるから、いずれも本件出版物の出版の時点で主任書記となりうる資格を有しないことは明らかである。このことは、被告内において常識に属するところであり、原告らはそのことを全員承知していながら、これを全く無視した上で前記一覧表を作成して本件出版物に登載しているのであるから、この点のみをとっても、本件出版物の記載のうち、原告らが資格・職位・給与が不当に差別されたとする部分の大半が事実に反する記載であることは明白である。

5 原告ら各人の手記の記載について

(一) 原告P8について

(1) 別紙一の一二番

原告P8と同期入行の者の中にも、P14、P15、P16らのように夜間大学に通学して卒業した者がいる。また、同原告が配属されたα1支店においても、P17やP18のように当時夜間大学に通学していた者がおり、しかもP17は出納係に所属しながら通学していたことがある。確かに銀行業務に従事する傍ら夜間大学に通学するには、相当の情熱と努力が求められるであろう。しかしながら、要は本人の意欲の問題であって、「夜間大学へ通うことなどできるはずもなく、右通学を断念せざるを得なかったのである。」との主張が事実に反することは、右のとおり当時の被告の従業員の中に夜間大学に通学し、卒業した者がいることからも明らかである。「夜間大学への夢は『残業』の前に無残にも阻まれました。」「銀行の実態は、聞くと見るとでは大違い。」との記述等からして、本件出版物の記載部分が、被告では夜間大学への通学が不可能な程過酷な勤務実態にあったことを読者に訴える趣旨であることは明白である。また、右記載部分を目にした一般の読者が、その記述から、右のように受けとめることは明らかである。

(2) 別紙一の一三番

面接時、面接官が「大阪に行ってもよいか。」「大阪に骨を埋める覚悟はあるか。」と言った点については、当時の面接担当官が同原告に対して具体的に如何なる発言をしたのか定かでないが、仮に原告ら主張のような発言があったとしても、その趣旨は、故郷の高知から離れて大阪で勤務することが可能であるかと尋ねることであって、勤務地を大阪に限定するような趣旨の発言では決してないのである。なお、被告では、ローテーション等の過程で一時期出身地の支店に勤務する例は多く、α2支店においても昭和二四年ないし、昭和四三年(同支店は昭和四四年に廃店となっている)の間に同支店に在籍していた男子従業員六六名中三九名は高知県出身者であり、四国出身者という範囲で見ると四五名となる。

また支店での在籍期間、転勤先についての記載部分は、原告のα1支店の在籍期間は四年一ヶ月であり、前後の同支店配属の新入従業員と在籍期間はほぼ同程度である。例えば、名前を挙げられているP19は四年五ヶ月でα1支店から他の支店に転勤している。原告P8より先に入行したα2支店出身の従業員がいたにもかかわらず、同原告の方が先に高知転勤を命ぜられたことについては、記載の二名のうち、P19は同原告より先に昭和三一年一一月α2支店配属となっており、明らかに事実に反する。また、P20は同原告の一年前に入行しているが、必ずしも入行年度順にローテーションが行われる訳ではなく、このことから本件転勤が不自然視されるいわれはない。

さらに、転勤辞令を渡されるときα1支店のP21支店長が、「相談なしに希望転勤をしていたのか」と発言した事実はない。そもそもP21支店長のα1支店長在任期間は昭和二五年二月から昭和二八年五月の間であり、昭和三二年三月未に同支店長が同原告に転勤辞令を渡したり、記載のごとき発言をすることなどおよそあり得ないのである。しかも、被告には「希望転勤」などという制度はないのであって、同支店長が記載のごとき発言をするはずがないことは、この点からも明らかである。

加えて組合の大阪支部青年部運営委員に選任される矢先の転勤命令であったとの点についても、大阪支部青年部運営委員なる役職は組合から被告に通知されるような役職でもなく、かかる役職に就いていたか否かということと本件転勤とは何の関わりもないことがらである。被告では、例えば業務の拡大、退職者の発生、店舗の新規出店、統廃合などにより具体的なポストニーズが発生した場合のほか、顧客との公正な取引関係を保つ必要性や職員に幅広く業務を担当させる狙いなどから、いわゆるローテーション人事として頻繁に転勤が実施されている(但し、個々の期間にはばらつきがある)。従って、年間転勤者数も相当数に上っており、例えば、昭和三一年から同三四年の四年間でも五八〇〇名余りに上る(最近では従業員約一万四千名に対し年間四千名程度が転勤している)。また、同様の観点より、同一支店内での係替えなど転勤を伴わない配置替えも頻繁に実施されている。このローテーション、配置替えの実施にあたっては、その時々で個々人の能力、適性、キャリアなど業務遂行上の各種要因が勘案されるが、思想、信条や組合活動が要因とされることはない。記載の時期に同原告がα2支店へ転勤したのは事実であるが、これは、あくまで右のような通常の人事異動の一つとして行われたものであって、「不自然な転勤」であるとされるいわれはどこにもない。したがって、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。原告らは、同原告が「不自然な転勤」であると感じたことを記載したにすぎない旨主張するが、本件出版物の記載部分は単に同原告の主観を述べたようなものではなく、被告が同原告の組合活動を妨害する意図、目的のもとにあえて不自然な転勤を行なったとの事実を読者に訴えようとするものであることは一目瞭然である(一般の読者も、本件記載部分から、被告が不自然な転勤をあえて行なったと受けとめることは明らかである)。しかしながら、被告がそのような意図、目的のもとに不自然な転勤を行なったなどという事実はないのであるから、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一四番

P22支店長代理が記載のごとき発言をした事実はない。また、もとより被告が原告らの主張するような「分断」工作を行なった事実など全くない。本件出版物の右記載部分は、被告が記載のような分断工作を行なった事実を読者に訴えようとするものであり、また、本件出版物を目にした一般の読者がその記載から被告がそのような分断工作を行なったものと受けとめることは明らかである。しかしながら、被告がそのような分断工作を行なった事実など全くないのであるから、右記載は事実に反するものである。

(4) 別紙二の二〇番

被告では、具体的なポストニーズが発生した場合のほか、いわゆるローテーション人事として頻繁に転勤が実施されており、年間転勤者数は相当の数に上っている。原告P8がα2支店から本店営業部(大阪)に転勤したのは、α2支店に配属されてから、八年四ヶ月のことであり、あくまで通常の人事異動の一つとして行われたものである。また、労働協約上に定める組合役員であっても、必要があればその任期中に転勤を命じる例もあるのであって、決して異例なことではない。もとより、同原告についても、「あらかじめ組合の同意を要する。」とする労働協約の定めに従い、「組合の同意」を得たうえで、右転勤が実施されたものである。なお、原告らは、同原告が養子縁組を行ったことを挙げているが、養父母のいる従業員が転勤する例は、世間一般でも数多く見られるところであり、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるようなものでないことは明らかである。しかるに「その非情さにピープル・ズバンクのイメージが内側から音を立てて崩れる思いでした」との本件出版物の記載は、あたかも被告が不当な人事管理を行っているかのごとき印象を与え、被告が掲げていた「ピープルズ・バンク」のイメージを損なうものであって、被告に対する中傷・誹謗にあたることは明らかである。

(5) 別紙二の二一番、二二番及び同二三番

原告P8に対して組合活動を止めるよう示唆したという「上司」の氏名は特定されていないが、少なくとも被告が同原告の上司をしてかかる発言をさせた事実は一切存在しない。もとより、本店営業部営業二課への係替えと同原告の組合活動とは何の関わりもない。また、原告らは同原告が不当な仕事を指示されたかのごとく主張しているが、かかる事実もない。さらに、原告らは、「年下の主任」のもとで業務に従事したことを問題視しているが、昇格等の人事運用が能力主義、成績主義にもとづいて行われている以上、年齢の下の者が上司に任命されることは往々にして見られるところであり、こうしたことは原告らに限られたことではないのである。「三和版いじめ」等の記載が、被告を誹謗、中傷するものであることは明らかである。

(6) 別紙二の二四番及び同二五番

被告が原告らの主張するような「攻撃」を行ったり、昇格・昇給において不当な差別を行った事実は全くない。「私たちに対する、都銀他行に例を見ない極端な冷遇差別は、三和銀行が、労働者の民主的団結と要求運動を分断し、抑圧し、搾取強化を進めるためであり、職場の専制支配の道具にしようとしているからです。」との本件出版物の記載は、一般読者に対して被告が従業員を「抑圧」し、従業員から不当な「搾取」を行い、自由な活動を一切封殺して「専制支配」を行っているかのごとき誤った印象を与えるものであり、著しく被告を中傷・誹謗するものである。また、原告らが取り上げる平成二年五月二四日参議院祉会労働委員会でのP23労働大臣の発言は、あくまで「これらの資料だけでは状況がよくわからないので所感を申し上げることはできない」との前提に立つものであり、主張のごとき差別が存在することを労働人臣が認めたというものでは決してない。右の記載は、右の前提を故意に省略することにより、あたかも労働大臣が大きな「差別」のあることを認めていると思わせるものであって(少なくとも、これを目にした者にそのような印象を与える)、事実に反し、被告を誹謗中傷するものであることは明らかである。

(二) 原告P9について

(1) 別紙一の一八番

原告P9が東海支部執行委員及び情宣部長に在任中である昭和三九年の名古屋市内のα3支店から大阪のα4支店への転勤は、同原告がα3支店に配属されてから四年一〇ヶ月後のことであり、あくまで通常の人事異動として行われたものである。労働協約第九条第二項で異動について予め組合の同意を要するとされた、「主な役員」とは、労使の諒解事項で当分のうち組合の役員(本部役員)、支部長及び中央委員とされており、被告では、右以外の組合の役員については、人数も多く、組合から銀行に通知されることにもなっていないので、大量の異動を行うに当たっては特段の配慮をしていない。したがって支部執行委員や支部情宣部長など労働協約第九条第二項に該当しない組合の役員については、異動において特別に配慮されるような取扱いは一切なされていないのであって、このことは同原告に限ったことではない。また、原告らは、右転勤先が大阪であり自宅から通勤できなくなったことを問題視しているが、当然のことながら、自宅通勤が雇用条件になっていたわけではない。昭和三二年から昭和三六年までの五年間に名古屋地区の六ケ店に配属された新入従業員三七名のうち半数以上の二二名は東京もしくは大阪地区に転勤しており、その間に同原告と同様α3支店に配属された新入従業員六名のうち、現在在籍している五名について見ると、全員が東京地区もしくは大阪地区への転勤を経験している。ちなみに、同原告が入行した昭和三四年の一二月当時、被告の国内府舗一八七のうち、名古屋地区(愛知、岐阜)に所在したのは五店舗にとどまり、全体の八四%にあたる一五七店舗が関西地区もしくは関東地区に集中(関西地区一一八店舗、関東地区三九店舗)していた。

次に、同原告の翌年の東京α5支店への転勤も同様であり、前記労働協約の定めに該当しない組合代議員が任期中に転勤となる例は枚挙にいとまがないほどである。また、同原告が当時のα4支店においていかなる組合活動をしていたのか被告としては関知しないが、もとより右転勤と同人の組合活動とは何の関わりもない。確かに、同原告がα5支店に転勤したのはα4支店配属の一年後のことであるが、被告では、他の業種に比較すると人事異動が極めて頻繁に実施されており、一つの支店における在籍期間などにおいても相当ばらつきがある。一年ないし二年程度の比較的短期の在籍期間で転勤となる例は、こうした多数の人事異動の中で往々にして見られるところであり、同原告に限ったことではないのである。また、当時、被告では東京地区への進出に力を注いでいた時期であり、昭和三九年四月から昭和四〇年三月までの一年間に約一〇〇名の従業員が大阪地区から東京地区に転勤している。そして、店舗数も前述のとおり昭和三四年一二月当時は関西地区一一八店舗(全体の六三・一%)、関東地区三九店舗(全体の二〇・九%)であったが、右施策の結果一〇年後の昭和四四年一二月時点では、関西地区一一六店舗(全体の五六・〇%)に対し、関東地区は六六店舗(全体の三一・九%)となり、関東地区の比重が増している。なお、原告らは、「当時、同原告は、送別会などで支店の同僚から、『明らかに(組合活動を理由とした)不当な配転だ』とも言われているのである。」などと主張している。具体的に誰がかかる発言をしたのか明らかにされていないが、少なくともその当時、同支店において同原告の右転勤が問題であるなどとして取り沙汰されたようなことは一切ない。また、原告らは、同原告の右各転勤について、少なくとも同人がそう考える(組合活動を理由とするものであると考える)のは当然であると主張する。しかしながら、「私の、大阪での引き続く組合活動を嫌悪し、…今度は、東京のα5支店へ配転命令。」「こんな調子で、その後、私の組合活動と転勤は、ちょうどイタチの追いかけっこのように続いた」等の記述から明らかなように、右記載は単に同原告の主観を述べたようなものでなく、被告が同原告の組合活動を嫌悪して右各転勤を行なったとの事実を読者に訴えようとするものである。また、本件出版物を目にした読者が右記載から被告が同原告の組合活動を嫌悪して右各転勤を行ったものと受けとめることは明らかである。被告がそのような意図、目的のもとに右各転勤を行なったなどというような事実はないのであるから、右記載は事実に反するものである。なお、原告らは、「右手記部分の記載は『こんな私の活動を嫌ったのか』とあるのみであり、あくまで原告の推測という形をとっていることであり、この推測は合理的なものである。」と主張する。しかしながら、問題は本件出版物を目にした一般の読者がこうした記載からどのように理解し、どのように受けとめるかということである。些細な言い回しはともかくとして、右手記の記載部分、及び「こんな調子で、その後、私の組合活動と転勤は、ちょうどイタチの追いかけっこのように続いた」等々の記述からして、本件出版物を目にした読者が、こうした一連の記載から被告が同原告の組合活動を嫌悪して右転勤を行ったものと受けとめることは見易いところである。「こんな私の活動を嫌ったのか」という言い回しをしているのであるから問題視されるいわれはないなどという弁解は、言い逃れ以外の何ものでもない。

(2) 別紙二の二六番、二七番及び二八番

共働き夫婦の一方が遠隔地に転勤することにより、別居を余儀なくされる例は世間一般に数多く見られるところであり、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではない。しかも、原告P9については、東京のα5支店に転勤したのは昭和四〇年一月のことであり、原告らの主張によれば、同原告が結婚したのは右転勤から二年近く経過した昭和四一年一一月のことである。右事態は、結婚の時点で当然に予測されたことであり、まさに本人らが甘受すべきことがらといわなければならない。転勤はあくまで業務上の必要性にもとづいて行われるものであり、東京地区での採用も、同地区での採用計画にもとづき、その採用基準に照らして行われるべきものである。転勤等が従業員側の希望と合致しないことは、むしろしばしば見られるところであり、こうしたことは同原告に限られたことではないのである。また、私的な理由で転勤させることは組織ルール上も問題があり、仮に、同原告の要望に沿うような転勤を実施したときには、公正・公平な人事運用を図る以上、他の同種の事例でも同様の取扱いを行わざるを得ないことになり、結局は、夫婦が共に被告に勤務している場合は、常に夫婦単位で転勤を実施せざるを得ない仕儀となる。妻の転勤を要望するのは自由であるが、それが、受け容れられないからといって、「冷たく悪意に満ちた仕打ち」、「冷酷不当な仕打ち」と悪し様に言い立てるのは、余りにも身勝手な主張と言わなければならない。また、もとより、本件措置と同原告の組合活動とは何の関わりもないことがらである。右記載が被告を誹謗、中傷するものであることは明らかである。

(三) 原告P12について

(1) 別紙一の二〇番

原告らの主張によると、記載のP24次長、P25代理の言動は、就業時間外に、職場外(P24次長の自宅)でなされたとのことであるが、右両名は当時組合員であり、P24次長はかつて組合専従の経験を有している。右両名が組合員の立場で行なう一言動については、被告として関知するところでないが、被告が同人らをしてかかる言動をなさしめた事実はなく、かつ、同人らが記載のごとき言動をした事実もない。また、「その席から支店長に電話をかけて、原告P12に支店長と話をさせるという出来事があった」などという事実も全くない。そもそも、右の事実については、本件出版物では「入行して六か月」すなわち、昭和四一年のことであるとされているのに対し、大阪府地方労働委員会への救済申立書では昭和四二年とされ、さらにかかる言動がなされたという場所についても、「大銀行のわれら闇を照らす」では「支店長の家」とされているのに対し、本件訴訟においては「次長の家」とされる(原告準備書面二)など極めて食い違った内容となっており、本件出版物の当該記載が真実でないことを示している。原告らは、被告の指摘を受けて、「入行して六ヶ月経った頃に、P24次長から、銀行で、『貴君を青婦人部の役員にしたのは間違いだった』と告げられている。」「入行二年目には、業務終了後、P24次長宅に招かれ、P24次長から同様の記載の発言をされたもので、何ら食い違いはない。また、『大銀行のわれら闇を照らす』の中の指摘の部分は、原告P12がこれを執筆したわけではなく、単純な誤記であろう。」と釈明した。しかしながら、原告らの右主張は、被告から矛盾点を指摘されたため、苦肉の策としてなされたつじつま合わせの主張としか考えられない。

(二) 別紙一の二一番

原告らは、原告P12の実績を他の従業員に上積みした旨主張するが全くの事実無根である。当時「実績優秀ランキング」は、各外交が獲得した個人定期預金の残高の純増額によってその順位が決定され、毎月ベスト百人が発表されることになっていたが、昭和五九年九月のランキング(一〇月発表)に発表された者の内、原告P12と同一支店であったのはP26である。本件記載部分では、「二か月後だったと記憶しておりますが、Nさんは、支店長の思惑とおり、昇格しました。」とされているが、かかる事実もない(同人が昇格したのは、一年半も後の昭和六一年四月のことである)。被告が右の指摘をしたところ、原告らは、「原告P12の記憶違いであろう。」と述べて右主張の誤りを認めたが、なおも、「原告P12は手記において、『二か月後だったと記憶しておりますが』と自らの記憶に基づいて書いていることを明示しており、問題とされるいわれはない。」旨強弁している。しかしながら、本件出版物では、「二か月後だったと記憶しておりますが」との記載の後に「Nさんは、支店長の思惑とおり、昇格しました。こんな理不尽が許されていいのだろうか。私の実績は、Nさんの昇格要件を満たすために、窓意的、作為的に削られたわけで…」との文章が続けられており、支店長が不当な操作をしたとの主張を裏づける事実の一つとして、P26の昇格時期を取り上げているのである。「原告P12の記憶違いであろう」とか、単に自らの記憶を記載しただけで断定しているわけではないなどと言って片付けられるようなことがらではないのである。本件出版物の記載がいかにいい加減なものであるかは、こうした点にも如実に現れているといわなければならない。

(3) 別紙一の二二番

原告らが主張する自己申告書の当該意見欄に関しては、支店長が回答するルールになっており、これに従って現に回答がなされている。支店長から満足な回答がなかったのであれば、原告P12としては直接支店長などに対しかかる疑問を開陳したり回答を求めるなどしたはずであるが、かかる事実もない。

(4) 別紙一の二三番及び二四番

外国為替優秀外交の表彰は、原告らの言うような新規取引先の件数によって決定されるものではない。昭和五一年度下期外為優秀外交表彰基準は「1、取引先係員の国際化マインドの徹底、2、外為及び国内外交活動両面でバランスのとれた企業外交の強化、3、営業店外為取扱量増強に貢献した取引先係員の適正な評価」の三点に重点をおいて策定され、外為優秀外交に対する期待目標(期中一人当り)としては、α1支店のような規模の店舗では、「外為取扱高純増額(対前年同期比)二、〇〇〇千ドル」「内今期の新期実績五〇〇千ドル」「新規外為先獲得件数三件」とされていた。また、表彰の査定にあたっては、右期待目標のほか、「(1)国内貸掌握先の外為増減状況(前年同期比)、(2)外為連携件数(含む海外)、(3)旅行者外貨取扱獲得件数、(4)その他外交活動(業務木部の定める優秀外交表彰基準項目を参考)」等の項目を勘案することとされていた。右のとおり、外国為替優秀外交の表彰では、新規取引先の件数の多寡だけではなく、むしろ外為の取扱高純増額が重視され、その他右のような項目が勘案されて決定されることになっていたのである。昭和五一年度下期の表彰も前記のような基準に照らして公平、公正に行なわれたものであって、原告らが主張するような「差別的取扱い」がなされた事実は一切ない。原告P12の獲得してきた取引先がいずれも取扱高の小さな個人事業者ばかりであったのに対し、同原告が名前を挙げているP27は取扱高の大きな法人を手がけたものであり、右期中の取扱純増額は比較にならないものであった。

(5) 別紙二の二九番

前述のとおり、「実績優秀外交ランキングの発表」において、原告らが主張するようなことが行われた事実は一切存在しない。のみならず当該記載は、被告における人事権を「魑魅魍魎の世界」「犯罪的」と中傷・誹謗し、人事部の方針は、公正と実力主義を建前にしているものの、その実は差別化をすすめるものであると非難するものであって、被告における人事権の行使が須らく不当なものであり、公平・公正さを欠くものであるとの印象を一般読者に与えるものである。右の記載が被告を誹謗中傷するものであることは明らかである。

(6) 別紙二の三〇番

「二つの支店にわたって自分(原告P12)の実績を削って他の従業員の実績に上積みされるという事件」など存在しないことは、既に述べたとおりである。のみならず、「不公平、不公正な査定が行われていること」「永久に正当な評価を期待できない」「人事部の言う公正な査定は、著しく歪められ、『はじめに支店長の思惑ありき』であり、思惑先行の査定になっている」等々の記載は、被告における査定制度全体が極めて不公平、不公正に行われているとの印象を一般読者に与えるものであり、被告を誹謗、中傷するものであることは明らかである。

(7) 別紙二の三一番及び三三番

繰り返し述べてきたように、職員に対する処遇は、個々人それぞれの職務遂行能力、その発揮度合いなどにより、公正に決定されており、「不当な差別」が行われた事実はない。また、前述のとおり、同原告の実績を削り、他の従業員の成績に上積みしたような事実は一切ない。右記載は、被告では不当な差別が横行している旨訴えるものであり、被告を誹謗、中傷するものである。

(8) 別紙二の三二番

被告においてサービス残業が蔓延しているような事実や被告がサービス残業を強制している事実、原告P1が職場の雰囲気について述べているような事実、年休の取得について上司が嫌がらせをする事実、時間外にQC活動を行うことが常態化している事実、労災職業病が蔓延している事実などはない。また、如何に弁解しようとも、「乾いたタオルを絞るという表現がまさにピッタリの締めつけが、有無をいわさず、専制的に職場を支配し、『職場に憲法なし』の状況が確立されています。」「こうして治外法権化した職場では、正常は異常化し、異常が正常化するのです。」「人権の主張はタブーとなり、良心と自由は、肩身が狭くなっています。」「労働者は絶対服従を余儀なくされ、人間的な要求や叫びは、その一片も拒否されており、…奴隷状態に置かれているのではないでしょうか。」「犯罪とさえ言える労働対価の不払いは、当然のようにして、日常茶飯事になっています。」「病人を出すほど締めあげた支店長は、その責任を問われないばかりか、かえって出世にとっては勲章となり、社会的に見れば、犯罪に問われてもおかしくない行為が、銀行内部では名誉となり、非常識が開歩し、常識の尺度が排除されるのです。」「無権利とただ働きの『定着化』トップバンクの必要条件」「天誅を待つほどひどし我職場」等々の本件出版物の記載が被告を誹謗、中傷するものであることは明らかである。

(四) 原告P10について

(1) 別紙一の三三番

原告P10の名古屋から東京への転勤は、同原告が入行して三年余り後のことであり、当時名古屋地区の六ヶ店に配属された新入従業員のうち相当数の者(約四分の一)は東京地区に転勤している。昭和三六年に名古屋地区の六ヶ店に配属された新入従業員(男子)は大卒三名、高卒一二名計一五名であり、そのうち東京地区に四名が、大阪地区に七名が転勤となっているのである。原告らは東京地区にのみ焦点をあてて論じているが、転居を伴う異動という点では東京地区でも大阪地区でも変わりはないのであって、右のとおり、当時の新入従業員一五名中一一名(七三%)が右両地区のいずれかに転勤しているのである(しかも、残る四名中一名は浜松に転勤となり、さらに一名については転勤先が名古屋地区とはいうものの従前の勤務地が岐阜であることから、同様に転居を伴っている。従って、転居を伴う転勤という点では一五名中実に八七%にのぼる一三名が該当しているのである)。また、原告P10は東京事務部α6分室において割引用手形の集中管理業務等に従事しており、原告らが主張するような同原告が従事する仕事がほとんどなかったなどという事実はない。東京から大阪への転勤も右分室配属の約三年後に行なわれたものであり、昭和四二年度に東京地区から大阪地区へ転勤した者は九〇名余りにのぼっている。なお、同原告が東京で配属された部署は、昭和四二年三月末に別会社組織の東洋コンピューターサービス株式会社(TCS)となり、所属課員は同社に出向の形となったが、昭和四二年中には右TCSから他の部署に同原告を含めて三名が転勤している。また、原告らは同原告の組合役職のことを問題視しているが、労働協約の定めに該当しない組合役員については、異動にあたって特別の取扱いがなされるようなことはないのであって、このことは同原告に限ったことではないのである。しかも、原告らの主張によれば、転勤したのは組合役職から外れた後のことであるから、この点においても問題とされる余地は全くない。なお、原告らは、P28所長(東京営業所)やP29支店長(α7支店)から記載のごとき言動を受けた旨主張している。

右両名はすでに被告を退職し、あるいは死亡しているため、事実関係は定かでないが、少なくとも当時右両名が記載のごとき言動を行ったとして問題になったようなことは全くないのであって、右両名がかかる言動を行ったとは到底措信し難いところである。いずれにしても、同人らの言動と右転勤とは何の関係もない。右のとおり、「東京から大阪へ不当転勤。」との本件出版物の記載部分は事実に反するものである。なお、原告らは、「原告P10がこれを『不当転勤』と考えるのは当然である。」と述べ本件記載部分が単に同原告の主観を記述したにすぎないと主張するようである。しかしながら、右記載が単に同原告の主観を述べたようなものではなく、被告が同原告に対し「不当な転勤」を行なったとの事実を読者に訴えようとするものであることは、その記載内容からして明らかである(また、本件出版物を目にした読者も、右記載から、被告が「不当な転勤」を行なったものと受けとめることは明らかである)が、既に述べたとおり、被告が不当な転勤を行なったなどという事実はないのであるから、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(2) 別紙一の三五番、三八番及び三九番

原告らが指摘している昭和五六年一〇月六日付人事部長通達(昭和五六年度下期の時間外勤務管理について)はあくまで、「職員の健康管理の徹底と一層の経営効率の向上をはかる」との観点から時間外勤務の削減を目指したものである。また、昭和六一年九月二二日付人事部長通達(昭和六一年度下期の時間外ガイドライン並びに「時間外勤務及び連続休暇管理計画」提出依頼の件)も、「職員の健康管理面をも配慮したメリハリのある執務管理の徹底」を呼びかけ、「連続休暇についても、時間外管理と同様に現状を見直し、いやしくも期の後半の集中や取得洩れ等の発生しないよう、ご配慮願います。」と述べ、休暇取得についても一層の配慮を求めているのである。右通達が逆にサービス残業を惹起せしめているかのごとき主張は全く事実に反するものである。また、自発的に始業時刻前に出社したり、自己の判断で終業時刻後も在社することはあり得るが、少なくとも被告が「サービス残業」を強制したとか、時間外労働を指示したにもかかわらずこれに相当する賃金を支払わないなどといった事実はない。したがって、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。原告らは、「被告においては、仕事量の削減がなされないまま時間外勤務のガイドラインの設定…などが行われたため、必然的にサービス残業が発生してきているのである。」と主張する。しかしながら、被告では、機械化や業務手順の見直し等により常に効率化を実施し、それに見合う人員を配置しているのであって、「必然的にサービス残業が発生してきているのである。」などという主張は事実無根も甚だしい。

(3) 別紙一の三五番

記載のごとき方針、指示が出された事実はなく、「サービス残業が強制されていた」ような事実も全くない。当時α8支店では、期初に残業時間の目処を設け、一人一人が右目処時間を超えないように残業に就いていた。管理者もダラダラと残業をすることがないよう従業員を指導していたが、サービス残業を強いたような事実はない。本件出版物八五頁記載の表についても、原告P10以外には氏名が特定されておらず、本件出版物を見る限りでは事実関係は定かでないが、同表が単に記載の者の一定時期の時間外勤務消化状況を示すだけでなく、これによって同支店が一般的にかかる状況にあること、すなわち、サービス残業が一般化していることを読者に訴えようとするものであることは、本件記載の内容からして明らかである(また、本件出版物を目にした読者もそのように受けとめることは容易に看守されるところである)。

(4) 別紙一の三四番、三六番、三七番及び四〇番

α8支店からα9支店への転勤は、原告P10がα8支店に配属されてから四年四ヶ月後(昭和五七年八月)のことであり、同時期(昭和五七年七月から昭和五八年七月までの間)にα8支店から他の支店に転出した者は、男子従業員三二名中一〇名にのぼる。また、通勤時間の点で見るならば、同原告宅からα8支店までは約一時間一〇分、α9支店までは約五〇分という状況であり、むしろ右転勤により通勤時間が短縮されている。さらに同原告は昭和五九年八月に右α9支店からα10支店へ転勤しているが、この時期(昭和五八年七月から昭和五九年七月までの間)にα9支店から他の支店に転出した者は男子従業員二八名中一三名にのぼっており、通勤時間の点でも右転勤の前後で遜色はない。右各転勤について不当視されるいわれはどこにもない。「時間外の正確記入をつづけた」ことによって二回にわたり転勤がなされたとする本件出版物の記載部分が事実に反することは右の点からして明らかである。

(5) 別紙一の四一番

本件出版物九一頁の表については、支店名が表示されておらず、氏名も融資A、外交B、外交Cといった形で特定されていないが、原告らが主張するように「月末が近づくにつれ・・・時間外勤務をしても勤務報告書には時間外勤務をつけない日が出てくるという実態がある」などという事実は全くない。本件出版物の同表の記載は、単に同表に記載された者(右のとおり、A,B,Cというような匿名表示がなされている)の特定の時期の状況を示すという趣旨にとどまるものではなく、これによって被告では一般的にかかる状況にあることを読者に訴えようとするものであることは本文の一連の記載からして明らかである(一般の読者もそう受けとめるであろう)。いずれにしても、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(6) 別紙二の三六番

被告においてサービス残業が常態化しているとか、被告がサービス残業を強制しているとかいった事実がないことは、これまで主張したとおりである。また、原告らが指摘している時間外勤務のガイドラインなるものは、「職員の健康管理の徹底と一層の経営効率の向上をはかる」との観点から、あくまで時間外勤務の削減を目指して設定されたものであり、右通達が逆にサービス残業を惹起せしめているかのごとき主張は全く事実に反するものである。もとより、被告が時間外労働を指示したにもかかわらず、これに相当する賃金を支払わないなどといった事実はない。さらに、「月末が近づくにつれ、・・・時間外勤務をしても勤務報告書には時間外勤務をつけない日が出てくるという実態があるのである」などという事実は全くない。前記記載は、被告では、サービス残業が常態化しており、時間外勤務をしても勤務報告書にはこれを記入しないことによって表面上残業時間が削減しているような体裁を取り繕っているにすぎないというものであって、被告では一般的にかかる状況にある旨を読者に訴えようとするものである。かかる記載が事実に反し、被告を誹誘、中傷するものであることは明らかである。

(五) 原告P30について

(1) 別紙一の四二番及び四四番

被告においては、女子従業員が結婚したことを理由に係替えをするような事実はない。当時女子従業員については、入行後、各係の人員の必要性に応じてそれぞれ配属され、出納係にも定期や為替の係と同様に配属されたのであって、各係間に原告らのいうような優劣関係はない。出納係は、入行一、二年目の従業員だけで構成されている訳ではない。同原告は、出納係で硬貨整理や新入男子従業員との集金などの業務に従事したことが嫌がらせである旨張するが、当時α11支店では、同原告を含め三名の女子従業員(その後四名ないし五名になった時期もある)が、硬貨整理など元方の補助業務に従事していたのであり、また、集金についても、担当者が大変な時に、同原告に限らず、他の係員で手分けして手伝っていたのであって、同原告だけがことさら異なった取り扱いを受けていたような事実はない。さらに、原告P30は入行後主として電話交換業務に従事していたが、当時α11支店では同業務から他の係に係替えとなる場合には、出納係配属となるケースが多く、こうしたことは同原告に限られたことではなかったのである。右係替えが「嫌がらせ」であるとする記載は事実に反するものである。

(2) 別紙一の四五番

原告P30が「硬貨の入ったドンゴロス(麻袋、一袋二〇キロにもなります)を、金庫から出したり入れたりなどの作業」に従事して、相当の負担を強いられたかのごとき記載は事実に反するものである。当時、α11支店では、硬貨の入ったドンゴロスの出し入れは朝夕にしか発生せず(日中に追加して出しても一、二本であった)、従って、仮に同原告が右ドンゴロスを持つことがあったとしても、極めて稀なことであった。しかも、金庫は元方のすぐ後方にあり、ドンゴロスを「運ぶ」というより「出す」というものであったのだから、出し入れが相当の負担になるという状況ではなかった。さらに、同原告については、当時妊娠していたことから周囲の者も気をつかい、常日頃「無理はしないよう」と言って庇っていたのが実情なのである。原告らも、「他の従業員が外へ出かけていなかったり、また、自らの担当事務を処理していたりしていた時には、原告P30がドンゴロスの迦搬作業をやらざるを得ない状況にあったのである。」と述べており、原告らの主張自体からも、ほとんどの場合には他の従業員が右業務にあたり、ごく例外的に同原告が右業務に従事することがあったという実態が伺えるのである。

(3) 別紙一の四六番

右部分に記載されているP31代理はすでに死亡しているため、同人に対して事実関係を確認するすべもないが、少なくとも当時同代理が記載のごとき発言を行ったとして問題になったようなことは全くないのであって、同代理が、「嫌がらせの電話」をしだなどとは到底措信し難いところである。もとより、被告が同代理をして「嫌がらせの電話」をさせたような事実は全くないのであるから、右記載は事実に反するものである。

(4) 別紙一の四七番

原告ら主張のP32が第一子出産後出勤した時に、席がなかったとの記載については、産前産後の休業が一定期間にわたらざるを得ないため、その間の業務を処理すべく、被告が代替者を手配し、その者が従前の同人の机を使用していたにすぎないのであって、被告が故意に嫌がらせをしたようなものでは決してない。また、外国部事務センターのP33代理が、P32に「やっぱり辞めるつもりはないか。」と発言した事実はない。さらに当時α12)支店外為係は、主任のP34とP32しかおらず、P32が産前産後の休業に入ったために、P35が代替者として配属され、以前P32が使っていた机を使用していたにすぎない。P32の出勤後、P34と机を並べる形で新たにP32の机を配置したことはあるが、本件出版物の記載のように「壁に向って」とか、あるいは右主張のように「他の人とは離れたところ」に配置したということはない。「電話もない」との主張についても、当時電話は一人一台という状況ではなく、二人で一台を共用していたのは同人に限ったことではないのであるから、事実に反するものである。また、本件出版物には「毎朝、椅子がないので、あっちこっち探して、自分の椅子を用意するのです」とも記載されているが、そのような事実もなかったのである(そもそも「壁に向かって、机と椅子が用意され(た)」と言いながら、その一方で「毎朝、椅子がないので、あっちこっち探して」などという本件出版物の記載は矛盾しており、事実と反することは明白である。)。加えて、第二子出産からの出勤後、P32にはP35と同様に外為係の業務を分担させたのであり、仕事の中には書類の綴りや整理も一部合まれていたのは事実であるが、雑用ばかりさせていたかの如き当該部分の記載は全く事実に反する。

(六) 原告P7について

(1) 別紙一の五〇番

原告P7は昭和四〇年ころに職場内の労演に参加したり職場の組合集会に積極的に発言するようになると、一年先輩のP36や他の同僚・後輩も仕事以外で話さなくなったというが、原告P7が昭和四〇年頃から労演に参加したかどうか、組合集会で積極的に発言するようになったかどうかは、被告は、これを認識しておらず、これを理由に差別攻撃をしたことはない。また、集金係りへの係替えについては、集金係の位置付けは当該店の環境や取引先構成などによって異なっており、一概に新入従業員の担当ということはできない。α13出張所では、顧客の大半が二〇〇店もの仲買人であることなどから、三ないし五名の集金係がおり、新入従業員を含む若手従業員が中心ではあったが、昭和二六年入行で、原告P7より一〇年以上業務経験の長い者も原告P7と同様に専ら集金を担当をしていた。同人は組織上は外交係に属していたが、外交係のかたわら集金を担当をしていたものではない。同原告の係替えもその時の人員構成や業務歴などを勘案して決定したものであり、同原告以外にも三名の者が担当していた集金係への係替えをもって、通例の配転でないということはできない。さらに原告P7の定期昇給における格差は公正な査定によるものである。原告P7は、昭和三七年に被告に入行したが、当時被告では入行後暫くしたした後は、人事考課の結果、勤務態度や能力の発揮度合いなどに応じて定期昇給に格差が生じ、以後、勤務年数が長くなるにつれ、人事考課の評価の幅も広がっていた。それ故、前年同額の定期昇給額であったとしても、翌年同額の定期昇給が受けられる保証はなく、同期入行の同僚と格差が生じたとしても、それは公正な査定結果によるものである。

(2) 別紙一の五一番

P37課長代理が、P38をして原告P7について「あいつはアカやから近づくな」とか「話をするな」などといわせた事実は全くない。しかも、原告P7は本店営業部において通常の銀行業務に従事しており、その業務を処理する上で現物(現金、小切手、金銭消費貸借契約書など)に触らせないことは不可能であり、P38がこのような発言をしたことは到底信用しえない。

(3) 別紙一の五二番

原告P7が本店営業部取引先課において情報連携の業務をP39代理と担当していたことはあるが、その業務は情報収集と連携用紙への記入で、両名とも相当量の仕事があり、業務の繁閑があったとしても、全く仕事がないということはあり得ず、同原告の手記の「まったく仕事のない日があり」との記載は、事実に反するものである。また、P39代理は原告P7と仕事上の話や日常会話を普通に行っていたが、本件出版物に記載されているように、殊更同人の人生観に探りを入れることなど行なっていない。P39代理と原告P7以外の取引先課のメンバーが営業時間中に外に出ていくことは業務の必要性によるものであり、業務の性格上、二人だけ残っていたとしても、これをもって隔離ということはできない。また、原告らが認めるように、原告P7の仕事は自ら情報源を探さなければならない仕事であり、もし、仕事が全くない日があったとすれば、それは、原告P7が自ら探すべき情報原を見つけ出せなかったか、見つけ出さなかったものである。

また、P39代理が原告P7から「もう少し他の仕事らしい仕事をさせて欲しい」と要請された事実はなく、同原告の手記の記述は事実に反する。

さらに同原告が、取引先課のある代理から「君は製糞器だ」とからかわれたとの記載については、発言者や発言時期、その経緯が特定されておらず、発言の有無、趣旨は不明であるが、少なくとも被告がこのような発言をさせたことはない。以上のように、被告が原告P7を隔離し監視し、「職場の従業員から孤立させるように仕向けてきました。」との本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(4) 別紙一の五三番

当該記載のP40が原告P7を避けたことはなく、またP41代理から「P7と一緒に卓球をするな」などと、言われたこともないのである。被告の意を体した上司が他の従業員と原告P7との接触を断ち、同人を孤立させる意図で攻撃をかけた事実はない。明らかに本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(5) 別紙一の五四番

被告と被告従業員組合との「頸肩腕障害者のリハビリテーションとしての出社に関する覚書」では、リハビリ出社はあくまで治療行為としての訓練であり、その実施する訓練の内容は医師の指示に従うものとされている。原告P7の主治医であった西淀病院のP42医師は、同原告のリハビリ出社に関し、その訓練時間を一〇時から一五時までとし、その内に休憩時間を約二時間とること、訓練日を週四ないし五日とすること、作業内容として、自己のペースで必要な自発休養が取れ、身体同一部所の動作の反覆繰り返しはなるべく避け、一定の限度内で多様性があること等を指示していた。被告は、このような厳しい制約の中で、同原告に作業を指示していたのであり、このような条件でのリハビリ出社では、同原告に一般従業員と同じような作業を指示できないのは明らかである。周りの同僚従業員が忙しく立ち働いていることと対比すれば、暇な状況であったことは間違いないが、それは厳しい制約の下での訓練のための出社であることから、やむを得ない措置であり、同原告も納得していたものである。リハビリ出社中の作業指示をもって非人間的扱いとする本件出版物の記載部分は、明らかに事実に反するものである。

また、当該記載部分のP43支店長、P44次長の行為については、その時期、具体的状況は明らかでなく、その真偽は定かでないが、当時α14支店の食堂は二〇名程度が着席できる大きさのテーブルが一つあるだけで、支店長、次長を含む従業員は相席して食事をとっていたのであり、たまたま同席した際の支店長、次長の一挙動をもって非人間的扱いと断ずることは、論理の飛躍である。したがって、本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(6) 別紙一の五五番

当該記載部分の記述を素直に読めば、中級業務試験に二科目以上合格すれば当然に主任書記に進級するにもかかわらず、原告P7だけが進級しなかったと理解されるが、中級業務試験二科目以上の合格は、主任書記への進級の必要条件であっても、十分条件ではなく、中級業務試験二科目以上の合格者の中には、同原告以外にも、主任書記に相当期間進級していない例も多数ある。現に、中級業務試験を二科目以上合格し七年以上主任書記に登用されていない者は、平成六年二月末現在五〇名もいたのであり、自らの処遇を差別的取扱いとした本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(7) 別紙二の三七番

①α13出張所での青婦人部活動を嫌悪した仕事差別、賃金差別一別紙一の五〇番)、②本店営業部(営業第一課)での誹謗による隔離、見せしめ(同五一番)、③本店営業部取引先課での仕事差別による隔離、見せしめ(同五二番)、④α15支店での隔離、見せしめ(同五三番)、⑤頚肩腕障害に罹患した原告P7に対する仕打ち(同五四番)にの各記載が事実に反することは、これまで明らかにしてきたとおりであり、事実に反するこれらの記事を根拠に、被告の名誉、信用の殴損に繋がる一陰湿な反撃」「幾多の攻撃」「いじめられた状態」と表現することは、被告を誹謗するものであることは明らかである。また、原告P7の処遇は、あくまで同人の職務遂行能力、その発揮度合いなどによるもので、差別と言われる筋合いのものではなく、これらを理由に前記の表現をすることも、当然に誹謗に該当する。

(七) 原告P2について

(1) 別紙一の六四番

多くの従業員が定型的な内部事務を経験する中で、能力を向上させて判断業務を中心に従事するようになることは事実であるが、それは能力の伸長が前提であり、これを無視して業務を担当させることはない。原告P2も入行後、内部事務のみならず、外交係、為替係、外国為替係などを経験しており、出納(資金)元方だけに従事したものではない。同原告にも種々の業務を担当させたが、同原告は、判断を要する事象に積極的に取り組もうとせず、また、能力の伸長が見られなかったことから、非定型的判断の業務に適さないものと判断せざるを得なかったので、定型的判断の多い業務である資金元方の業務を担当させているのである。また、現に被告に在籍する従業員のうち、資金元方を一〇年以上経験している者は、同原告以外に五二名もおり、最も長い者は二三年四ヶ月である。仕事における差別とする本件出版物の記載部分は、明らかに事実に反するものである。

(2) 別紙一の六五番

被告では、業務の拡大、退職者の発生、店舗の新規出店、統廃合、ローテーション人事などにより、転勤が頻繁に実施されており、その際には、個々人の能力、適性、キャリアなど業務遂行上の各種要因が勘案されるが、組合活動が要因とされることはない。加えて、原告P2は、昭和四〇年及び同四一年に中央代議員に選出されて後に被告の攻撃を受けたかのように記載しながら昭和三九年の転勤例をその根拠にしており、これをもって組合に対する攻撃とする本件出版物の記載部分は矛盾し、明らかに事実に反するものである。

(3) 別紙一の六六番

原告らは、行事に干渉したのはα16支店のP45次長であると主張するが、同次長がα16支店に在籍したのは、昭和三七年四月から昭和三九年一月までの間であり、同次長が昭和四〇年二月の映画会に干渉したり、同月のスケートや昭和四三年の名演の参加について圧力をかけたりすることなどありえず、本件出版物の右記載部分は事実に反するものである。

(4) 別紙一の六七番

α17支店がα18山荘の利用申込書に許可の判を押さなかったことも(α17支店の女子従業員がスキー旅行でα18山荘に宿泊したのであれば、支店長が利川申込書に許可の判を押したことは間違いない)、P46が監視役として参加した事実もない。α17支店の支店長が同原告の組合役員への立候補の予定を知る由もなく、同原告の役員選挙について他の組合員への働きかけを理由に施設の利用に何色を示したり、監視役を参加させることなどあり得ない。

さらに、誰が分会長に立候補するかは組合内部の問題であり、被告とは無関係である。仮に組合員である役付者らが選挙活動をしたとしても、これをもって被告の職制(被告において職制なる用語は使われておらず、その定義、範囲は不明であるが)を使った選挙干渉であるとすることは誤りである。以上のように、被告が選挙、干渉を行ったとする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(5) 別紙一の六八番

組合青婦人部の役員は被告に通知される役職でなく、被告が原告P2を含む三名を青婦人部の活動家であることを理由に、転勤させることなどあり得ない。次長以下の役付者が組合員であるとしても、被告はそれらの組合員を通じて組合役員を把握することなど行っておらず、全国各支店にいる組合役員を組合活動を理由に転勤させることなど一切ない。本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(八) 原告P47について

(1) 別紙一の七〇番

まず、タイプ係りから印刷係りへの係替えについては、そもそもタイプ印刷係とは別に印刷係という係はなく、従って、原告P47がタイプ印刷係から印刷係に係替えになったというのは、係内の担当業務が替わったことを指すものと思われるが、この担当替えを「嫌がらせ」と記載することは、次の点で事実に反する。同原告が出産のため産前産後休暇をとった後、同原告が従前担当していた英文タイプには代わりの担当者を配置し、人員を補充していたので、同原告が産後休暇明けで出勤した時には他の仕事についてもらったにすぎないのであり、この担当替えについては事前に本人に説明し、同原告も承知していたものである。また、印刷担当にしたのは、その業務が、印刷物のセット・発送など負担の軽い仕事であるため、同原告の出産後の負担軽減をも意図したものである。タイプ作業は、忙しくなると間違えないよう気を遣うなど、精神的プレッシャーが大きく、時間外勤務も増える仕事であったのに対し、同原告が担当した印刷物のセツト・発送の仕事は、紙さばき、帳合、ホッチキス留めなどの比較的単純で簡単な仕事で、労働負荷は軽く、時間外勤務もほとんどない上に、座ってできるもので、身体的にも負担を与えるものではなかった。同原告が「印刷機の前に毎日一日立ちっぱなしで、何百枚の印刷物作りで、手はインクで汚れ、」と書いている仕事は、印刷機械の担当者が行っていたものであり、印刷物のセット・発送の担当であった同原告の仕事の説明としては事実に反している。

次に、昭和四九年の次女出産時の記載についても、原告P47が担当していたのは、座り仕事である紙さばき、帳合、ホッチキス留めなどであって、当時立ち仕事、印刷物の束を持ち運ぶなどの業務は他の従業員が行なっていたのであり、被告が同原告を労働基準法六四条の五に定める妊産婦等に係る危険有害業務に就かせたことはない。そして、気送管中継の作業は、手の空いた従業員が行っており、同原告も従来からやっていたのであるから、妊娠中に特別に願い出て担当したという訳でもなかった。また、同法六五条三項は「使用者は、妊娠中の女子が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。」と定めているが、そもそも原告は業務の転換を請求していない(この点は原告らも争わないようである)のであるから、被告が労働基準法上配慮をしなかったとの主張は失当であるし、被告としては、そもそも負担の軽い作業を担当させていた同原告に対し、同原告からの申出もないのに、重ねて軽作業への転換を配慮する必要もなかったのである。このように必要のない配慮をしなかったことや本人から求められていない転換を行わなかったことをもって、「嫌がらせ」と表現することは事実に反するものである。

(2) 別紙一の七一番

α19支店における仕事の分担に関する当該記載部分について、原告P47の営業店の勤務がはじめてであったこと、妊娠中であり産前産後休業が予定されていたことから、とりあえず負担が軽く代替性のきく業務を担当させたのであり、従って、これらの業務について、上司に対し同原告から、差別されていたとか、他の人と区別しているとか、申し入れがあったこともないのであるから、これをもって隔離策であるとすることは失当である。

次に食事については、営業店では三交替で食事をとるため、最初に昼食をとる組は一一時からになっており、原告P47だけ特別の取扱いがされたものでもない。机の配置についても、当時、融資課の担当者の机は担当別に稟議方、事務方、ローン等の三つのブロックに分かれていたが、課全体としては一つのまとまりになっていた。同原告は初めての営業店であり、しかも仕事を覚えなければならない状況の中で、顧客との応対が無理であることから、稟議方の補助として、稟議方のブロックで、資料のそばにある机を与えたのである。これに対し他の女性従業員は、事務方やローン等の担当者として、来店する顧客との応対を行っており、このような業務の都合上、窓口に近い場所の机を与えられていたものである。このように、机の配置も機能面を重視して、同原告の業務に使用する資料に近い場所が選ばれたにすぎず、他の女子従業員と隔離したり区別するために決定したものではない。また、窓口に近い女性の席と離れていたといっても、同じ融資課の一つのまとまりの中での配置であり、ほんの数メートル先には事務方の女性従業員がいたのであるから、他の女性従業員と顔も合わせない場所であったという主張も事実に反する。さらに原告らの主張する「P47さんはみんなと考え方の違う人だから」として、同原告に対する隔離策については、かかる発言をした者、その時期、発言した相手方など具体的状況が明らかでないため、反証の仕様もないが、被告がそのような理由で同原告を区別する方針をとったことはない。

(3) 別紙一の七二番

まず、原告P47の定期昇給額は仕事ぶりや業務実績による査定の結果によるものであり、産前産後休業を取得したことがその理由ではない。原告らは、被告が産休・生休を「欠勤」として取扱っているとも主張するが、被告においては産休、生休を有給として取扱っており、無給欠勤として取扱った事実はない。もちろん、被告が産休・生休を理由に進級・昇給上の不利益扱いをしたこともない。次に、被告が有給休暇取得の理由を書くよう指示したことはなく、P48代理の発言は、同人が既に死亡していることから確認できないが、少なくとも被告が指示して右の如き発言を行わせたことはない。

(九) 原告P49について

(1) 別紙二の七三番

被告においては、担当する業務は従業員の能力、適性に応じて決定されるものである。α7支店において、原告P49の能力に応じて担当業務を付与した結果、主として派出業務を担当することとなったものであるが、このようなことは同原告に限ったものではない。担当業務の付与は従業員各人の能力に応じて決定されており、能力伸長を無視して経験年数だけで担当業務が決定されることがないことは、従業員の誰もが理解していた。原告P49が担当業務について差別と感じるのは当然であるとの原告らの主張は、原告P49が主観的な印象だけで本件出版物に「差別」と記載したことを物語るものであり、相当な理由もなく「差別」と表現することは事実に反するものである。

(2) 別紙一の七四番

年間に多数の転勤が行われる被告において、在籍期間にはバラつきがあり、在籍一年での転勤は短い方ではあるが、原告P49に限ったことではない(昭和四二年一月一日から同四三年一二月末までの二年間に在籍二年末満で転勤した例は六一件ある)。また、出身地以外や地縁のない支店への転勤も異例なことでもない。支店長の「札幌は涼しくて、ええやろ」との発言がどのような状況で行われたか不明であるが、その発言の趣旨を原告らが主張する冷たい言葉と断定することもできず、これらをもって「まったくの異常な転勤」とする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(3) 別紙一の七五番

原告P49の二級進級が他の大半の同期の者より半年遅れたのは、正当な能力査定の結果であり、「差別」によるものではない。また札幌への転勤については、多数の転勤が行われる被告において、通常の異動の範疇であり差別的取扱いではない。さらに寮の代表とは総務幹事を指すものと考えられるが、これに年長者が機械的に就任することはない。しかも、一年間据え置かれたとの原告らの主張によれば、原告P49も就任していると考えられ、これをもって差別ということはできないはずである。加えて親睦会は支店で様々な方法により運営されており、その行事の運営に適任の者を幹事として任せているが、一年九ヶ月しか在籍しなかった原告P49が選出される機会がなかったとしても、これを差別とすることは論理の飛躍である。以上のように、原告ら主張の事実をもって「差別」とする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。加えて「今度来る人はいろんなことがあったらしいから、気をつけてほしい」旨支店長が発言したことはなく、これをもって「差別」と記載した理由となることはない。そもそも、原告らの主張によっても、「後に同支店の同僚から聞かされ(た)」というものであって、およそ根拠のないものである。

(4) 別紙一の七六番

当該記載部分の「詮索」がいかなる事実を指すか明らかでないが、α20支店の次長、支店長代理が女子職員に対し、同原告の活動を探る目的で詮索を行なった事実はない。また、被告は原告P49が女子職員の相談役として活動していたことを承知しておらず、被告が同原告の活動に干渉することはありえない。「銀行はこれらの私の活動に、上司を通じて露骨な干渉を加えてきました」とする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(5) 別紙一の七七番

被告が、本件出版物に記載されるような宣伝をさせたことや尾行させた事実は全くない。また、P50なる者は当時、α21支店に勤務しておらず、同人からの伝聞がα21支店における宣伝や尾行の事実の裏付けにならないことは明白である。原告P49の手記に伝聞として記載されていたとしても、それは前後の記述からして、そのような話を聞かされたという事実の記載ではなく、被告がかかる宣伝や尾行を行なったと読者に訴えようとするものであり、一般の読者もその趣旨に受け取ることは明らかであって、本件出版物の記載部分は明らかに事実に反するものである。

(6) 別紙一の七八番

原告P49がα7支店おいて約五年間派出業務を担当していたことは仕事上の差別と言われる筋合いのものではなく、これを差別とする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(7) 別紙一の七九番

P51支店長が、当該記載の時期に原告P49から右のような要請を受けた事実もないし、また苦情処理のタイミングについて助言したこともないのであり、本件出版物の記載部分は、事実に反している。

(8) 別紙一の八〇番

私企業が業務運営を効率化するということは当然なことではあるが、当時、被告が集金業務を網羅的に廃止する方針をとったことはない。銀行は一種のサービス業であり、当然のことながら、他行との競合、その様な集金の担当者を設置することが、被告の方針に真向から反する非合理的なものであったということはない。また、「集金先リスト」に関していえば、原告P49への引継ぎや上司の管理上、定例的に集金する取引先を一覧性のリストに作成しただけであり、業務上不必要なものであるとか、作成に多くの時間を要するものでもない。α1支店における原告P49の担当業務をもって、仕事上の差別といえないことは前述したとおりであり、本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(9) 別紙一の八一番

被告が原告P49から本件出版物記載のような要請を受けたことも、「自己申告」中に明確にそのような記載があったこともない。当時、被告における教育は職場教育(OJT)が中心で、集合研修は限られていた。同原告も資格や担当業務に応じて行われていた集合研修は受講しており、除外されたことはない。集合研修には記載のものの外、役付者を対象とする研修や担当業務に関する業務研修はあるが、役付者でないことや担当業務との関係で、同原告は受講対象とならなかっただけであり、被告が教育面で差別したことはない。以上のように、本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(10) 別紙一の八二番

被告において担当する業務は、従業員の能力、適性に応じて決定されるのであるが、記載の業務は、新入従業員や未経験者だけが担当するものではない。例えば商業手形割引も本人の取組次第では取引先に対する投信判断知識を要するものである。したがって、このような担当業務付与をもって、仕事差別とする本件出版物の記載部分は、事実に反するものである。

(11) 別紙二の四七番

原告P49の賃金は、同人の職務遂行能力、その発揮度合いなどにより公正に決定されたもので、被告が原告P49に対し、賃金差別を行ってきた事実はない。

(一〇) 原告P1について

(1) 別紙一の八四番

被告は、原告P1は「不当差別の闘い」を始めたために、不利益扱いをする目的でα22支店への転勤を命じられた旨主張するが、原告らがいわゆる「要請書」を提出したのは平成元年五月であり、平成三年二月に行われた右転勤との間には二年弱経過しているのであるから、右主張は事実に反する。転勤により通勤通勤時間が長くなるとか、あるいは通勤時間が六〇分以上となると主張するがそのような例は多くあり、具体的に右転勤が行われた当時、平成三年一月一日から三月三一日までの大阪地区間での女子従業員の転勤者について見ても、かなりあるのであるから、同原告の転勤だけをとらえて「報復として行われた不利益扱い」との主張には理由がない。

(2) 別紙一の八七番

当該記載は、転勤の理由が原告P1の「労演サークル」への参加や「原水禁運動」にあったと断じ、そのことを読者に訴える趣旨のものであり、読者がそのように理解することも明らかであるところ、被告としては、右のような理由で転勤を命じたものではないのであるから、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(3) 別紙一の八八番

被告が「お目付役」を配し、原告P1の「一挙手一投足」を監視させていた事実などないところ、被告に限らず、どのような職場においても、先輩が後輩を指導、注意することはよくあることであるから、仮に同原告がそのような感想をもったとしても、そのことをこのように表現することは事実を歪曲するものである。また原告らが、「監視」の根拠とするところの同原告がα23支店に二五年間勤務したことは、どのような論理で「監視」につながるのか不明であり、反論の限りではない。さらに、淡路島へのキャンプにP52、P53らがついてきたことやα24山荘への宿泊に被告の役職である代理がついてきたことについては、その具体的内容が不明確なので認否の限りではなく、そもそも「母店」におけるベテラン女子従業員による「監視」を記述したとする出版物の記載とは関係ないのであるから、本件出版物の右記載が事実であることを裏付けるものとも言えない。

(4) 別紙一の八九番

P54次長は「支店全体の労働条件に関わる要求については、正規に組合を通じて実現を図るべきものである」ということを朝礼で注意したのであり、もちろん個々人の思想・信条を非難するつもりなどは全くなく、また、その際に「マルクス・レーニン主義は通用しない」などと言った事実はない。

(5) 別紙一の九一番

原告らが主張するところの原告P1が、ある新入従業員から「先輩が『P1さんとはつき合わないほうがいいよ』と言っている」と打ち明けられたということについては、発言者の氏名、発言の日時、発言の趣旨など一切不明確であるので、認否の限りではないが、被告が同原告を「攻撃」した事実も、新入従業員が同原告と「全然しゃべらなくなって」しまったという事実もない。次に、P55、P56、P57の三名の転勤については、右三名が同原告と親しかったか否かは被告の知りうるところではないが、右三名の転勤はローテーション人事によるものである。従って、右三名の転勤について、同原告と「仲良くしていた」ことを理由とする転勤であると断ずることは、およそ根拠薄弱と言うほかはない。

(6) 別紙一の九二番

原告らは、右記載の退職者はP58とP59であるというが、P58は昭和四七年四月に入行し、同四九年七月に一身上の理由で退職した者である。その退職理由がいかなるものであったかは詳らかではないが、仮に同人が退職するに際し、同原告に主張のように「世話になったけど、もう辞める。○○さん(原告の旧姓)にだけは言っておく。」として、記載部分のような説明をなしたとしても、そのことを以て被告の職場全体が過酷であったかのような記載をすることは飛躍といわなければならない。他方、P59については、原告らは当初「○○(当時預金係)」と主張しており、被告から該当人がいない旨の指摘をうけて「○○(当時預金係)」と言い換えてきたが、「○○」という姓に該当する者は、被告の調査による限り、○○○○しかいないが、同人は預金係ではなく外為係に配属されていたのであるから、同原告は重ねていい加減な主張をしたということであり、右記載が事実に反するものであることは明らかである。

(7) 別紙一の九三番

被告においては、人材育成の観点から幅広く仕事を覚えてもらうという目的などにより、同一支店内での係替えも頻繁に行なわれているのであって、一つの支店内で同一の職員が複数の係を経験することや退職者の補充などで同一の職員が以前に担当した職務を再び担当することは、同原告に限ったことではなく、従って本件出版物の右記載部分は事実に反するものである。

(8) 別紙一の九四番

被告は、原告P1を差別する目的で係替えをしたわけではない。原告P1が当時総務係で担当していたとする業務が「雑用」あるいは「新入従業員の仕事」であったということは事実に反する。右にいう「お茶汲み」とは、おそらくは来店客へのお茶出しの接待業務のことを言うものと思われるが、右の業務も銀行のイメージを左右する仕事であり、新入従業員のみに任せられるようなものではない。α9支店では当時、新入従業員には主に窓口業務を担当させ、お茶出しに関しては、顧客に応じて、年齢に関係なく女子従業員であれば誰にでもさせていた。α23支店は神戸地区の母店であり、来店する顧客も一流企業が多いため、お茶出しも時間がかかっては失礼なので、来客時には、誰でもできる者がやっており、同原告より入行年次の古い女子従業員がお茶出しをしていたこともあったのである。次に、「通達類の整理」、「メール関係の業務」についても、これらの事務が停滞したり、あるいは誤った処理をした場合には、業務全般の運営に支障を来すおそれがある「大事な仕事」である。また、右の業務は支店の内部の事情によく通じてないとできない(どういう係がどういう仕事をしているか理解していないと、通達やメールを正確に仕分けることができない)仕事であり、α9支店では、当時、こうした仕事は、新入従業員ではなく、入行四、五年目の者に担当させていた。このように、お茶汲み、通達類の整理、メール関係の業務はいずれも重要な業務であるにもかかわらず、同原告がこれらの業務を「新入従業員のやる雑用」と決めつけていることは、同人が自らの職務をそのような業務としてしか意識していなかったことを自認するもので、同原告の銀行員としての自覚の乏しさを自ら明らかにするものといってよい。次に、同原告が総務係で経費、給与といった業務を担当しなかったのは、当時これらの業務を担当していたP62が、この業務を以前からやっており、ベテランでしっかりしていたからであり、同原告を不当に差別したからではない。さらに被告においては、同一支店内での係替えも頻繁に行なわれているのであるが、そもそも不当に同原告と新入従業員の仕事を取り替えたようなことはないし、P63代理が同原告から右のような質問を受けたという事実もない。なお、被告が組合役員選挙に関し筆跡鑑定などを指示した事実はない。

(9) 別紙一の九五番

一七年間同じ級にとどまっている理由は、原告P1の職務遂行能力やその発揮度合に対する公正な考課・査定に基づくものであるところ、この点を考えることなく、単に同原告が三級の一になった時期と「男女差別賃金闘争」に参加した時期とが符合するという一事を以て、それ以降進級しない理由を「その仕返し」と断ずる(記載の表現は「その仕返しなのか」となっているが記載の趣旨は「その仕返し」として同じ級にとどめられている、ということを読者に訴えることにある)ことは、何ら合理性のない推論であり、事実に反する。

(10) 別紙一の九六番

原告P1より、資格の下の者が主任となったことについて、そもそも「主任」とは、係を取りまとめる能力のある者に対し、必要に応じて命ぜられるものであって、必ずしも資格の上位の者より機械的に辛任にするわけではないのであるから、仮に同原告より下位の資格の者が係主任になったとしても、それは業務上の理由によるものであって、何ら不当なものではない。しかるに、右記載は、差別するため、意図的に同原告を係主任にしなかったとの趣旨であることは明白であるから事実に反するものという外ない。

次に、同原告が、優秀テラーに選ばれなかったことについて、そもそも優秀テラーは、①応対面、②セールス面(定期預金、JCBカード、カードローン、自動横立、五大公共料金など)、③実務面などの各種項目についての総合的な判断により選出されることとなっており、同原告が選出されなかった理由はこの選定基準に満たなかったに過ぎない。また、一方、α23支店やα22支店において生産性をあげていない者が優秀テラーに選ばれたという事実もないのである。α23支店において、同原告ではなくP64が優秀テラーに推薦された理由は、P64が各種項目についてバランスよく実績を上げ、新しい顧客の開拓にも積極的であったからであり、職場では、P64が優秀テラーに選ばれたのは当然のことと受け取られていたのであるし、また、α22支店においては、同原告は平成四年下期と平成五年上期に五大公共料金獲得優秀者として業務本部長表彰を二度受けたものの、五大公共料金以外の重点項目(例えば、JCBの獲得)などについては、目立った成績はなく、他方、平成四年、五年に優秀テラーに選ばれたP65やP66は、同原告と同じく五大公共料金獲得優秀者として業務本部長表彰を受けるとともに、全体に優秀な成績を挙げていたため、その期に彼女らが選ばれ、同原告が選ばれなかったことも、全体の成績を考えれば当然のことであったのである。しかるところ、右記載の「優秀テラーにはさせません。」との部分は、被告が同原告を差別するため意図的に同原告を優秀テラーにしなかったとの趣旨であることは明白であるから、事実に反するものである。因みに、九八年下期については、同原告は、推薦順位は同原告主張のとおり三番目であったものの、最終的には優秀テラーに選ばれたのであるから、被告が意図的に同原告を優秀テラーにしないために、推薦順位を下げたものでないことは明らかである。

(11) 別紙一の九七番

まず、当該記載において、事務表彰制度について職員の事務処理能力をも向上させる有意義な制度であるにもかかわらず、一面のみを強調し、極めて過酷な制度であるかの如き印象を与えようとしている右記載は事実に反するものである。また、当該部分の記載内容について、原告らの主張でも氏名が特定されておらず、事実の存在自体が疑わしいのみならず、その主張からうかがえるのは、せいぜい何名かの人について記載のような事実があったことを見聞きしたことがある、というにとどまり、それをこえて右職場において全ての職員について常時、同様のことが繰り返されている、というのではないのである。しかるところ、本件の記載によれば、右職場では、全ての職員について常時、同様のことが繰り返されているとの印象を読者に与えるものであることは明らかで、その意味において事実に反するものなのである。

(12) 別紙二の四八番

そもそも、被告において、早出、残業の常態化やサービス残業の強制あるいは年休や生休の取得に「いちいち上司に頭を下げて許可をもらわないといけない」といった事実はいずれも存在しない。のみならず、右の記載は読者に対して、あたかも被告の職場全体において「封建的」すなわち契約関係以前の身分関係に基づく支配ないし隷属といった状況が横行しており、このため従業員の全てが毎日「不自由」な生活を強いられているかの如き印象を与えるものであるところ、原告らの右主張によれば、原告P1が右記載をもって表わそうとしたのは、時間外勤務あるいは休暇取得といった極めて限られた部分に関するものに過ぎないというのであるから、事実を著しく誇張して被告を誹謗しようとするものであることは明らかである。

(13) 別紙二の四九番

査定の基準や方法をどの程度従業員に明らかにするかは、それぞれの企業において決定されていることがらであり、またそれが明らかでないことから、査定方法が恣意的であるとすることは論理の飛躍である。また、一七年間程度同じ級にとどまる例は原告P1のみにとどまらず、他にも相当数あるにもかかわらず、原告P1は十分な調査をしないまま、自らの処遇が異常であるとしているのであって、これを真実と信ずる相当な理由がない。また、平成二年に同原告が昇級し、また定期昇給額が増えたことは事実であるが、これは公正に決定されたものであって、たまたま昇級の時期が差別是正の要求の後であることをとらえて、「昇級」そのものまで恣意的になされたと解するなどということは偏見によるものという外ないのであり、かかる誤った観点から、被告の人事査定の在り方を「いいかげんな査定方法」と評価することは、まさに誹謗という外ない。

(一一) 原告P67について

(1) 別紙一の九九番

原告らは記載の次長をP68と主張していたが、被告からかかる名前の次長は存在していないとの指摘を受け、労基署へ申告した時期とともに記載の発言をした者を「P69次長」に改めたが、本件出版物の記載では、発言した際の状況や発言内容などが生々しく記述されており、仮に右記載どおりの事実が存在したのであれば、その発言者を間違えることなど到底考えられず、この点からも右記載が事実に反するものであることは明らかである。なお、P69次長は、同原告がα25支店に転勤になる前に労基署に男女差別について申告をしたことは知らないし、次長という立場から支店内に眼を配っていたことは事実であるが、男女差別闘争云々とは全く無関係であるのであるから、右記載は事実に反するものである。

(2) 別紙一の一〇〇番

結婚ないし出産した女子従業員に対して、その上司から「いつ辞めるのか」「子供は母親が育てるのが一番だ。」という発言をさせるのが被告の会社としての方針である、というのが原告らの真意と考えられる。しかしながら、そもそも女子従業員の結婚や出産に当り、その上司が主張の如き発言をなすとは到底考えられないのみならず、被告が上司にそのような発言をさせたということは全くないのであるから、右主張は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一〇一番

原告らは、当該記載にある「次長の発言」について、平成元年、α25支店におけるP70次長の発言であるとするが、P70次長が主張のごとき発言をした事実は存在しない。

(一二) 原告P6について

(1) 別紙一の一〇五番

P71課長は原告P6の招きに応じて出席したのであり、しかも、同人は同原告の依頼によりスピーチまで行ったのであるから、右の主張は事実に反する。また、同原告の結婚式に同原告の同僚が出席したか否かは被告としては詳らかではないが、この点について、同原告の結婚式自体が会費制の一風変わったものであり、同原告は課内の他の女子従業員から良い感情を持たれていなかったのだから、仮に同僚が来なかったとしても不思議ではなかったのである。被告が何者かに指示して、出席予定であった同原告の同僚らに対し、出席を取りやめるよう働きかけた事実などない。

(2) 別紙一の一〇七番

被告が新設、任命したレクリエーション委員が、その活動として、組合肯婦人部が行う文化・レクリエーション行事と同じような内容の行事を同じ時期にぶつけてきたとの点については、原告らの主張は具体的な特定がないので、事実の存否を明らかにすることはできないが、仮に似通った企画が同様の時期に行われたとしても、それはレクリエーションの性質上、往々にして起こりうるところであって、それを直ちに被告による「介入」、「圧力」と解することは飛躍という外ない。

またP72部長及びP73副部長の東京転勤については、被告が昭和四二年五月二日付をもって、本店営業部のP72及び本店事務部のP73の両名に対し東京都内の支店への転勤を命じたことは事実であるが、誰が組合支部背婦人部の部長、副部長であるかは被告に通知されるところではないのであるから、同人らが組合支部青婦人部においてどのような肩書を有していたかということとは何の関係もなく、右転勤は通常のローテーション人事として行われたものである。さらに原告らは、「五月二日」という時期は転勤の時期として異例であると主張しているが、現に、昭和四二年五月二日付で転勤した者は一〇七名もいるのであるから、異例でないことは明白であり、右記載は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一〇八番

原告ら主張のP74が原告P6にどのように説明したのか、また、仮にP74が主張のような説明をしたとしても、それがいかなる趣旨によるものであるか否かは不明であるが、少なくとも、被告がP75に主張のごとき言動をさせた事実はない。のみならず、右主張によれば、右記載の具体的な根拠としては右の事実のみであると解されるが、右記載は「周囲の人に”忠告”して回りました。」となっているのであって、甚だしく誇張したものとなっていることは明らかである。なお、右のP75が支店長代理(正確には課長代理)となったのは昭和四六年のことであり、昭和四三年に代理となったとの主張とは三年もかけ離れているのであり、この点からも、同原告の主張に信懸性がないことは明らかである。

(4) 別紙一の一〇九番

被告が原告P6の労働基準監督署への労災申請について捺印(事業主としての証明印のことと思われる)を拒否したことは事実であるが、それは、当時の同原告の作業内容や専門医での診断・職場環境等から業務上と認めがたいと判断したからに外ならないのであって、殊更に「嫌悪」したからではない。原告らは、「頸肩腕障害については、当時原告P6と同じ課内でも一割を超える人が症状を訴え、何らかの治療を受けていた状況があったにもかかわらず、原告らの要請を被告は即座に拒否した」との事実を挙げ、「従って、被告の主張するように、原告の作業内容や専門医での診断・職場環境等から業務上と認め難いと判断したことが拒否の理由とは考えられない。」と主張するが、原告の主張は具体的ではなく、当時同じ課内で一割を超える人が原告P6と同じ症状を訴え、何らかの治療を受けていたかどうか疑わしいのみならず、被告が「原告らの要請」を即座に拒否したという事実も何を指しているのか不明なのである。また、原告らは、「仮に、被告が業務上と認め難いと判断したとしても、事業主として捺印することは業務上であることを認めたことにはならないのであり、業務上か否かはあくまでも労働基準監督署が判断するのであるから、被告が業務外と判断したことを理由に捺印拒否を正当化することはできない。」と主張するが、原告P6より被告に対し捺印の請求がなされた労災給付の請求書の事業者証明欄の記載によれば、「災害の原因及び発生状況」についても証明することが要求されていたのであるから、業務上災害と認めなかった被告が、その捺印を拒否したことは。正当である。次に被告が職場会で「あなた方の行為は、銀行の信用を失墜させるもので、同じ職場に働く者として非常に迷惑である」との発言をさせたとの記載については、そのような事実はない。原告らは、被告の右主張について「このような発言が労働者から自発的に行われるとはおよそ考えられないこと及び、前述のとおり銀行が原告P6の労災申請を嫌悪していたことから原告P6が銀行の意を受けた発言と考えるのは当然であり、その旨記載したにすぎず」と主張するが、右の発言者なるものが同原告の労災申請を事実に反するものと考えていたとしたら、そのような発言を自発的にしたとしても少しも不思議なことではない。のみならず、このような推論に過ぎないことを「発言をさせました」と、断定的な事実として記載していること自体、事実に反するものといわなければならない。また、原告らは、職場会での右発言は、「当時の組合執行部が少数派である原告らの労災認定の活動に対し、『ビラ行為について統制違反の厳重注意』なる処分を行った背景の中で、組合主流派に属する組合員が行ったものであり、発言者の個人的な自発的発言でない」としたうえで、同原告が「労災申請を嫌悪する被告の意を受けた組合多数派の原告らに対する嫌がらせの発言であ(る)」と受け取るのは当然であると主張する。被告としては、組合の内部問題について一切関知するところではないので、右主張の前提事実については認否の限りではないが、右の主張によれば原告らは組合より統制違反で処分されていたのであるから、原告らの行為について他の組合員より批判的な意見が自発的に出ても何ら不思議はないのであって、これをわざわざ被告が組合を通じて組合員に発言させたと解しなければならない理由などどこにも存在しない。加えて、右主張は、一方的な憶測に基づくものであることを認めたものという外ないが、本件出版物の記載は、「銀行は(…中略…)発言させました」という断定的な記載となっているのであるから、そのことからも事実に反する記載であることは明らかである。

(5) 別紙一の一一〇番

「アカのなる病気や」などの当該記載部分の発言については、発言者は特定されていないので、そのような発言の存在そのものが疑わしいのみならず、仮に何がしかの発言があったとしても、被告がそのような発言をさせた事実はない。にもかかわらず、右記載が、被告が右の発言をさせたとの趣旨であることは明らかであるから、事実に反するものである。原告らは、「被告は頸肩腕障害を労災と認めることを嫌悪しており、その労災認定に向けて活動する原告らと他の労働者が結び付くことを阻止しようとしていた」として、そのような被告の意を受けた者以外の者が「個人的自発的に右発言を行うとは考えられない」とも主張するが、被告は同原告の疾病を労災と認めることを嫌悪したこともなければ、原告らと他の労働者が結び付くことを阻止しようとしたこともない。また、右の後半の主張からも、被告が発言させたとの記載が一方的な憶測に基づくことが明らかである。

(6) 別紙一の一一二番

基礎技能テスト(検定会)は昭和五三年一月から実施されたものであるところ、同原告はそれ以前の昭和四八年一〇月に二級三号に進級しているのであるから、P71課長が同原告が進級しない理由について、右記載のような説明をすることなどあるわけがない。原告らは、被告より右の指摘をされたため、その誤りに気付き、「原告主張の『基礎技能テスト』とは必ずしもそのような正式のテストのことを意味するものと理解して使用しているわけではない。」とした上で、右記載にある「基礎技能テスト」とは、その以前から行われてきた能力テストのことであると修正し、右記載に誤りはないと主張しているが、全行的に行なわれる基礎技能検定会は、昭和五二年に第二次サンバツクシステム(オンラインシステム)の導入に伴い、従業員全員に汎用端末機の操作が必要になったことから、制定された制度であり、右システム導入前に全行的な規模の能力テストは、存在しなかったのであるから、右主張も失当である。

(7) 別紙一の一一三番

被告が女子従業員の結婚ないし出産を機に退職を強要したり、労災の被災者に対して様々な嫌がらせをしたということを再度挙げているが、前述のとおり、いずれも事実に反するものである。次に、被告が「P60事件」を口実に、中高年の女子従業員に対して、嫌がらせを目的として大量に転勤させた事実は存在しない。また、定年間近の者が転勤する例もないわけではないが、あくまで業務上の理由によるものである。

(8) 別紙二の五四番

原告P6と同じ課内で一割を超える者が、頸肩腕障害の症状を訴え、何らかの治療を受けていた事実はない。被告が、労災申請に必要な捺印を拒否したのは、当時の同原告の作業内容や専門医での診断・職場環境等から業務上と認めがたいと判断されたからに外ならない。さらに被告が特定の病院の診察を強要した事実はない。また、同原告の受診した厚生年金病院にて「異常がない」との診断がなされた事実はあるところ、その診断の根拠について被告は関知するものではないが、少なくとも右の診断結果が被告の指示によるものであるとするかのごとき主張は、全く根拠のないものである。さらに、被告としては、組合の内部問題について関知するところではないが、組合がその方針に反する行動をした組合員に対し統制処分をなすことは一向に不思議ではなく、しかも組合より統制違反で処分されていたとすれば、原告らの行動について他の組合員より批判的な意見が自発的に出ても何ら不思議はないのであって、被告が組合を通じて組合員に記載のような発言をさせたとする原告らの主張は全く根拠のないものである。このように、右記載は誤ったあるいは不明確な事実に基づき、被告を誹謗するものであることは明らかである。

(一三) 原告P3について

(1) 別紙一の一一五番及び一一六番

そもそも当該記載の″山猫スト〝なるものが、本来の争議行為として認められる余地はないのであるから、原告P3の行った行為は単なる無断欠勤にすぎない。この無断欠勤に対して東京の人事部の担当者がどのような発言をしたか、担当者の名前が特定されないため調査の仕様がないが、人事担当者が無断欠勤を認めるわけがないし、また、無断欠勤をすれば、欠勤日数に応じてボーナスが機械的にカットされるのは当然のことであり、これを出勤扱いにするということなども有りえないことであるから、原告ら主張のような趣旨の発言をするとは到底考えられないことである。

(2) 別紙一の一一七番

P76代理は、当時の支店長から原告P3が共産党に入党したから云々といった話を聞いた事実はないのであるから、同原告に対して主張のごとき発言をすることはあり得ないのであって、同原告が同人の他の発言と取り違えた可能性が高いのである。また、P76代理は「相生寿司」という店の名すら知らないのであるから、この点からも右記載が事実に反することは明らかである。

(3) 別紙一の一二〇番

当時のα8支店において、組合役員の選挙後に、投票者の筆跡鑑定をするなどということはなかった。原告P3に対して思想調査をしたことはなく、また、記載の「一梅」という寿司屋は同支店の従業員がよく行っていたところであるので、同原告とP77やP78を含む従業員らが、同店で飲食したことはあるが、それはあくまでも従業員間のコミュニケーションを図る意図に基くもので、その際に思想調査に及ぶような質問をした事実は存在しないのである。のみならず、当該記載はあたかも被告がこれを命じたかの如き趣旨となっているのであるから、少なくともその点において事実に反するものである。

(4) 別紙一の一二一番

当該部分で指摘されたP79支店長、P80支店長は、ともに、そもそも原告P3の賞与査定が低かったということ自体を否定しており、また、同原告より賞与査定について質問や苦情は受けなかったのであるから、当該記載は事実に反するものである。

(5) 別紙一の一二二番

P80支店長はα26支店のボーリング大会において、原告P3が優勝したという記憶はなく、もちろんそのような暴言を言ったこともないのであるから、右記載は事実に反するものである。

(6) 別紙一の一二三番

当該記載の「事件」の経過は、原告P3がP81より聞いたとする内容とはおよそかけはなれたものであり、被告が”でっち上げ事件”を仕組んだ事実など存在しない。本件出版物の記載は次の点でも事実と異なる。①不足した金額は二万円で、記載の一万円とは違う。②不足の原因は要するに本人が着服したことにあった。③「支店二階の別室にて監禁」と記載されているが、事情聴取の場所は支店長室で、事情聴取の間も毎日本人は自宅へ帰っていたのであり、「監禁」したということはない。④調査の担当者について「外交担当のT代理と、K支店長の二人がかり」と記載されているが、実際には次長と事務指導部の担当者の二名が担当したものである。⑤被告が本人に自白を強要したかのように記載されているが、着服したとの説明は本人が自ら告白したもので、被告がことさらに押し付けたものではない。従って、仮に同原告がP81より聞いた内容が記載のとおりであったとしても、右記載は要するに伝聞であるにもかかわらず、「同支店長当時、もっとも許せぬ“でっち上げ事件”が仕組まれたのです。ことの真相は、私ほどではなかったが、上からあまり好ましく思われていなかった一人の従業員を、現金横領の犯人にでっち上げ、表面上『依願退職』の名のもとに、首切り、銀行から追放した事件です。」と断定的な事実の記載となっているのであって、これを読んだ読者は被告においては、右記載そのままの事実が存在すると理解するのが当然であるから、この点において事実に反することは明らかといわなければならない。

(7) 別紙二の五七番

当該記載「事件」の経過は、原告P3がP81より聞いた内容とはおよそかけはなれたものであるのみならず、仮に同原告がP81より聞いた内容が記載のとおりであったとしても、それは伝聞にすぎないにもかかわらず、事実と断定するかの如き記載をなした上で、支店長を「卑劣なことを平然と行う」、「人間の仮面をつけた鬼」、支店長代理を「その命令とあらば、善し悪しに関係なく、盲目的に従属して、〝目標達成〝のためには、どんな手段でも行使する」と記載するなどは誹謗の極みと言ってよい。

(一四) 原告P82について

(1) 別紙一の一二五番

当該記載は、原告P82に対するボーナス査定が他とくらべ不当に低いということを読者に訴えようとする趣旨の記載であるが、当該記載からすれば、積立預金やJCBカードなどの勧誘はそもそも同人の担当職務でなかったにもかかわらず、担当職務以外の業務の成績まで賞与査定上の要素としていたこと自体がまず問題であるという趣旨に読むのが当然である。しかるところ、積立預金、JCBカードの勧誘は、同原告の職務であったのであるから、右記載は、その点において明らかに事実に反するものである。また当時のα27支店の営業課では、定期預金の獲得額や積立預金、JCBカード、五大公共料金などの獲得件数を「個人別の実績表」に記載し、毎日、支店長まで回覧するようにしていたが、同原告はその獲得実績はほとんどなく、生産性が上がっていないことは本人も十分に承知しており、P83支店長が「生産性が低い」と述べたことについて、同原告から右記載のような質問や反論は全くなかったのである。

(2) 別紙一の一二七番

原告らが改善があったと主張する点は、次に述べるとおり、平成四年九月に着任したP84支店長が、業務の推進あるいは支店経営の効率化という観点から、前任地のα28支店で行っていたように変更したにすぎないのであり、原告らの主張は事実に反するものである。月水金の週三回あった朝礼を水曜日一回にしたこと、役席会議を金曜日にし、出席者も課長と次長にしたのは、残業とは関係がない。

(3) 別紙一の一三〇番

まず、P83支店長が原告P82に対して記載のような「今後一切言いません。」などと発言をした事実はないのみならず、同支店長としては原告P82に対し何ら謝罪すべき行為はしていないのであるから、謝罪の意を表すことなど有りえないものであり、従って、その発言から「非を認めた」と評価することも事実に反するものと言ってよい。次にP83支店長が同原告にビラ撒きの真意やビラの内容について尋ねた事実はあるが、それをこえてビラ撒きを止めるように「干渉」したり、「暴言」を吐いた事実は存在しないのである。また、そもそも当該記載の「ひどい賃金差別」そのものが存在しないのであるから、それが存在することを前提とする右記載もまた事実に反するものと言わなければならない。

(一五) 原告P13について

(1) 別紙一の一三一番

そもそも青婦人部の解散に関し、原告P13がどのような意思表示を行ったのかといったことは被告の関知するところではなく、同原告が青婦人部の解散に際して反対の意思表示を行ったことを契機にいろんな差別が始まったのではないかなどという原告らの右主張は何ら根拠のないものである。

(2) 別紙一の一三二番

被告が原告P13に対し、出産、産休を理由に、進級などにおいて不当な取扱いを行った事実は一切存しない。また、P85課長やP86係長が、原告P13に対し、出産や産休などを理由に低い査定を行っているかの如き発言をした事実も一切存しない。被告においては、査定対象期間中に出産や産休が含まれていることを理由に低い査定を行うなどということはなく、あくまで査定対象期間中の各人の職務遂行能力、その発揮度合などによりこれを行っているものである。

(一六) 原告P11について

(1) 別紙一の一三四番

資格手当の金額が同一資格の職員間で一万円の差を生じ、原告P11が低い方の適用を受けた事実はあるが、これは公正な考課、査定の結果であり、当該部分に記載されているような「被告が同原告を不当に差別した」旨の事実は存しない(昭和五四年四月当時、書記系統の四級一号の資格手当につき、査定により金一一万三〇〇〇円の者と金一二万三〇〇〇円の者とが生じ、原告P11の資格手当は金一一万三〇〇〇円とされたが、同原告と同様に低い方の適用を受けることとなった職員は多数存在した。また、右記載部分は単に原告P11の主観を述べたようなものではなく、被告が同原告を不当に差別したとの事実を読者に訴えようとするものであり、これを読んだ読者がその趣旨に理解することは、その記載内容からして明らかである。繰り返し述べているとおり、被告が原告P11を不当に差別した事実は存しないのであるから、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(2) 別紙一の一三五番

原告P11同様、入行後二年末満で転勤する例は数多く存するものであって、同原告だけが入行後短期間で転勤したとの主張は事実に反するものである。同原告が入行した昭和四一年当時において、「入行四年後の養成従業員研修の後に転勤させるのが一般的であ(る)」などという事実は存せず、同原告と同じ昭和四一年入行者についても、約半数の者が入行後四年未満で転勤している。また、原告P11がサークル活動や組合活動などに積極的に参加していたか否かは、そもそも被告の関知するところではなく、かかる活動を被告が嫌悪していたなどという事実も存しない。原告P11のα2支店からα29支店への転勤は、前述した通常の人事異動の一環として行われたものであって、不当視されるいわれはどこにもない。右転勤が不当な理由に基づくものである旨の本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一三六番

昇給昇格に関する説明は、毎年各支店長が原告P11と面談してこれを行っており、その際、同原告の貢献度や勤務ぶりについての具体的な説明がなされている。また、その際、原告P11から支店長に対して昇給昇格に関する不満が申し述べられたことも一切存しない。「昇給昇格に関する説明は(定期昇給を除き)一言もなかった。」との記載は事実に反するものである。

(4) 別紙一の一三七番

原告P11が昭和六〇年以前に受講した研修として、右記載の研修以外に、新入従業員研修及び中堅行員研修が存するほか、昭和六一年以降に受講した研修として、国債事務研修、不動産研修、実戦業務研修〈中級A〉などが存する。被告においては、職員に対する研修は、職場教育(OJT)の補完として、その時々の各職員の担当業務遂行上の必要性等を勘案しながらこれを実施しており、原告P11に対しても、他の職員の場合と同様、その都度担当業務遂行上の必要性等に応じ研修を実施してきたものである。もちろん、原告P11よりも研修の機会が多かった職員も存在するであろうが、右に述べた研修の性格上研修受講数など職員間でばらつきを生ずるのは当然のことである。被告が原告P11に対し、研修などにおいて不当な差別を行い、これを以って能力開発の機会を奪った旨の記載は事実に反するものである。

(5) 別紙一の一三八番

原告P11が入行以来勤務した九ヶ所の支店(α29支店及びα30支店を含む)において、被告が管理職(α29支店P87外交代理を含む)をして原告P11と職場の同僚との交流に干渉させたとの事実は一切存しない。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。なお、原告らの指摘する二つの事例に関していえば、いずれも「電話交換手であったAさん」、「融資係のBさん」と主張するのみで、未だ具体的氏名は明らかにされず、不明のままであり、かつ、右二つの事例以外、原告らの主張によっても、その具体的内容は全く不明のままであって、この点に関する原告らの主張は、全く具体性のないものである。

(6) 別紙一の一三九番

原告P11に対する処遇は、同原告の職務遂行能力、その発揮度合などにより、公正に決定されているものであって、被告が同原告の勤務実績を無視し、差別的処遇・取扱いを行ってきたとの事実は一切存しない。なお、原告らは、原告P11がα31支店に勤務していた当時、西日本外交実績一覧表(昭和六三年上期外交活動実績四月実績)において第二位にランクされる外交実績をあげたにも拘らず、支店長、次長、取引先課長は、原告P11についてのみ下線、確認印を行わず、これを無視しようとした旨主張し、これを以って、被告が同原告の勤務成績を無視し、差別的処遇・取扱いを行ってきたことの一例とするが、α31支店の支店長らが意図的に同原告についてのみその外交実績を無視しようとしたなどという事実も存しない。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(7) 別紙一の一四〇番

そもそも職場会は組合内部の会合であり、被告が関知するところではないが、被告が記載のごとき「(原告P11を)孤立させる策略」をとった事実は存しない。なお、右記載部分は、「被告が原告P11を孤立させる策略をとった」ことを読者に訴えようとするものであり、これを読んだ読者がそのように理解することも明白である。しかるところ、被告がかかる策略をとつた事実はないのであるから、右記載部分は事実に反するものといわなければならない。

(8) 別紙二の五八番

原告らが具体例として指摘する変額保険は、大蔵省の認可を経た生命保険の一種であって、かかる変額保険契約の締結は、専ら保険会社と契約者たる取引先との合意に基づいてなされるものであり、被告は、取引先から融資申込みがなされた場合に右契約にかかる保険料その他の費用に充てるための資金を取引先に対して融資するにとどまるものである以上、結果的に取引先が右保険契約に基づき、損失を蒙ることがあったとしても、被告がその責任を問われるべき筋合のものではなく、ましてや、「モラルに欠ける反国民的施策」、「過当な競争」などと非難されるべきものでは決してない。のみならず、右の記載は、読者に対して、あたかも被告の施策が全てモラルを欠き、国民の利益に反するようなものであるかの如き印象を与えるものであるから、原告らの右主張自体によっても、著しく事実を誇張して被告を誹謗しようとするものであることは明らかである。従って、右記載が誹謗、中傷にあたることは、明らかである。

(9) 別紙二の五九番

被告にあっては、当該部分に記載されているような「基本的人権、労基法が無視され、長時間・超過密労働が当たり前のように続けられ、業容の拡大、すべてがそれに集約される」などと評価、非難される事実は存しない。従って、右記載が誹謗、中傷にあたることは、明らかである。

(一七) 原告P88について

(1) 別紙一の一四一番

P89主任やP90代理、P91代理らが、原告らの主張のごとき干渉を行った事実はない。また、そもそも原告らの主張するサークルや大阪頚腕罹病者の会なるものは被告の関知するものではなく、被告が右主任、代理らをして原告P88の右サークル運動に干渉させた事実など一切存しない。右の点に関し、原告らは、サークルの人達と付き合わないようP89主任やP90代理から説得を受けたが、原告P88はこれを拒否したため、サークル活動に参加した二ヶ月後の一一月一〇日にシステム課のプログラム係に係替えになり、一人孤立させられ、仕事を与えられないという差別的処遇を受けた旨主張する。しかしながら、昭和四五年一一月に原告P88が計算課穿孔係からシステム課プログラム係に係替えとなったのは、従前パンチャー(穿孔)業務に就いていたところ、右腕がしびれるとの申し出が同原告からなされたため、少しでも負担の少ない業務に就かせるとの配慮によるものであって、原告らの右主張は全く事実に反するものである。また、同原告が係替えになった後、被告が同原告を一人孤立させたり、また、仕事を与えなかったりした事実は一切存しない。従って、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(2) 別紙一の一四三番

記載の時期に三級の一に進級した者がいること、及び原告P88が同時期に進級しなかったのは事実であるが、これは公正な考課、査定の結果であり、記載の如き理由で進級しなかった事実は存しない。また、昭和五一年四月当時、担当役付者が原告P88に対して、進級しなかった理由を記載の如き年休取得にあたると説明した事実も一切存しない。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。当該記載部分は、右のような発言があったという事実を記述することを目的とするものではなく、原告P88が記載の如き理由(年休取得)で記載の時期に進級しなかったことを読者に訴えようとするものであり、これを読んだ読者がそのように理解することは明白である。しかるところ、被告が原告P88について年休取得を理由に進級させなかった事実はないのであるから、右記載部分は事実に反するものといわなければならない。

(3) 別紙一の一四四番

被告が原告P88を不当に研修から外したような事実は存しない。なお、原告らは、昭和四五年一一月原告P88を含む六人から七人がプログラム係に係替えになった際、同原告を除く他の者は全員プログラムの研修を受けたにも拘らず、同原告のみ右研修から外されたとの事実をもって、右主張を裏付けようとするが、これまた事実に反するものである。被告は、原告P88に対しても、当時プログラム係に新しく入ってきた者に対して実施していた教育(テキストに基づく自習形式)を行っており、同原告だけを不当に差別した事実はない。

(4) 別紙一の一四五番

被告が原告P88を不当に差別した事実は一切存しない。被告は、あくまで同原告の職務遂行能力などを考慮しながら、他の従業員と同様に、適材適所の観点から、同原告に対する業務付与を行っていたものである。本件出版物の記載部分も事実に反するものである。当該記載部分は、単に原告らが差別の是正を「要求している」という事実を記述することを目的としているものではなく、被告は原告P88に対して長い間仕事差別、賃金差別を行っていることを訴えようとするものであり、これを読んだ読者がそのように理解することも明白である。しかるところ、被告が原告P88に対してかかる差別を行ったことはないのであるから、右記載部分は事実に反するものといわなければならない。

(一八) 原告P92について

(1) 別紙一の一四七番

被告においては、男子職員の二~三年周期の転勤について、ほとんどが進級、昇格絡みであるなどという事実は存しない。前述のとおり、被告にあっては頻繁に転勤が行われており、男子職員の二、三年の転勤についても、通常の人事異動として、進級、昇格を伴わない例の方がむしろ多い実情にある。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(2) 別紙一の一四八番

進級、昇格、賞与はいずれも公正な考課、査定によるものであって、被告が原告P92を不当に差別した事実は一切存せず、また、昭和五四年ないし昭和五五年当時、α12)支店P93融資課長は、昇給の時期や賞与支給時に、同原告に対し、同原告の貢献度や勤務ぶりについても具体的に説明しており、右記載は全く事実に反する。加えて、QC活動が日常業務と全く関係がないとの記載も事実に反するものである。さらにそもそも手形の誤処理率は極めて低いのが通常であって、一か月間それがゼロの月が存したとしても、それだけで昇給、昇格などの査定に重要な影響を及ぼすことなどありえないものである。

(3) 別紙一の一四九番

昭和六三年夏期賞与の支給について、被告が原告P92に対して不当な査定を行った事実はなく、かつ、当該記載部分に記載されている如くα32支店P94支店長が同原告に対して暗にそれを示唆するような趣旨の発言を行った事実も存しない。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(4) 別紙一の一五〇番

平成二年夏期賞与の査定に関し、原告P92がP95支店長に対して査定の理由を質問してきたため、同支店長が原告P92に対して査定の理由を再説明した事実は存するが、その際、同支店長が同原告に対し、破った質問書を投げつけるという暴力行為に及んだとか、「支店長に対して文書を書くとは何ということか。私を誰だと思っているのだ。」などと脅したという事実は一切存しない。また、査定理由の説明に関しても、同支店長は原告P92に対し、総合職としての期待水準、実績に基づき説明を行っており、居直りと記載されるような趣旨の説明をなした事実は存しない。本件出版物の記載部分が事実に反するものであることは明らかである。

(5) 別紙一の一五一番

当該記載の要請書の提出があったこと及び進級の時期・内容は事実であるが、被告が原告P92を不当に差別した事実は一切存せず、また、同原告が被告に対して進級しない理由を聞いても納得のいく説明を受けられなかったとか、右進級が差別是正のたたかいの成果であるかの如き記載も事実に反するものである。当該記載部分は、単に原告らが差別の是正を求める「要請書を提出した」という事実を記述することを目的としているものではなく、被告が、原告P92に対して長期間にわたり差別を行っていることを訴えようとするものであり、これを読んだ読者がそのように理解することも明白である。しかるところ、被告が原告P92に対してかかる差別を行ったことはないのであるから、右記載部分は事実に反するものといわなければならない。

(一九) 原告P4について

(1) 別紙一の一五二番

α8支店のP96支店長は、原告P4に子供ができたという話を他の従業員から聞いたため、同原告に対し、「赤ちゃんができたという話を聞いたけれど、もし辞めるようなことがあるのであれば、補充の問題が起こるので、できるだけ早めに申し出てほしい。」旨言ったにすぎず、退職を強要するような発言を行った事実は一切存しない。本件出版物の記載部分は事実に反するものである。当該記載部分は、その前後の記載や本件出版物全体の趣旨からして、単に「支店長の発言の事実をそのまま紹介しただけ」のものではなく、被告が原告P4を不当に差別し、妊娠中の同人に対して退職を強要するような、言動を行ったことを訴えようとするものであり、これを読んだ読者がそのように理解することは明らかである。右のとおり、被告が原告P4を不当に差別したり、妊娠中の同原告に対して退職を強要した事実などないのであるから、本件出版物の記載部分は事実に反するものである。

(2) 別紙一の一五三番

昭和六二年ないし昭和六三年当時、α33支店P97支店長が原告P4に対し、差別的趣旨の発言を行った事実は存せず、右記載は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一五四番

なるほど、被告において、職員の健康面への配慮や業務の効率化の観点から、半期ごとに時間外勤務についてのガイドラインを一時期設け、それが店舗ごとの事務表彰項目の一つとされていた事実、及び女子職員については時間外勤務が年間一五〇時間を超えてはならない旨の労働基準法上の規制との関係から、毎一〇月の時間外勤務の累計時間数が年間一五〇時間を上回るペースに及んだ場合には、役付者(管理職)において右労働基準法上の規制を遵守するよう部下職員の時間外勤務に配慮していた事実は存する。しかしながら、被告が職員に対して実際の時間外勤務よりも少なめの時間数を申告させていたかの如き記載や、原告P4は時間外勤務を正確に申告していたために、他の職員よりも統計上の時間外勤務が多い結果となっており、被告が中間管理職を使って同原告に対し、「早く帰れ、あんただけ時間外が多い」と言っていじめをさせたとの記載は、いずれも事実に反するものである。

(4) 別紙二の六〇番

被告においては、従来より賃金などの処遇の主要な部分は学歴や勤統年数ではなく、職務遂行能力、その発揮度合いなどによって決定されているものであって、職務遂行能力やその発揮度合いなどを一切無視して、原告P4の給与支給額が総合書記で入行した勤続年数四ないし五年の大卒男子と同程度の額であるとの理由で「他人には言えないくらいの低さです」などと評価、非難するのは当を得ないものである。また、同原告が主張するような「結婚・出産後も働き続けてきたことへの様々な嫌がらせ」や「原告P4の活動とそれに対する被告の仕打ち」の事実など一切存在しないのであるから、かかる事実が存在するとして、これを前提に、「大企業は、人間であることを求めて、ものをいう人間、行動する人間には、こういう仕打ちをするのでしょうか」などと被告を非難することも全く当を得ないものと言わざるを得ない。従って、右記載が誹謗、中傷にあたることは、明らかである。

(原告らの主張)

1 就業規則該当性

(一) 就業規則における懲戒規定の限定、厳格解釈

私人間の法律関係は当事者の合意に基づいて形成されるとする近代市民法の原則である私的自治ないし契約自由の原則からすると、私人間において、懲戒というような処分権が認められるためには、最低限の要求として、そのような処分を受ける当事者の合意が必要である。したがって、使用者の懲戒権は、労働者が労働契約において具体的に同意している限度で可能であるとするのが妥当である。

憲法が保障する自由や人権は、企業に勤務する個人についても十分尊重されなければならないから、個人の権利・自由を制約する懲戒処分は、あらかじめ就業規則に懲戒事由、方法が明文で定められ、しかも合理的なものでなければならず、また、懲戒規定は限定・厳格解釈の必要があり、特に懲戒処分の対象となる行為が表現の自由のように、人権体系の中で優越的地位にある重要な人権にかかわるときは、一層厳格な解釈が必要となる。包括的規定や一般的規定は、個人の権利・自由を制約するおそれが大きいので限定的に解釈すべきなのはもちろん、その適用は、実質的具体的に企業秩序を乱す行為に限られるべきである。

被告は、就業規則の懲戒事由が限定・厳格解釈されると、いかに企業秩序を乱す行為があっても、懲戒を為し得ず、不都合な結果となると主張する。しかし、企業秩序違反行為は労働契約上の義務にも違反するのが通常であるから、使用者が懲戒できなくても、契約責任を追及する等して対応できるので不都合はない。また、就業規則の懲戒規定は、使用者が定めることができるのであり、真に懲戒が必要な企業秩序違反行為が規定されていないということはありえない、したがって、被告が主張するように限定・厳格解釈によって企業の秩序維持機能が否定されて不都合が生ずる場合は考えられない。

(二) 就業規則第五四条第三号について

(1) 「故意または重大な過失により」

第五四条第三号は、「故意または重大な過失により、銀行の信用を失墜し、または銀行に損害をおよぼしたとき」と規定する。したがって、被告の職員たる労働者の言論活動についても、仮に被告の信用を失墜させ、あるいは被告に損害を与えた場合であっても、それが「故意または重大な過失」によらない場合についてまで懲戒処分を課することは就業規則上許されない。

本件出版物について仮に部分的に事実記載に誤りがあったとしても、それは、きわめて僅かであり、しかも「故意または重大な過失」によるものではないから、基本的に就業規則の規定にあたらないことは明白である。この被告の就業規則における「故意または重大な過失」の意義はわが国の民事、刑事の法制における故意、重大な過失、過失などと同じ概念に出たものと解すべきであり、ここに重過失とは、一般には、現実の悪意「四囲の事情からみて悪意の疑いが濃い場合」に、現実の悪意にかわる機能を果たすものとされており、判例も、失火の責任に関する法律にいう「重大ナル過失」の意義につき、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど、故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」(最判昭和三二年七月九日民集一一巻七号一二〇三頁)としている。

(2) 「銀行の信用を失墜し、または銀行に損害をおよぼしたとき」

本号は、主観的要件だけで就業規則違反となるものではなく、「銀行の信用を失墜し、または銀行に損害をおよぼしたとき」とあるように、結果の発生を要件としている。ここで挙げられている信用毀損、損害発生は、通常は経済的な意味でのそれであろう。そして、これらの結果発生は、文言からも明らかなように、具体的で現実に発生することを要する。

また、ここで保護される信用等は、社会的に見て正当なものでなければならない。不当な信用、誤った信用は法的保護に値しないからである。たとえば、企業が組織的に犯罪行為をしているような場合に、そこにいる労働者がこれを公にして国民的批判にさらしたとしても、それで信用を不当に段損することにはならないし、不法に損害を与えたことにもならない。

本件出版物で原告らが記載している事実は、被告がサービス残業、男女差別、思想信条差別などの労基法違反行為その他各種違法行為を行っているという内容である。被告内に、真実、そのような違法、不当な行為があれば、それは正当に保護される信用とはいいがたいのであるから、本件出版物の記載事実が「真実」であれば、あるいは「真実であると信ずるにつき正当な理由」があれば、信用を毀損したことにはならず構成要件該当性を欠くというべきである。また、各種報道を通じて金融機関にサービス残業が広く存在することは社会的に既に明らかになっているところ、このように、いわば公知の事実、あるいは社会的に広く知られている事実をさらに具体的に指摘して批判する行為は、社会的に見て正当な行為であり、この点からも構成要件該当性を欠くというべきである。

(三) 就業規則第五四条第八号について

(1) 「事実を歪曲して」の主観的要件

第五四条第八号の「銀行、役職、…に関する事実を歪曲して流布し、その名誉または信用を傷つけたとき、あるいはこれにより職場の秩序を乱したとき」という規定違反に該当するためには、まず、「事実を歪曲して、流布」する行為が必要である。「歪曲」という行為は、その文言からも明らかなように、意図的に事実をねじ曲げること、なかったことをあったと言い張ることなどであり、故意に出た行為であって、過失による場合を含まないことには疑問の余地がない。そして、本件出版物における原告らの手記や解説の内容が意図的に事実を歪曲したものでないことは明らかである。仮に、本件出版物における原告らの手記等における事実の記載について何らかの誤りがあるとしても、それは、被告が原告らが指摘する事項に関する情報を独占し、原告らに開示しないなかで、原告らにおいて可能な限りの努力によってようやく入手・収集した結果によるものであって、事実を「歪曲」したことによるものではなく、結局同号に該当することはあり得ない。

(2) 「事実を歪曲して」の客観的要件

また、同号に該当するためには、当然ながら、銀行、役職…に関する事実を「歪曲して流布し」たことが必要であり、単に事実自体を流布しただけでは右の規定に該当しない。事実が真実である限り、事実の公表が仮に銀行や役職の信用失墜や名誉段損を来した場合であっても右の規定に該当せず、したがって懲戒処分の対象とはならないのである。この点でも被告の就業規則は、一般市民を名宛人とする民法・刑法などにおける名誉毀損や信用毀損の要件より対象行為の範囲を厳しく限定しているのである。その理由については、さきの第五四条第三号において同規定該当行為を単に故意または過失による場合とせず、これを「故意または重大な過失」による場合に限定したことと同様に解することが統一的・整合的である。とりわけ公表された事実が真実である場合についてまで被告の名誉・信用などのプライバシーを保護する必要がないこと、かえってかかる過剰な保護が銀行の腐敗を温存・増殖させる点で有害であることは昨今のいわゆる「金融危機」において国民が痛感させられたところである。したがって右の規定においては、規定の構造上、そもそも、民法・刑法などにおける名誉毀損の免責要件とされる「公共の利害に関する」事実であること、その目的が「専ら公益を図るに出たる」ことなどの要件を必要とせず、事実が真実であることをもって足りるのである。

次に、右の「事実」の真実性の証明については、すでに論じたとおり、刑法二三〇条についての「事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない。」との判断(夕刊和歌山時事事件最高裁大法廷昭和四四年六月二五日判決)、民事の不法行為についての同旨の判断(最高裁第一小法廷昭和四一年六月二三日判決)に依拠した解釈が行われるべきである。

また刑法二三〇条の二は、二項で「前項の規定(真実性の証明)の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。」と規定するが、本件出版物における原告らの手記等において、原告らが、被告の残業手当不払い、思想差別、男女差別などの労働基準法違反の犯罪行為を記述しているものであること、被告により不当な差別を被ることとなった主要な原因が、右のような被告の労働基準法違反の犯罪行為について追及し、是正を求めた活動に対する報復であると訴えていることからすると、原告らの事実の指摘が公共の利害に関するものとみなされるべきである。

(3) 「名誉または信用を傷つけたとき」「職場の秩序を乱したとき」

同号にいう「名誉または信用を傷つけたとき」については、三号において述べたのと同様に、社会的に見て正当な名誉、信用のみが保護の対象となるのであって、不当な名誉、信用は、銀行業務の公共性の見地からも、これを保護の対象とすべきではない。また、「職場の秩序を乱したとき」という概念も、その文言上明らかなように、具体的に違法な結果が発生したこと要件とするものであって、単なるおそれなどといった抽象的危険までを含むものとは到底読めない。

(四) 就業規則第五四条第一〇号について

被告就業規則の第五四条一〇号の「就業規則その他の服務に関する諸規定に違反し(たとき)」、あるいは同号の「前各号のほか、・・・これに準ずる行為をなしたとき」などの規定は、九号までの規定が想定しない、しかし九号までの事由と同程度の悪質な行為が存在したときのために注意的に置いた規定に過ぎない。被告は、この規定を媒介に、就業規則第五条第一項違反を主張するが、同項の「職員は、・・・銀行の信用と利益を保全する義務があるものとする。」との規定における「信用と利益」とは、先に第五四条三号、八号について論じたのと同様、社会的に見て正当な信用と利益でなければならない。本件出版物に記載されている内容はいずれも公共性の程度の高いテーマである。公共の利害に関わる違法・不当な事実が存在しているのに、それが社会的に公然と批判されないまま確保される「信用と利益」は、もはや法的保護に値するとはいえない。従って、本件出版物の記載事実が真実であれば、あるいは真実と信ずる相当の理由があれば、もはや、第五条第一項に違反するものとは言えず、懲戒事由を定めた構成要件に該当しないというべきである。

2 正当な表現行為であることについて

(一) 事実の公共性について

被告は、一私企業にすぎない被告内の労働条件ないし労働環境に関する事実関係は公共性を有しないと主張する。しかし、銀行は、一私企業にとどまるものではない。銀行は預金、貸付等の銀行業務を通じて多数の市民と直接関係しており、その経済活動は国の経済政策にも影響を与えるものであり、その公共性は明らかである。とくに被告のようなわが国有数の大規模な都市銀行については、その公共性は説明を要しないほどである。したがって、被告の運営は、多数の預金者はもちろん、国の経済にも影響があるから、その健全な運営は国民一般あるいは社会一般の利益に大いに関係している。それゆえ、被告に関する事実は公共性があるのであり、その企業内の労働条件ないし労働環境等に関する事実といえども、銀行の健全な運営にかかわるものとして公共性を有することは明らかである。また、企業内の労働条件ないし労働環境に関する事実関係は、それが憲法、労働基準法に違反するものであれば、それが公共性を有する事実であることはいうまでもない。法秩序の侵害はそれ自体公共性を有するからである。とくに、労働基準法の刑罰規定違反は、犯罪行為であり、これが公共性を有することは、刑法二三〇条ノ二第二項が犯罪行為に関する事実を公共の利害に関する事実とみなしていることから明らかである。原告らが本件出版物において、公表している事実は、原告らが「信条」等を理由に資格、賃金、仕事等において不当な差別を受けた事実であり、これは憲法一四条の平等原則や労働基準法三条の均等待遇の原則等憲法・法律に違反する事実であり、かかる違反事実が公共性を有することは明らかである、しかも、右労働基準法違反は単なる法律違反にとどまらず刑罰規定(同法一一九条)に違反するものであるから、使用者である被告の犯罪行為として、かかる事実に公共性が認められる。

(二) 目的の公益性について

被告は、本件出版の目的が被告内において適法な労働条件と労働環境の実現にあったとしても、一私企業内の事柄にすぎないから、目的の公益性を欠くと主張する。しかし、被告が一私企業でないことは前記のとおりである。また、原告らの出版目的としての適法な労働条件と労働環境の実現とは、本件出版物によって、被告内の労働条件や労働環境に関する憲法・労働基準法違反の事実を社会に公表し、社会の批判、監視下におくことによって、かかる法秩序の侵害を是正しようということであるから、これが公益を図る目的にでたものであることはいうまでもない。

(三) 本件各手記における事実の摘示、表現方法の適正、相当性について

一般に、民主主義社会においては、言論表現の自由を保障することによって、民主主義が担保されるのであり、その意味で民主主義と言論表現の自由は不可分の関係にある。従って、公共的、社会的な性格を有する問題について、前提となる事実が事実であるか、あるいは少なくとも真実であると信ずるにつき合理的な理由ないし相当な根拠が存在する限り、その表現方法や評価は、原則的に表現者の自由に属すると解すべきである。

事実の表現の仕方、評価の仕方は当該事実の社会的な背景や社会的な性格、表現・評価をする者の事実との関係、立場、利害などによって、きわめて多様、広範であり得る。とりわけ本件のように労使間で生起する紛争、問題については、事実自体の認識、理解においてさえ、労使間で鋭い対立、相違を来すことがしばしばである。

本件出版物は、労働基準法が罰則をもって禁止する各種差別的取り扱いや時間外労働といった労働実態等について、労働者の立場から記載したものであり、各手記、書名、目次を含む各種の見出し、帯の記載のそれぞれの表現・内容のいずれにおいても被告の名誉を毀損し、その信用の低下を来すなど刑事、民事上の犯罪行為、不法行為にあたる点が存在しないことはもちろん、まして被告就業規則の懲戒規定に違反しないことは明白である。

3 正当な労働組合活動であることについて

(一) 本件出版が労働組合活動であること

原告らは、被告に雇用されてその従業員として働く労働者であり、「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」を有するから、たまたま労働組合に組織されていなかったり、所属する労働組合から疎外されあるいはこれと対立関係にあるため独自の活動を余儀無くされている場合であっても、その活動が、労働条件の維持、改善のための活動であるかぎり、憲法二八条の団体行動権の保護を受ける。

原告らの本件出版物への手記の寄稿は、原告らが、被告の従業員であり、かつ被告従業員組合の組合員として、使用者たる被告との対抗関係のなかで、従来から長年にわたって被告に対して労働条件の改善を求める要求(賃金差別の是正、適正な昇格、男女差別の是正、サービス残業の廃止、頸肩腕症候群など職業病への適切な対処など)を行って来たが、その実現のための活動の一環として、被告に対する「不当差別人事の是正に関する要請」を基本として、被告におけるこれらの要求をめぐる労働条件の実態、これによって被告の従業員とりわけ原告らがこうむって来た不利益などの実情を手記の寄稿・出版という手段で社会に訴え、これらの要求の実現のための活動への理解と支持・支援を求めたものである。したがって原告らの手記の寄稿・出版という態様での活動は、まさに憲法第二八条の保障する労働基本権の行使であり、労働組合法上の正当な組合活動である。

そして労働者、労働組合は、その団結活動として、自らの労働条件や社会地位向上のために、合法的なあらゆる手段を選択、行使する権利があり、またこのような権利とその行使には、企業内にとどまるべきであるとの社会的、法律的規制は存在しない。したがって、労働者、労働組合は、ストライキはもちろん全国的に社会に訴え広範な世論を喚起し政府や産業あるいは企業に対する社会的批判を強め、このような社会的批判にも依拠して当該企業の反省、譲歩を勝ちとることを目的として社会的な宣伝活動を繰り広げる権利を有する。このような宣伝活動として労働者、労働組合が、機関誌、ポスター、ビラ、リーフレット、パンフレットの配布はもちろん図書の無償、有償の出版あるいはラジオ、テレビのいずれの手段を選択するかは、完全に自由である。

組合の対市民向けの宣伝活動として、ビラ配布があるが、ビラと図書とはいずれも文字、文書による宣伝媒体として、その本質的な差異は存在しないし、影響力の点においても、その数量に左右されこそすれ、本質的な差異は存在しない。本件出版物は発行部数がわずか数千部にすぎず、事案によっては数十万部のビラが配布されることがあることからも、影響力においてむしろビラに勝ったとはいえない。確かに図書は、ビラに比べて体系的、全面的かつ詳細にアピールの内容を記載することができ、配布領布の範囲の点で異なりうることが指摘できるが、本件出版物については、これらの点についてもビラにまさる宣伝活動があったとはいえず、領布の地域的範囲及び購読者の範囲の点でビラと差異がありえたといえるにすぎない。

(二) 原告らの本件出版物への手記の寄稿・出版の組合活動としての正当性

(1) 本件出版物への手記の寄稿・出版の基本的な動機・目的・手段の正当性

本件出版物は、出版社の発案に基づいて、月刊『銀行マン』編集部が、被告で働く原告ら一九名に、出版物冒頭所載の「不当差別人事の是正に関する要請」に集約されている諸要求の具体的な内容について、これにかかわる原告らの手記の執筆・寄稿を求め、これをテーマ毎に分類して見出しを付し、右編集部及び出版社の銀行物シリーズの一環としての考慮から、「トップ銀行のわれら闇犯罪を照らす 告発する銀行マン一九人と家族たち」との書名を付して出版したものである。そして本件出版物の内容になっている原告らの手記は、前記編集部の求めにより、被告の従業員たる労働者の立場から、被告における原告らを含む労働者の労働条件の実態とりわけ原告らに対する差別の実態、その改善要求の内容、これに対する被告及び管理職らの対応について、手記を出版するという手段によって社会的な理解と支持・支援を求めようとする動機と目的のもとに執筆・寄稿されたものである。

(2) 本件出版物における事実の摘示、表現方法の適正・相当性

本件出版物の内容たる原告らの手記において摘示した事実は後述のとおり真実であり、その表現方法も、労働基本権行使、組合活動としての言論活動の相当な範囲を逸脱するものではない。

事実についての評価の仕方・表現方法は、事実が事実であり、ないしは真実と認識するについて相当な根拠を有する限り、基本的には執筆者の判断に委ねられるべきものであるところ、本件のように、労使間で生起する紛争・問題については、事実自体の認識、理解においてさえ、労働者・労働組合と使用者との問に鋭い対立・相違をきたすことがしばしばである。まして事実や紛争にかかる問題についての評価やその表現方法においては、労働者、労働組合の立場、見方と使用者の側のそれとが対立し、相違するのはむしろ当然であり、また労働者・労働組合についてはその見方、立場に由来する強調的な表現や評価が起こりがちなことは否定できない。しかし、これをもって直ちに労働者・労働組合の言論活動としての相当な範囲を逸脱したものであるなどという評価を行うことは誤りである。このような表現は、労働者に対して昇給・昇格・配置転換など、いわば生殺与奪の権限を有して圧倒的に優越する立場に立つ使用者とこれに対抗するに事実上わずかに言論活動という手段(それも極めて限定された範囲での)しか残されていない労働者の力関係を踏まえれば、労使の対抗関係に不可避的にともなう対立感情の発露として許容されるべきである。本件にあって被告は、「不当」、「差別」などの、むしろ評価に関わる表現方法を非難する。しかし、総じて本件各手記は、客観的・具体的に事実を叙述しており、その表現・評価も慎重で抑制的である。「不当」、「差別」などの表現は、労働者・労働組合が使用者の姿勢・対応などについて使用する常套的な表現であり、これをもって「中傷・誹謗」、「誇張・歪曲」などというのは全く失当である。

被告は、被告が本件出版物の記載内容のうち「問題であると考える主要な箇所」を分類して「A事実に反する記載、及び事実を歪曲、誇張した記載」(別紙一)と「B被告を誹謗する表現」(別紙二)とに分けてこれらが本件戒告処分の具体的事由であるとした。したがって被告の主張のうち本項において検討すべき表現方法・評価にかかわる部分は、主として「B被告を誹諾する表現」とされるものである。そもそも「誹謗」とは、「そしること、悪口をいうこと」(「広辞苑」)と解説されるように、合理的な根拠なく相手、方を非難するという意味合いの、きわめて抽象的で厳密さに欠ける表現であり、また「誹謗」されたとする相手方の主観的な受け止め方に左右されやすい表現である。したがって「誹謗する表現」などという指摘は、それ自体としてはほとんど意味をなさず、これをもってただちに懲戒処分の対象にするなどということは、、処分者の主観的・感情的・反発的・専制的態度を示すにとどまり、それ自体としてはなんら懲戒処分の客観性、合理性を担保するものではない。

4 本件戒告処分手続の著しい不公正―事実調査・原告らの弁明の機会の不存在 一般に使用者の被用者たる労働者に対する懲戒処分については、実体的な処分の根拠たる規定の存在と同時に、仮に就業規則上懲戒処分の根拠規定が存在しない場合でも(懲戒処分に関する規定が存在するが、労働者の対象行為に該当する規定が存在しない場合に処分が許されないことはいうまでもない)、処分理由の存否の調査と労働者の弁明の機会を与える手続の保障が最低限の要件であり、これを欠く場合当該処分は無効というべきである。被告の就業規則の懲戒規定には、懲戒手続についての規定が存在せず、懲戒委員会が構成され審理されたり、懲戒対象事実・行為について客観的で公正な調査が行われたり、被処分対象者の弁明の機会が保障され、さらに異議申立を許すような制度的保障は存在しない。

実際にも原告らに対する懲戒処分に際しては、各原告について各所属支店長を通じて手記を寄稿したか等の確認の質問が行われただけである。調査・検討の責任者であったP5は、原告らの手記や解説に記載された事実関係の調査検討に加わらず、被告の立場、方針に添わない事実は存在しないとの前提に立ってこれを否定し、もっぱら被告の立場・方針に対する原告らの批判、評価が中傷、誹謗にあたる記載の指摘とこれに対する非難をこととしていた。P5のこのような対応は、同人を担当責任者として調査、検討にあたらせた被告が、本件出版物の内容たる事実関係の存否についてほとんど関心がなかったこと、むしろ事実の存否はさておき本件出版物が被告を批判していること自体が容認できず中傷、誹謗にあたるとして本件戒告処分をおこなったものであることを推認させる。本件戒告処分は、懲戒手続が備えるべき最低限の要件も満たされていない点で、適正な手続に違反した点でも無効とされるべきである。

5 本件戒告処分の意図―不当労働行為

本件戒告処分は、その真意において、明白な不当労働行為意思に出たものであり、この点でも無効である。原告らのグループは、長年にわたり、被告のなかで、従業員の利益に添い、①頸肩腕症候群などの職業病の労災認定をかちとり、その根絶のために活動し、②時間外労働をなくすためのサービス残業の摘発と該当従業員全員の残業手当の遡及支払を実現し、③賃金、昇級昇格などにおける男女差別の廃止のために活動し、該当従業員全員の差別分の遡及支払を実現し、④一貫して職場における機械化・合理化による人減らしと労働の過密化に反対する活動を展開してきた。これらは被告とこれに癒着した従組の労働者支配・労務管理の方針や意図に反することから、被告は、露骨かつ極端に原告らグループの存在とその活動を敵視・嫌悪し、従来から不当な監視、疎外、差別政策を取ってきた。

そして、たまたま、平成五年二月六日に原告らのグループの一部が実名でテレビに出演し、被告のサービス残業、ただ働きの実態を公開したことから、平成四年七月一五日の本件出版から約七ヶ月の長期間が経過し、その間二回(平成四年八月五日、三一日)にもわたる原告らの被告に対する調査に関する質問にも回答がなかったにもかかわらず、本件出版を奇貨としてこれに根拠のない言いがかりを付け、本件戒告処分をおこなったのである。

すなわち、本件戒告処分は、労組法七条一号の不利益取扱いにあたるとともに、同条三号の支配介入にもあたり、不当労働行為として無効である。

6 責任(原告ら各人の手記以外の部分に対する原告らの責任について)

被告は、原告らの手記の執筆・寄稿行為と編集者・出版社の編集、出版行為が社会通念上一個の行為(共同行為)と評価されるから、原告ら各自が本件出版物全体について共同責任を負うという独白の責任論を主張している。しかし、このような責任論は法的な根拠を欠くものであって、失当である。そもそも法的な責任論として、共同行為か否かが問題となるのは、刑法の共犯や民法の共同不法行為のように法律に共同責任を認める規定があるからである。法律の規定を離れて、共同行為か否かを論ずるのは無意味である。すなわち、近代市民法の下では、個人は自己の行為についてのみ責任を負い、他人の行為については責任を負わないのが原則であり(個人責任の原則)、社会通念上一個の行為(共同行為)ということから、直ちに共同責任が肯定されるわけではないからである。この個人責任の原則に例外を認めるには、法律の規定に根拠がなければならない。懲戒責任については、就業規則の懲戒規定に共同賛任を認める特別の規定がなければならないのである。

7 各記載事実の真実性について

(一) 被告の営業実態の反国民性

(1) 被告は、銀行法一条の定めるとおり、「銀行の業務の公共性」に鑑み、「国民経済の健全な発展に資する」ために、「健全かつ適切な運営」を行う社会的責任を負っている。このように銀行業務が「公共性」を有する以上、被告としては、違法でなければ何をしてもよいはずがなく、適正妥当な運営に努めなければならない。しかるに、原告らが被告に入行してから身近に見てきた被告の業務実態は、この銀行法の理念、あるいは被告の経営理念として標榜する「ピープルズバンク」という言葉の持つニュアンス、語感とは裏腹に、違法・不当な経営・営業実態が山ほど含まれるものであった。庶民、労働者の利益に反すること、あるいは銀行法の理念に反したこと、さらには法令違反行為が幾度となく行われてきたのである。

(2) 本件出版物において「公序良俗違反」「反国民的」な営業実態の例として挙げられているのは、①「得意先に株や投信を押しつけたり、土地の売買を積極的に推進し、不動産屋顔負けの営業」をしていたこと、②「金利が下がっていく局面のなかでは、借入の金利も当然、下がっていくはずなのですが、銀行はなかなか下げません。得意先からクレームが、毎日のようにあります。いろいろな口実をつけ、中小企業の得意先をねじ伏せているのが現状」であることであるが、これはいずれも真実である。

(3) 不動産屋顔負けの営業

本件出版物の初版は平成四年であるが、これはいわゆるバブル崩壊後、日本中を狂わせたバブルの張本人である、不動産投機をあおった銀行等に対する社会的批判が強まったころであった。バブル当時、被告は、「提案型融資」を方針として推し進め、これに被告従業員を駆り立てていた。QCサークル全国大会のテーマとして、「不動産案件の発掘による長期貸出の推進」を設定するなどして、全国の銀行員の尻を叩いていたのはその一つの表れである。当時の全国大会に出された提案のタイトルをみると、「不動産仕掛作戦」、「提案する銀行、戦略の徹底的な展開」などといった勇ましいものが随所に見られる。原告P12も、銀行の支店を中心に半径五〇〇メートル以内のエリアの不動産登記簿謄本を全部調べて融資案件がないか探したり、また、リスクの大きいドイツマルク債をセットにした融資も勧めていた。これらはまさに「不動産屋顔負けの営業」と許すべきものであり、論評として不適切とは考えられず、ましてや誹謗中傷などとされるいわれはない。そして、その結果、顧客の返済能力や担保能力を考えない過剰融資が数多くなされることとなり、変額保険取引をめぐる悲劇も発生している。

このように被告は、一方で顧客の返済能力や担保能力を考えない過剰融資にょり、少なからぬ庶民を苦しめ、ときには破滅に追い込みながら、他方で、各種報道によれば、仕手戦グループ、暴力団などとの黒い関係も噂されるような違法、不当な融資を行っていた。また保険業法(当時は募取法)に違反して、被告本店から号令をかけて生命保険を勧誘していた事件も報道されている。ちなみに、保険業法に違反して保険勧誘をする構図は変額保険の事例にそのまま引き継がれている。このように、本件出版当時、被告はさまざまな反社会的でダーティーな営業活動を展開していたのである。その後も、被告が「組織ぐるみ」で行ってきた反社会的行為は、大蔵省・日銀汚職、「利益付け替え」による脱税協力、阪神大震災に乗じた金儲け、貸し渋り、預金保険料の操作等とどまるところを知らないかのごとくである。

そして、同種事例がいくつもあり、それが組織ぐるみで行われていたとしか考えられない事実が指摘され、これに沿った関係者の発言が社会的にもなされているということは、その事例が特殊例外的な事象ではなく、共通の背景ないし原因をもったものであること、構造的なものであること、事件や不祥事を生み出す土壌、「風潮」が存在したことを示している。すなわち、「『目標』の数字さえあげれば『すべてよし』の風潮が職場を支配し」「『目的のためには手段を選ばず』との考えと行動が中心にすわり、すべてを支配」(別紙二の四一番)した結果である。

(4) 得意先のクレームをねじふせている事実

「得意先からクレームが毎日のようにあります。いろいろな口実を設けて、高い金利を押しつけ、中小企業の得意先をねじ伏せているのが現状」(別紙二の五一番)との記載は、原告P12が日常的に銀行内で見聞きしている以下の事実に基くものである。すなわち、被告においては、①公定歩合と貸出金利を連動させる「連動契約書」を締結していない場合には、公定歩合が下がっても、貸出金利については、下げ幅を縮小するか、実施時期を遅らせるよう顧客と交渉するように、また②「連動契約書」が締結されている場合には、コンピュータ登録を一時ストップして金利引き下げを棚上げするようにといった従業員への指導がなされていたのである。

そして、クレームを付ける顧客に対しては、「強い心で交渉しましょう」と指導していたのである(ここで、「三つのS」の一つであるStrenngthすなわち「強い心」が強調される)。これは著しく手前勝手な交渉態度であるが、それを従業員に指導してやらせていたのであるから、「ねじ伏せている」というのはまさにそのとおりである。

(5) 被告が「コンプライアンス」を発表した意味

近年、多くの企業、特に銀行、証券、保険など、バブル時期にあまりにも無茶な営業活動ゆえに社会的批判の集中した業界において、度重なる不祥事への対応策として、「コンプライアンス(法令の遵守)」を掲げ、その指針等を制定するところが増えており、流行となっている観がある。しかし、従前からまともな営業が行われていたのであれば、今さらこのようなものをわざわざ制定する必要などないのであって、被告が「コンプライアンス」を強調するに至ったのも、従前の被告に、違法・不当な営業実態があったからにほかならない。右「コンプライアンス」には、「法令や業務に関するルールに違反する上司の命令に従ってはいけません」との記載が見られるが、子どもではなく大の大人に対する規範としてこのようなものがわざわざ明文で定められるというのは異様な事態である。これは上司が違法不当な業務命令を出し、そのため事件や不祥事に結びつくという実態が数多くあったからこそ、わざわざこのような当たり前のことを定めなければならなかったのである。また、平成一〇年五月の頭取の全国支店長会議における訓示を見ると、「かっての営業推進は、ガイドと達成率の管理に終始しがちでありました」「お客さまから見た『価値』よりも、銀行の方針や都合が前面に出た事例」などの言及が見られる。すなわち、被告に反社会的、「反国民的」営業実態が存在したことは、被告自ら認めているに等しいのである。これを被告に働くまじめな労働者が憂慮し、批判することは当然のことある。

(二) コーポレートカルチャー(三つのS、三つのC)について

(1) ここで問題となっているのは、事実の真偽の問題ではなく、「コーポレートカルチャー」という、被告企業の作出した概念をめぐる「評価」である。そして立場が違えば評価が違ってくるのはむしろ当然である。すなわち、企業経営者、使用者から見れば労働効率を高める「合理化」のためのものといえる場合でも、いわゆる労使協調を必ずしもよしとしない立場をとる労働者から見た場合、それは「労働強化」のためのものであり、批判の対象となりうるのである。

(2) コーポレートカルチャーの実態とその評価

被告の「コーポレートカルチャー」として強調される「三つのS」、「三つのC」は、原告らが日常的に見ている職場実態からすれば、被告の方から顧客に対して仕掛けていって商品を売りつける「提案型融資」を強力に推しすすめるためのものであり、労働者をして徹底的にノルマ達成に向かわせるための精神論である。そして、右コーポレートカルチャーは、被告における重要な人事管理ツールの一つである「能力開発表」において、向上度ないし浸透度が記載されることになっており、これを当該労働者とその上司、さらには被告人事部が確認するシステムとなっているのであるから、その向上度合いないし浸透度合いが当該労働者にとって強い関心の対象となることは当然である。また、被告自らいうように、このコーポレートカルチャーが「銀行員に必死で働いてもらうためのもの」であれば、よりよい人事考課を求めて、「死の直前、ギリギリまで」働く者が出てくるのはむしろ当然であろう。現に、原告らの限られた調査能力の及ぶ範囲で明らかにした「三和銀行における在職死者数一覧」からも、働き盛りの労働者が多数在職死している状況は浮き彫りになる。そして、被告の主張する「競争に勝ち抜いていけるように銀行員に必死で働いてもらうためのもの」という説明を、労働者の立場から見れば、「私たちをしゃにむに働かせるための呪文のようなものでした」(別紙二の五一番)と表現するのも、ごく自然なことであろう(両者は実は同じ事柄を言葉を変えて言っているだけにすぎない)。被告は、右コーポレートカルチャーの目的は「職員の意識の統一」にあるとするが、意識が統一されるべきということは、異論が消滅させられるということであり、批判が許されないということである。それは一種の思考停止状態に陥ること、すなわち一種のマインドコントロールにほかならない。このようなコーポレートカルチャー・フレーズを「呪文」と表現するのはごく自然なことである。

(三) QC、TQCについて

(1) ここでも、問題になっているのは、事実の真偽の問題ではなくて、立場によって違ったものがありうる「評価」に関する問題である。従って企業経営者、あるいは労使協調を無条件に是認する立場のものにとっては肯定的評価が与えられたとしても、労使協調を必ずしもよしとしない立場の労働者からは、労働者を果てしない労働強化に駆り立てるものとして批判の対象となるのはむしろ当然というべきである。

(2) QC、TQCの実態とその評価

QCが「自主的に」といいながら、他方で「全員参加」と述べていたのは明らかに矛盾した態度であるし、「一人の仲間外れを出さないで」とされ、これに参加しないものは「明るい人間関係を作る活動」に反対する非人間的な考えであるかのような雰囲気が作られてきたのであるから、事実上の参加強制であったことは明らかである。そして「活動指針は頭取の標語」というのであるから、「形式上の自主性尊重と内容上の外的強制」(別紙一の五九番)という表現はまさに事実に合致している。そしてこれは昭和五六年以降は、形を変えて、「外交、内部を問わず、すべての労働者にノルマ(目標)を押しつけ、その達成度を日々追求」するTQCという形で推進されている(同番)。被告は、TQCについて、「トップから第一線まで全員が統一された方針のもと同じベクトルで共感と使命感をもってチャレンジするものでなければならない」と説明している。ここでも、意識・考え方の統一を求めており、コーポレートカルチャーについて論じたのと同じ問題がある。のみならず、人事考課では「企画・創造力」として評価の対象となるというのであるから、制度上も参加が強制されているのと同じである。そして、具体的な目標設定についても、上司との面談を通じて決めることになっており労働者に自己決定の自由はない。そして、いったん決められた目標値が達成されないとなれば、結局は査定においてマイナスに作用し、また「業績・基盤表彰」などの表彰制度を通じて各部店のランク付けにまで影響し、臨給(ボーナス)の各部店の配分総額を左右することになる。一種の連帯責任である。そうなると、少しでも高い評価を受け、高い賃金を得たい、あるいは同僚に迷惑をかけたくないという気持ちは人間誰しもが共通に抱くものであるから、結局、どの労働者も必死になってこの目標達成に向けて努力せざるをえないことになる。また、TQCの一要素である「提案」については、「職員の経営参加意識・問題意識の醸成をその目的としている」とあるように、経営者の立場に立ってものを考えることを要求している。そしてその結果がすべて人事考課の対象となるというのである。このようにQC、TQCを通じて、労働者が非自発的に設定させられた目標達成に向けて「自発的な」努力を余儀なくされるというシステムが構築されてきたのである。これが、労使協調を必ずしもよしとしない労働者の立場から「ノルマを受け入れる思想的準備」として批判の対象となるのはむしろ当然である。被告が問題とする「ノルマを受け入れる思想的準備がされていた」(同番)という表現も、きわめてありふれた表現であって、これを問題にすること自体がおかしいというべきである。

(四) 「専制支配体制」について(別紙一の六三番、別紙二の二五番、四五番及び五〇番)

(1) ここでも、問題となっているのは事実の真偽の問題ではなく、「ものの見方」、「評価」とそれをめぐる表現方法、言葉遣いの問題である。

(2) 「専制支配体制」という用語は、いわば労働運動における常套句、慣用句である。のみならず、「専制支配体制」は学術用語でもあり、学者・研究者が通常用いる言葉であって、ことさらに目くじらを立てるようなものではない。

(3) しかも、被告の職場は、現実に「ものが言えない」職場である。本件において、原告らが各手記において自らの体験を具体的に論述するに当たり、登場人物(同僚ないし上司)をイニシャルで記載せざるをえなかったのは、「アカ」とされている原告らに話題を提供するなどして、広い意味で協力していたことが被告に発覚するや、たちまち要注意人物として取り扱われ、不利益を受けるおそれがあるからである(それどころか、現実には私的な会話を交わしたり被告に対する不満や愚痴を述べたりするだけでマークされるのである。)。何よりも原告らが本件出版物に手記を寄せ、被告を節度を持って批判したとたんに懲戒処分を受けるのであるから、「相当暗い、ものが言えない職場」であることは明らかな事実であろう。

(五) 「四つの人ザイ」論(別紙二の一七番、一八番及び五二番)

(1) ここでも、問題となっているのは、事実の真偽ではなく、「ものの見方」、「評価」をめぐる問題である。そして、この「四つの人ザイ」という用語が昔からあったとしても、それ自体、批判が許されないはずがないし、何よりも、この言葉を、誰がどのような立場でどのような機会に引用するかによって、そのことの持つ意味は違ってくる。また、仮に単なる「比喩」であるからと言って労働者がこれを批判することが許されないということにはならない(しかも、後述するように、それは単なる「比喩」とは言えないものである。)。

(2) 被告頭取が「人ザイ」論を述べた意味とその評価

本件で問題となっている「四つの人ザイ」は、被告頭取が「全国支店長会」という上級管理職の会合において、訓示として述べたものである。そこでは、「人罪」、「人在」、「人材」、「人財」の四つの分類を紹介し、「自分自身について、そして部下について、どの『人ザイ』にあたるのか常にチェックし・・」などと述べられている。これが、自分の部下をそれぞれ「人罪」、「人在」、「人材」、「人財」のどれかに当てはめて考えてみなさいという意味であることは言うまでもない。すなわち、これは、被告企業のトップが、支店長という現場における労務管理のトップに対して、労務管理ないし人事政策についての被告企業としての方針ないし考え方を明らかにしたものであり、「四つの人ザイ」の観点から部下である労働者をチェックし、評価するよう求めたものである。従って、被告がさかんに強調するような単なる「比喩」などではない。このように、企業の利益追求への貢献の度合いという物差しで労働者を「人罪」、「人在」、「人材」、「人財」に分けて評価するものであれば、特に「人罪」などというショッキングなレッテルを貼られてしまうかもしれないとなれば、これを労働者の立場から批判する意見が出ても何ら不自然ではない。右頭取発言について外交の部屋にこの四つの文字が仰々しく貼ってあるところもあったという。これは原告P12が実際に体験した事実である。外交担当者の部屋にわざわざ貼り出すということは、末端の労働者に被告としての考え方を日々示し、その観念を植え付けているということである。そのような環境におかれた労働者が、自分が一体どの「人ザイ」だろうかと思い悩むことも往々にしてありうることである。そして、自分は下位の「人ザイ」と思われてはいないだろうか、あるいは今後そのような評価を受けはしまいかと不安になり、少しでも上のランクの「人ザイ」と評価されたいという気持ちで働かざるをえないことも往々にしてあるだろう。すなわち、労働強化に結びつくことになる。このように、企業のトップである頭取が公式の会議での挨拶においてこのような言葉を引用することは、労働者を不安に駆り立てるものであるのみならず、その品性すら疑わしめるものであり、これを労使協調を必ずしもよしとしない労働者の立場から批判するのはむしろ当然である。

(六) 合理化、「人減らし」について(別紙二の三二番、三八番、三九番及び四〇番)

(1) 合理化によって人員削減(原告らの表現によれば「人減らし」)がおこなわれたことは事実であり、このことは被告も認める。例えば、被告の従業員の数は、昭和四五年には一六一〇一人だったのが、平成二年には一三六〇四人と、約二五〇〇人も減っている。また、女性の場合で言うと、同時期の間に八〇四四人から三五四六人と、約四五〇〇人も減少している。そして、これらの「人減らし」は他の銀行に比べても、被告において最も急激に進められている。

(2) 「合理化」によって働くものの労働負担が強化され、それが時間外労働や職業病の発生という形で現れているということは、原告らだけでなく、様々な労働運動の中で多くの人から指摘されてきたことであり、日本の労働運動の大きなテーマのひとつであった。

(3) 被告は「合理化によっていかに利益をあげるか」ということは常に検討しているが、「合理化が労働強化になるのか否か」ということは、ほとんど検討していない。被告がこのような観点から何も対策を立てていない一例をあげると、現在、コンピューター作業をする場合は、作業者の健康を守るため、その作業時間に限度を設けているのが一般的であるが、被告は作業時問の上限さえも設けていない。

(4) 原告らが、合理化によって労働強化がなされ、労働負担が増えると主張してきたのは、被告では合理化に伴って労働密度が高まり、あるいは時間外労働が増え、さらにはその労働の一部がサービス労働になっていること、また、被告においては職業病が多発し、多くの在職死亡者が出ていることなどの実態が存在したからである。また、昭和五八年から平成五年までの間に「一店舗当たりの従業員数」は二六・八人から二〇・三人に減少しているのに、「預金高」は一五兆三〇〇〇万円から三四兆七〇〇〇万円に、「貸出金高」は一〇兆九〇〇〇万円から三四兆一〇〇〇万円にそれぞれ増加し、その結果一人当たりの「月間事務量」は六二〇〇件から一万一六〇〇件に増加しているのであって、これだけからも働く者の労働負担が増えていることがわかる。

(5) 労働者・労働運動の立場から合理化、人減らしを批判するのはむしろ当然である。それどころか、合理化、人減らしを批判しない労働組合・労働運動が仮にあるとすれば、それはその名に値しないというべきであろう。これらのことからするならば、原告らが「合理化」によって労働強化がなされ、労働負担が増えたと記載したのは事実であり、かつ労働者の立場から見れば当然出てくる評価であって、何ら問題とされるようなことではない。

なお、別紙1、六二番につき、確かに被告の言うとおり、新人事制度導入は昭和六一年で、第三次オンライン移行は昭和六三年であるが、これは初歩的な校正ミスである。しかし、「第三次オンライン化」以下の部分は、正しい年表をもとに書かれたものであり、そこにいう「第三次オンライン化の進展」というのは移行のための約四年にわたる準備期間を含んだ時期のことを指している。そして、ここではこのような準備作業の中で新人事制度の導入も捉えることが出来ると指摘しているのであり、このこと自体は正しい指摘である。

(七) 事務表彰制度について

(1) 表彰制度の仕組み

被告の表彰制度には、事務表彰、業績表彰、基盤表彰の三つがあり(本件出版当時)、それぞれについて詳細な評価項目が決められている。そして、半期ごとにそれぞれの項目について点数がつけられ、その総合評価で店のランクが決められる。即ち、業績表彰、基盤表彰、事務表彰につきそれぞれAからEまでのランクをつけ、それを総合した形で店のランクが決められるのである。そして、それが店の成績となり、その成績によって店全体のボーナス支給額が決められる。表彰制度がこのような仕組みになっているため、店が表彰されるか否かについては連帯責任的な状況が生まれてくる。

(2) そして被告の事務表彰ではかなり細かな項目まで計数化の対象とされている。例えば、営業店の事務表彰基準は「顧客に信頼される事務体制」「働きやすく・働きがいのある事務体制」「スリムで強い事務体制」の三項目に大別された上で、四七の評価項目が決められている。そして、モニター調査なども行われ、例えば、店頭応対では声のトーンや語尾、挨拶の仕方までチェックされ、また、電話応対では、電話に出るまでのベル呼出音回数までが点数化されている。

このような状況の中で各店が競争させられ、また、一人のミスが全体の足を引っ張るという仕組みにもなっているため、一本の電話の応対にも神経を使い、ひとつのミスも許されないというようなかなり緊張した状況に職場がなっている。原告P12によれば、誤操作のミスをした者全員が朝礼の時にみんなの前に並んで「昨日は、ミスをして申し訳ありませんでした」と言って頭を下げさせられる、といったことはしょつちゅうあり、また、「さんわ」に載った従業員の座談会でも、「執務日報にテラーの前日の獲得件数をあげていくんです。少ないと恥ずかしいし、頑張らざるを得ない。」「はじめは、間違った女の子が泣きだすぐらい原因を追及されたわけです。それも、もう翌日来るのがいやになるくらい」「間違った者に原因をノートに書きこんで、私のところへ説明に来てもらっています」「私の店では、間違うと翌日の朝礼で、担当代理にあやまってもらっています。全員に『昨日は申し訳ございませんでした』と言ってね」との記載がなされている。そのような実態は被告のどこの職場でも起こっていることである。そして、以上のような認識のもとに「表彰制度が職場を悪くしています」(別紙一の九七番)と評価するのは、労働者の立場からの評価としては正当である。

(八) 目標管理について

事務表彰の重点項目のひとつとして「時間外勤務(内部在籍一人当たり)(時間)」があげられている。また、事務表彰評価基準のひとつとして「模擬実習合格率一二点」と記載されている。

次に、「ノルマのルツボに全員がたたき込まれる」(別紙二の四一番)と書いた点についても、原告らがここで述べていることは、被告の従業員のおかれている状態を客観的に見るならば「ノルマのルツボにたたき込まれている」と言ってもいいくらいだということである。

さらに「目的のためには手段を選ばず」(同番)と書いたのも、例えば、お客さんに無理やり作らせたJCBカードをお客さんに渡さないまま、一定期間が過ぎるとはさみを入れて処分してしまうとか、リスク商品をそのリスクを十分説明しないで売りまくる、さらには、新聞でも取り上げられた「協力預金の見返りに生命保険を紹介したり、いわゆる総量規制に違反することがわかる書類の破棄を命じる。」などといったことがあったので、このような表現をしたのである。

(九) サービス残業(別紙一の二番、二七ないし二九番、七五番、三五番、三七ないし三九番、四一番、六九番、九〇番、一〇六番、一一五番、一一六番、一一九番、一二七番、一五四番、別紙二の一六番、三六番、四六番及び五三番)

(1) 銀行業界において広範なサービス残業があることは、多くのマスコミ等で指摘されていることである。また、東京労働基準局が平成三年に都内一二金融機関、延べ八〇店の調査をしたところ、三六協定の範囲をこえる時間外労働や時間外労働に対する割増賃金の支払等の労働基準法等関係法令違反が、監督対象の六八パーセント五四店で存在した。この問題は国会でも取り上げられ、労働省のP98労働基準局監督課長は「立ち入り調査のうち都市銀行は六行四六店舗、そのうち労働基準法三七条違反が一二店あった」と答弁、P99大蔵省銀行局長も「都市銀行にサービス残業があったという認識をもっています・・。」と答弁した。そして、東京労働基準局長は、右調査をふまえ、平成四年三月二五日、社団法人東京銀行協会に対し、「金融機関における労働時間等の適正管理について」と題する指導文書に基づき指導を行った。

(2) 被告職場にサービス残業が多数存在していたことは、次のことからしても明らかである。原告らは、平成四年五月一三日大阪労働基準局長に対し、被告におけるサービス残業の実態についての調査の申立を行った。そして、この事案を担当した中央労働基準監督署は、同年八月から九月にかけて被告の三支店を立ち入り調査した。様々な調査の結果、原告らは中央労働基準監督署のP100主任監督官から「労基法違反になるような問題点はあった。文書による勧告はしていないが、問題点はそのつど銀行の立ち会った幹部に説明した。また、本店・支店幹部にも必要な指導は行った。」との説明を受けた。そして、このような指導があったことは、被告も認めている。なお、P100主任監督官は原告らとの交渉の中で、サービス残業の事実について「時間外表は制度上おかしなことはないが運用上ふざけている。午前八時二〇分から仕事をしているのに午前八時五〇分からしているようになっている」等と述べている。そして、原告らは各自の体験に基き、サービス残業の実態を詳しく本件出版物に記載したのである。また被告の資料によっても、平成元年頃の被告における最終退社時刻が軒並み午後九時から午後一〇時頃になっていたこと、「週間スケジュール」「毎日朝会」等で、朝夕の時間外勤務が最初からスケジュール化されていたこと、時間外に会議をすることが予定されていたこと、運営日誌の「日常業務終了」欄の説明に「役席トレー格納(注、トレー格納とは金庫に重要書類をしまうこと)、メール授受、打合せ会は除く」とあり、これらについては労働時間としてカウントしないことになっていること、「時間外管理」の欄には、「当月目標」「当月累計」「残」という項目があり、常に時間外時間の「残」を意識するような日誌になっていたこと等の事実がわかる。また、そもそも被告ではタイムカードが使用されておらず、勤務報告書に従業員自らが記入するシステムが取られているが、このことがサービス残業を生み出す要因のひとつになっている。

(3) 被告は、サービス残業を強制したことはないと主張する。しかし、原告らが主張しているのは、被告がサービス残業をせざるを得ないような仕組み、雰囲気を作って、従業員にサービス残業を事実上強制しているということである。

次に、被告は「残業時間の予算化」「厳しい予算管理」「時間外勤務のガイドライン」などがサービス残業を発生させている、という原告らの主張は誤っており、同趣旨の記載(別紙一の三八番、一五四番)は事実に反すると主張するが、これらの制度が厳しく運用されることによって、時間外勤務時間を正確に記入しづらくなり、サービス残業が生みだされるのである。即ち、被告の通達によれば、時間外時間についてはまず目標時間数が決められる。そして、この目標時間数を超過すると業績表彰においてマイナスの評価がされ、これはボーナス面に非常に大きく影響する。また、事務表彰においても「時間外勤務評価基準時間数」が決められ、これに基づいて評価が行われる。さらに、時間外勤務時間が一定の基準を越えると管理不芳部店と見なされ、管理責任をとわれることになる。そして、これらの制度のもとで、従業員は本件出版物八五頁にあるように、被告によって決められている目標時間数を越えないような各人の毎月の時間外勤務時間の目標時間を提出させられるのである。同頁の表をもとにいえば、四月から八月までは毎月四〇時間を越える時間外勤務をしてきた従業員が、九月には十数時間の時間外勤務が目標とさせられるのである。しかし、仕事の量が変わらないのに今までの半分以下の時間で出来るはずがない。そこで、実際は目標時間を越える時間外勤務をしても、時間外勤務報告書には目標時間に収まるような時間数を記載することになるのである。

(一〇) 職業病について

(1) 「大阪職対連三〇年史」を見ればわかるように、昭和三五年に入る頃から、多くの企業において合理化にともなってさまざまな労災・職業病が発生しだし、労働運動の中では大きな問題となっていた。もちろん、被告もその例外ではなかった。当時職業病がさまざまな職場で発生し、大きな問題になっていたのもかかわらず、被告はその実態の調査さえもしていない。

また、業務上と認定された一五名の認定理由を見ると、これらの疾病が被告の合理化によって引き起こされたことがわかる。

なお、これまで業務上認定を受けたのは一六名であるが、これは職業病患者がこれだけであるということではもちろんない。原告P88が見聞きしただけでも、原告らの回りにはたくさんの患者がいた。しかし、当時従業員組合はこの問題を取り上げようとせず、また、被告もこれらの疾病を業務に起因するものと認めようとしないだけでなく、敵対的な対応をしていた。そのため、患者の多くは業務上の申請が出来ず、また、被告に対して自分の病気は仕事が原因だと言うことも出来ない状態であった。

(2) 被告は本件出版物の「(リハビリ勤務における)非人間的扱い」(別紙一の五四番)、「上司を通じて露骨な干渉」(同七六番)、「労災申請をしたことに対しての嫌悪」(同一〇九番)、「上司からの確認の電話」(同一一一番)、「家庭訪問による退職強要」(同一四二番)、「あらゆる研修から除外」(同一四四番)等という記載は事実に反しているという。

被告が職業病に関してこのような対応をした背景には、被告が原告らが中心になって取り組んできた職業病の問題を否定的に考え、時には嫌悪さえしてきたということがある。

被告が頸肩腕障害などの病気を業務上のものと認めないため、原告らが中心になって監督署に労災の申請をし、監督署は原告らの申請を正しいと判断して業務上との認定を行ってきた。ところが、監督署の判断が出たのちも被告はそれを素直に受け入れなかったため、リハビリ出社などの場面でのトラブルの原因となったのである。原告らが記載した前述のような出来事は、このような中で起こってきたものであり、事実に基くものである。

(一一) 女性が働き続けにくい職場

(1) 被告は、女性差別を行っており、また被告の職場が女性にとって働きにくい職場であることは、以下に述べるように事実である。

まず、被告の女子労働力政策は、総体として、男子労働者を終身雇用労働者と位置づけるのに対し、女子労働者は結婚や出産を機に退職させ、短期に回転させる若年低賃金労働者として位置づけている。中高年女子労働者は、基本的には正社員としてではなく、パートタイマーや派遣労働者といった不安定雇用労働者として再雇用するという位置づけである。それを端的に物語るものとして、被告での女性の平均勤続年数は平成六年現在で六年四ヵ月、平均年齢は二六歳六ヵ月という事実がある。この点につき、被告は右事実は認めるものの、都市銀行の上位五行の女性の平均勤続年数や平均年齢と比べてみても「被告に特有のものではない」と言う。しかし、このような主張は、単に「他の都市銀行も被告と同じように女性が働きにくい職場である」ことを認めているだけであって、被告の女性労働者が短期間でやめていっている、即ち、女性が安心して長く働ける職場ではないという事実に変わりはない。なお、被告のいう数字を見ても、平均勤続年数等は被告は五行の中で下から二番目の短さであり、女性にとって働きつづける条件がかなり厳しいことがわかる。

(2) 被告では、結婚後も働きつづける女性は極めて少ないため、若い女性従業員は結婚したら退職するものと思っている人は多い。そして、以前は被告では結婚して退職する場合は「寿退職」と呼ばれ、退職金の上積みがなされていた。そして、結婚後も働きつづけようとするカップルに対しては、妻の従業員を退職に追いやろうとするのである。その一例がP9夫婦で、彼らは結婚前は夫は東京、妻は大阪で勤務していた。結婚後も二人とも被告で働きつづけるために、妻を東京に転勤させてくれるよう被告に要請した。当時、被告は東京地域に進出し、営業力の拡大に力を注いでおり、不足する労働力をパートタイマーの採用で補っていたから、経験のある妻を東京に配転することは可能なことであった。ところが、被告はこれを拒否したため、結婚と同時に別居せざるをえなくなった二人は、結婚後四ヵ月目にして妻が退職することを余儀なくされたのである。また妊娠のときには、女性は子どもを家でみるのがいいのではないかというような言葉かけをされたり、出産に際しても、退職してはどうなのかというような意味合いの圧力がかけられるのである。そして、出産後も働き続ける場合に、育児時間を取り続けていくのにはいろいろな困難があり、また、時には出産後という女性にとって一番負担の多い時期に、転勤を命じられることもあった。例えば、原告女性一〇名のうち五名(P4、P47、P13、P6、P67)はこのような出産後の時期に転勤を命じられている。この時期の転勤は原告P4のように通勤時間が長くなるため仕事と子育てが難しくなるような場合や、通勤時間はあまり変わらなくも新しい店で仕事や対人関係に慣れるまでに多くの精神的緊張が必要とされるなど、女性労働者にとっては負担の大きなものであった。

(3) 被告では産休、育児時間取得を理由に低い査定が行われていた。原告P82は、第一子出産直後の一九八〇年六月と一二月の臨給支給時には、「育児時間は遅刻早退扱いになり、四回分で一日の欠勤とみなし、一般の病欠と同様の扱いで計算しカットした」として減給された。また、第二子出産直後の一九八二年一月には、当時配属のα27支店でP101次長より「育児時間をとることにより、朝三〇分遅れ、帰りは三〇分早くなる。現実に遅刻、早退になっているから遅刻、早退扱いをする。また、育児時間を取ることによって勤務時間が短くなる。従って、事務量が少なくなり、当然貢献度が違う。その貢献度合いによって検討し、それは臨給、その他すべてに影響する」との説明を受けたのである。また原告P88は昇給しない理由について、「ただ、執務態度として休暇の取り方に問題があると思います。生理休暇を欠勤で取っている。前にも話したように週休か又は有休でとってはどうか」という説明を受けている。要するに、生理の時は有給で処理すべきなのに生理休暇として処理しているので、被告としてはマイナス評価をするということなのである。

(4) 被告では、昭和六一年にコース別人事制度が導入される前は、研修制度において男女間に明らかな差別が設けられていた。男女によって配付されるテキスト自体が違っており、両者を比べてみると、男女間の差は明らかである。即ち、女性従業員の場合は一週間ほどの導入研修後、各所属の部署に配属され、そこで実地の職場で訓練を受け、三ヶ月後には一応一人前として働く、ということになっている。導入研修の内容は、お茶汲み等の接客マナーや身だしなみ、言葉づかいが中心で、一度配属が決まればそこに固定するのが通常であった。したがって、女性従業員の研修は最初の配属先の係での研修で終わることになっていた。ところが、男性従業員の場合は、導入研修期間は一カ月で、その後本店ないし支店へ配属された後、男性従業員は各係をすべて経験するようになっており、その都度基本研修を受けることになっていた。そして高卒は三年、大卒は二年の基礎教育期間が設けられ、さらには長期間にわたって研修体系図に記載されているような様々な研修が、体系的に行われるのである。そして、管理者研修というものも体系として組み込まれている。入行後数年を経て中堅行員研修が行なわれるが、男性従業員は全員が対象となるのに対し、女性従業員は一部の者しか対象とされず、また、研修は男女別々に行なわれ内容も異なっていた。このような被告の女子労働力政策に基づく研修における男女差別と仕事差別の結果、女性従業員は、結婚や出産を機会として退職しない場合でも、能力開発に必要な教育・研修の機会を与えられないまま、単純な定型業務をいつまでも続けることになる。そして、そのような女性従業員の置かれた状況が昇給昇格における男女の格差の「合理化」のための口実に用いられるのである。

(5) 被告では、資格や賃金においても男女間の差別が存在していた。まず、一九七七年までの賃金体系は男女別になっていた。そして、男女の賃金の本俸の引き上げなどでは、ベースアップでも、男女別にべースアップの要求がされたり、昇給の査定についても男女別におこなわれていた。そして、一九七七年以降は制度的には男女一本の体系とされたが、運用面では男女の差別は存在し続けた。本件出版時においても、男女間に資格や賃金において格差が存在していたことは、本件出版物二〇頁の表を見るだけでもわかる。即ち、女性の原告は資格はいずれも二・四から三・二の間にあり、給与は多い人で五一〇万円、少ない人で三二〇万円であるのに対し、男性の原告は資格はいずれも三・三から四・一の間にあり、給与は多い人で七一〇万円、少ない人で五五〇万円である。

一九七四年にはあまりにもひどい男女別の本俸引き上げを行ったため、原告らは労働基準監督署に対して労基法四条違反として申告した。その結果、監督署は被告に対し、被告の給与改定は女子の賃金を差別したもので、労基法第四条に違反するとしてさかのぼって是正することを求める勧告を行った。

(一二) コース別人事管理制度

(1) 被告のコース別人事管理制度導入の目的

コース別人事管理制度はさまざまな目的をもって導入されたが、そのひとつにそれまで企業が行ってきた男女の賃金差別を隠蔽、継続することがあったことは、多くの人が指摘するとおりである。例えば、日弁連の女性の権利に関する委員会は次のように言う。「いまだ大半の家庭において家事責任・育児責任を果たしているのが、女子のみである現状においては、住居の変更を伴う転勤への包括的同意を総合職選択の要件とすることは、圧倒的多数の女子労働者を、総合職から排除する結果をもたらすこと明らかである。このように男子労働者に比べて、女子労働者に著しい不利益をもたらす結果となる限り扱いは、たとえその要件そのものは形式的に男女双方を平等に扱うようにみえても、男女差別(間接差別)に該当すると言わざるをえない。」。

(2) 被告におけるコース別人事管理制度の運用の実態

まず、被告においてはコース別人事管理制度導入前は、資格体系の制度上は男女の差は設けられていなかったが、運用上は、男性は書記三級三号までほぼ全員昇格するが、女性は二級二号までしか上がらないという差別があった。このことは、一九七三年の組合アンケート結果などからしても明らかなことである。次に、総合職の勤務地は「国内各地域、海外を問わず勤務地を命ずることがある」とされていることから、家事育児をはじめとする家庭責任を事実上負っていることが多い女性が、このような転勤があり得る総合職を選択することは極めて困難なことであった。このことは制度導入後の各コースの選択の結果を見れば明らかである。即ち、この制度が導入された一九八六年頃は、被告に在職していた男性従業員は約一万名、女性従業員は約四〇〇〇名であった。そして、女性従業員の中で総合職を選んだのは、原告らの調査によれば八八名、被告によれば約一〇〇名であり、逆に、男性従業員の中で一般職を選んだのは約一〇〇名であった。つまり、女性の約九八パーセントは一般職を選び、男性の約九九パーセントは総合職を選んでいるのである。なお、原告らの調査によると、総合職を選んだ八八名の女性従業員のうち、一九九五年で在職していたのは五四名で、この間三四名が退職している。そして、五四名のうち原告らや原告らとともに活動していた中で知れている二二名が既婚者で、あとの人は未婚者と思われる。このように、女性が総合職を選択するのが困難であるだけでなく、総合職を選択したとしても今度はそれを継続していくことが極めて難しいことなのである。ちなみに、原告らが分析したところでは、総合職で働きつづけることが出来る女性は、未婚者か、結婚しても家庭面で親の協力などが期待できる人か、原告らのように働き続けることが出来るための条件作りを被告にきちんと要求できる人かである。このように、女性は総合職を選ぶことが難しい状況にある上に、困難を覚悟の上で総合職を選ぼうとすると、被告によりその翻意を迫られることが数多く見られた。被告は「男女を問わず面接の上、その意思を十分に尊重した」などと述べるが、例えば、総合職を選択したいと言った原告P47に対して、支店長は「総合職を選んで転勤を命ぜられた時は家庭はどうするのか。夫をどうするのか。やめておいた方がよい。総合職の能力とは支店長クラスでも難しいレベルのもので、君がその能力を持っているとは思えない」と言われたのである。そして、このような翻意を迫る説得を、支店長は一時間にもわたっておこなっているのである。原告P6も、支店長のほうからは、総合職というのは非常に難しい仕事であるということを非常に強調され、それでもなおかつ総合職ということになると、もう一度面談をされるとか、そういう形の交渉が行われたのである。このような被告の執拗な説得により、やむなく一般職を選択した女性従業員も多いのである。ところが、これとは逆に、男性従業員に対しては総じて総合職の確認をするだけで、一般職を選ぼうとする男性従業員には「基本的には男性は総合職だ」と言い、一般職を選ぶことに再考を求めている。原告ら女性は、このような被告の説得にも負けずに総合職を選んだのであるが、被告は「総合職の従業員には、業務の面から幅広い職務につけることを予定する」などと主張しているが、原告ら女性に対してはそのような職務には就けず、もとよりそのための研修も受けさせていない。例えば、原告P88は一九八八年に被告本部のコンピューター部門からα12)支店へ転勤となったが、営業店業務の経験が全くなかったにもかかわらず、営業店業務に必要な研修を受ける機会を与えられず、当初六ヵ月にわたって一日一時間程度の単純作業(コンピューター資料の仕分けなど)けを与えられたのみであった。

原告らは、これらの実態をもとに「コース人事管理制度は男女差別を隠蔽するものである」と記載したのであり、何ら事実に反するものではない。

8 各個人の手記部分について

(一) 原告P8について

(1) 別紙一の一二番

原告P8は、入行時、就業時間について午前八時五〇分始業、午前九時開店、午後三時閉店、午後五時終業と説明されたにもかかわらず、午後六時ないし午後八時までの残業がしばしばあり、時には最終電車で帰宅することもあったことからかかる記載をしたものである。同原告と同期入行者の中に夜間大学に通学していた者がいたとしても極めて少数の例外的な存在である。

(2) 別紙一の一三番

原告P8のα1支店からα2支店への転勤については、①面接時に、面接担当官から「三和銀行は大阪に本店がある。大阪に行ってもよいか」「大阪に骨を埋める覚悟はあるか」と念押しされ、同原告も、「三男坊だから大丈夫です」「大阪で働き続けます」と答えていたこと、②当時、α1支店の在籍期間は平均五、六年であり、しかも大阪市内店への転勤が大半であったこと、③昭和二六年入行のP19、同二七年入行のP20など、同原告よりも先に入行した同郷のα2支店出身の従業員がいたにもかかわらず、同原告の方が先に高知転勤を命じられたこと、④昭和三二年三月末、α1支店のP21支店長より支店長室に呼ばれ、転勤辞令を渡される際、同支店長から「相談なしに希望転勤をしていたのか」と詰問されたこと、及び他の同僚からも「何でや」と驚かれたこと、⑤昭和三二年四月、組合の大阪支部青年部運営委員に再任される矢先の配転命令であったことなどから、原告P8が「不自然な転勤」であると感じ、そう表現したにすぎず、「事実に反する」ことはむろん、「事実の歪曲」にもあたらない。

(3) 別紙一の一四番

原告P8について、α31支店のP22支店長代理が、同原告赴任当日の朝、同人と一面識もないのに、喫茶店で原告P3の名前を挙げながら「あんな連中と一緒や。いてもいなくても変わらんようなもんや」と無能力者呼ばわりしたことから、同原告は、同原告らと他の労働者の分断工作と考え、その旨表現したにすぎない。

(4) 別紙二の二〇番

原告P8が四国支部長に在任中の昭和四〇年、α2支店から再び大阪へ転勤を命じられたのであり、右の転勤命令は異例という他ないのである。同原告は、昭和三三年、同地で養子縁組みを行ない、その旨被告に届出をしており、昭和四〇年当時は老齢の養父母の扶養の責任を強く実感している時期であった。同原告は、被告が右のような同人の家庭事情を熟知しつつ、かつ当時同原告が組合の四国支部長であったにもかかわらず、被告が大阪への転勤命令を出したことについて『その非情さに、ピープルズ・バンクのイメージが内側から音を立てて崩れる思いでした』と当時の心境を素直に表明したもので、何ら被告に対する誹謗中傷にあたらない。

(5) 別紙二の二一番、二二番及び二三春

原告P8は、大阪本店取引先課勤務の際、当時の上司より組合活動を熱心にやりすぎると昇進の妨げになるから止めるように示唆されたが、同原告がこれに応ぜず組合活動を続けたところ、昭和四二年七月本店営業部営業二課に係替えさせられた。同課で同原告が命じられた業務は、関係取引先の各種の元帳残高を取引推移表に転記するという単純な作業を反復する一人仕事であった。そして、右のような業務は当時入行後一四年以上の同原告のようなベテラン従業員に担当させる内容のものではなかったのである。同原告は次の係替えでも年下の主任のもと、当座預金係として、機械化の遅れている個人の当座預金の入金・出金の残高算出という、同原告が一〇年以上前に行なったことのある単純な作業を反復する一人仕事を命じられた。このような経過、実態に照らし、被告が同原告を同人の能力や経験を全く無視した仕事に就けることによって、他の従業員に対する見せしめとしたものであることは明白である。

(6) 別紙二の二四番及び二五番

労使協調路線をとる従業員組合執行部の批判派として様々な活動を展開したため、その活動を嫌悪した被告から、転向工作、他の従業員との分断工作・配転・仕事差別などの様々な攻撃を受け、さらに昇格、昇給において差別を受け続けてきた。同原告は、自らの体験と差別の実態に基づいて、前述の評価と表現を行ったものであり、その評価は正当である。

(二) 原告P9について

(1) 別紙一の一八番

以下の事実に照らせば、当該記載は事実である。

①原告P9は昭和三四年入行後、名古屋市内のα3支店に配属された直後から、青婦人部で活発に組合活動を行い、同三七年には支部代議員、同三八年二月には東海支部執行委員及び情宣部長にそれぞれ選出されたが、同原告が東海支部執行委員兼情宣部長に在任中、自宅通勤が可能であるα16支店から大阪のα4支店へ突如転勤になったことは、組合活動を理由としたものであることは明らかであり、少なくとも同人がそう考えるのは当然のことである。②同原告は、昭和三九年一月α4支店転勤後も、同支店において活発に組合活動を行い、同年四月には支部代議員に選出されるなどしたため、当時α4支店の在籍期間は平均三ないし五年であったにもかかわらず、同原告がわずか一年という短期間に再び東京のα5支店に遠隔地転勤させられたことは、被告が同支店の組合代議員であり、組合活動の中心的役割を果していた同原告の活動を嫌ったものであることは明らかであり、少なくとも同原告がそう考えるのは当然である。

(2) 別紙二の二六番ないし二八番

原告P9らが結婚後も三和銀行で共働きを続けたいという強い希望を持ち、それを可能にするように妻の配転を願い出たのは労働者として当然の要求であり、当時被告では東京地域への進出及び営業力の拡大に力を注いでおり、被告が同原告の妻の転勤希望を受け入れることは容易であった筈にもかかわらず、被告が同原告らの再三の申し出に全く誠意ある対応をせず、結局妻は退職に追い込まれた。他方、同原告は昭和三九年に中央代議員に選出されるなど活発な組合活動を展開し、妻P102も昭和三五年に入行後、青婦人部活動の中心となって活動していたことから、同原告は被告の対応を組合活動家に対する攻撃の一環であると考え、本件出版物に前述のとおりの記載を行ったもので、右記載は十分な根拠を有し、何ら誹誘中傷にあたらない。

(三) 原告P12について

(1) 別紙一の二〇番

原告P12は、昭和四一年当時青婦人部の分会役員として積極的に組合活動の中心として活躍しており、その頃、P24次長に業務終了後に自宅に招かれ、P24次長から記載のとおりの発言をされたのである。さらに、その場に同席したP25代理からも『君のことを心配している』などの発言もあり、その席から支店長に電話をかけて、同原告に支店長と話をさせるという出来事があったのである。

(2) 別紙一の二一番

原告P12の実績が他の従業員に上積みされたのは事実である。

(3) 別紙一の二二番

原告P12が作成、提出した自己申告書に、原告ら主張のようなコメントが記載されていたにもかかわらず、支店長からも人事部からも何らの説明もなかったのは事実である。

(4) 別紙一の二三番及び二四番

原告P12が、昭和五一年度下期に新規先三〇社の取引に成功したにもかかわらず外国為替優秀外交とはされず、獲得した新規先が二、三社のA(P27)が表彰されたことは間違いない事実である。外国為替優秀外交は、外国為替の新規取引先を本社の決めた新規取引先基準で何社獲得したかという基準で判断されるのであるから、不平等な取扱いであることは明らかである。

(5) 別紙二の二九番

原告P12がα34支店に勤務していた当時、支店長が同原告の実績を削り、P26氏の実績に上積みしたこと、後日それが発覚して支店長以下三人が同原告に謝罪したこと、P103次長自らがランキング表を訂正したことなどから、このような仕打ちを受けた同原告が、「聖域といわれている人事権とは、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界であろうか。犯罪的でさえある。『公正』と『実力主義』を建前に差別化すすむ人事部方針」などと記載したものであって、「人事権の濫用について述べるのに、右の言葉を用いるのは何ら不当なものではない。

(6) 別紙二の三〇番

二つの支店にわたって自分の実績を削って他の従業員の実績に上積みされるという事件(別紙一の二一番、二三番)を体験した原告P12が、このような事件の再発を防止する何の担保もないことから、外にも同種の事件があるのではないか、公正な査定など行われていないのではないかと考え、それが非公開の理由の一つではないかと考えるのは無理のないことであり、何ら不当な評価ではない。

(7) 別紙二の三一番及び三三番

被告が原告P12に対し、賃金差別をもって臨み、かつ、少なくとも二度にわたって原告P12の実績を削って他の従業員の実績に上積みするという仕打ちを行ってきたのはまぎれもない事実である。ここの記載は、このような仕打ちを不当と考える同原告が、その理由、動機について考察した内容、あるいは同原告が感じた事実等、同原告の正当な評価を記載したものであり、右の経過、事情に照らして十分な根拠を有するものであり、何ら不当とされるゆえんはない。

(8) 別紙二の三二番

被告では、サービス残業、職場の雰図気、年休もなかなか取らせてもらえない、時間外にQC活動を余儀なくされる実態、さらに、労災職業病の蔓延する実態がある。これらの労働実態に関する事実を評価した表現としては当該記載は全く正当なものである。

(四) 原告P10について

(1) 別紙一の三三番

原告P10について、名古屋から東京への転勤も、東京から大阪への転勤も、いずれも不当である。東京事務部α6分室において、同原告は女子従業員の補助的な仕事をするしかないような状況であった。

(2) 別紙一の三四番ないし三九番

サービス残業は、昭和五六年一〇月六日付「昭和五六年度下期の時間外勤務管理について」という人事部長通達、昭和六一年九月二二日付人事部長通達といった被告の時間外勤務のガイドラインの設定、時間外手当の予算化、厳しい時間外手当予算の管理などによって必然的に発生している。また、従業員組合の平成三年一一月の「役付組合員の労働実態、意識実態調査」の結果や、平成四年に労基署からサービス残業改善の指導をうけたことからも、当該記載は真実である。原告P10は、時間外を正確に記入し続けたため報復として二回(昭和五七年八月にα9支店に、昭和五九年八月にα10支店に)転勤させられたのである。

3 別紙一の四一番

当該部分の記載は、α35支店での実態を示したものである。月末が近づくにつれ、時間外勤務をしても勤務報告書には時間外勤務をつけない日が出てくるという実態があった。本件出版物九一頁の表は、原告P10が、平成三年一〇月のα35支店での時間外勤務報告書に基づき作成したものである。α35支店では、当時外交融資の一ヶ月当たりの時間外予算は二六時間と定められており、同年一〇月の融資A(融資P104主任)、外交B(外交P105主任)、外交C(私)の三人の時間外勤務の実態を表にしたものである。

4 別紙二の三六番

労働基準監督署からサービス残業を改善するようにとの指導を受けていることからしても明らかであり、後段についても、サービス残業が被告の時間外勤務のガイドラインの設定、時間外手当の予算化、厳しい時間外手当予算の管理などによって必然的に発生している。これらの記載は全て事実であり、何ら被告に対する誹訪中傷にあたらない。

(五) 原告P30について

(1) 別紙一の四二番及び四四番

原告P30が結婚することを上司に報告したところ、同原告は出納係へ係替えとなったが、出納係での業務は雑硬貨整珊と新入男子従業員との集金の仕事であり、これらは入行後一、二年の従業員がさせられる仕事であり、右係替えは同原告が入行して三年後になされたものであって、同原告が右係替えを嫌がらせと受けとめたことは当然である。

(2) 別紙一の四五番

被告の命令の有無ではなく、原告P30がそのような作業をしたかどうか、あるいは作業せざるを得なかったかどうかが問題なのである。当時、出納係の他の従業員が外出していたり、各自の担当職務に追われていた場合には、同原告がドンゴロスの運搬作業をやらざるを得ない状況にあったのであるから、右記載は事実に反するものではない。

(3) 別紙一の四六番

昭和四六年、当時の担当であったP31代理から早退した翌日「昨日電話したのにいなかった。どこに行っていた。」と二、三回言われた。

(4) 別紙一の四七番

「A支店、B子さん」とは、α12)支店のP32である。被告が同人に嫌がらせをした根拠として次の事実があり、当該記載は事実に反するものでない。①P32が第一子出産後、初出勤したところ、出産前は外国部事務センターでタイプをうつ仕事をしていたにもかかわらず、右初出勤時には同人の席がなかった。②同部のP33代理より「やっぱり辞めるつもりはないか」と念押しされた。③α12)支店で第二子出産後出勤した時も席がなく、やっと机といすは与えられたが、電話もない、他の人とは離れたところに置かれた。④同支店では、製本や稟議書の冊子を綴ったりの仕事しかさせてもらえなかった。

(六) 原告P7について

(1) 別紙一の五〇番

原告P7に対する不当な差別攻撃は入行後三年目、昭和四〇年頃から始まったことは事実である。①同原告は昭和四〇年頃から職場内の労演に参加したり、職場での組合集会でも積極的に発言するようになっていったが、当時α13出張所に配属されていた一年先輩のP36や他の同僚・後輩も仕事以外では話さなくなったこと②その頃、同原告は普通預金係から集金係へ係替えになったが、集金係は通常新入従業員が担当するもので、α13の中を長靴をはき、駆け回り、集金先によっては鳥や魚の血のついた肉片やうろこのついた紙幣を読むといった仕事であり、通例の配転でないこと③同原告は昭和四二年頃、青婦人部東部市場分会の役員になり、活発に活動したことから、昭和四三年四月の昇給時期において「標準」を下回ったことがその根拠である。

(2) 別紙一の五一番

原告P7が転勤により配属された本店営業部営業第二課のP37課長代理が事務方の主任的存在であった融資係の女子従業員P38を通じて「あいつはアカやから近づくな。話をするな」「あの人に仕事をさせないように。破壊者やから、現物をさわらせないように。」との発言をさせており、同原告は昭和四四年六月頃、融資係の女子従業員P106からこの事実を聞いている。

(3) 別紙一の五二番

原告P7が右手記で「周りの人から、『あの人は仕事ができない者』をイメージづけようとし、一層、職場の従業員から孤立させるように仕向けてきました。」と記載したのは、①同原告は昭和四五年一一月に本店営業部取引先課に係替えになり、昭和四六年一〇月に取引先課に「連携業務」という仕事が新設され、同原告はこれに従事するよう命じられたが、机は上司である担当代理のP39氏の机と並べられ、全く仕事のない日もあり、ストレスばかり溜まる仕事で、P39代理も同原告の横で煙草をふかしていることが多く、同原告にべッタリと一日ついていること自体にうんざりという様子であったこと②同原告が昭和四七年三月一五日、P39代理に対し「もう少し他の仕事らしい仕事をさせて欲しい」と要請したところ、「お前は甘すぎる。」と一蹴されたこと③取引先課のある代理から「君は製糞器だ。」とからかわれたことがあったからである。

(4) 別紙一の五三番

原告P7が右手記で「ここでも銀行の私に対する孤立政策は、執拗に続けられました。」と記載したのは、同原告は、本店営業部からα15支店へ転勤した昭和四八年七月、当初、同期のP40とよく昼休みに卓球をしていたが、急にP40はやらなくなり、同原告を避けるようになったり、後に同原告がP40より「上司のP41代理からP7と一緒に卓球をするのはやめよ。」と言われたと聞いたからである。

(5) 別紙一の五四番

原告P7が昭和五八年リハビリ勤務に入ったとき、営業場の隅にポツンと机が置かれるだけで仕事が与えられず、以前やっていた貸付係のファイルの整理や要項表を書き直す作業を自分で探しやっていたが、周りでは同僚従業員が忙しく立ち働いており、同僚達の同原告に対する視線は冷たくなっていった。また原告P7は昼飯も他の従業員が済ませた頃に食堂に行ってとっていたが、ある日、当時のP43支店長とP44次長が、同原告のテーブルの前の椅子にどっかり坐り「よく何もしないで飯を食べれるな。」と言わんばかりに食事をしている同原告を腕組してじろじろ見ることがあったが、これは非人間的扱いである。

(6) 別紙二の三七番

当該記載は、原告P7が手記の締めくくりとしての所感を述べたものであり、ここにいう「執鋤、陰湿な反撃」「幾多の攻撃」あるいは「いじめられた状態」とは、具体的には、①α13出張所での青婦人誌活動を嫌悪した仕事差別、賃金差別(別紙一の五〇番)、②本店営業部(営業第一課)での誹謗による隔離、見せしめ(同五一番)、③本店営業部取引先課での仕事差別による隔離、見せしめ(同五二番)、④α15支店での隔離、見せしめ(同五三番)、⑤頚肩腕障害に罹患した原告P7に対する仕打ち(同五四番)などであり、手記において述べられてきた幾多の事実に対する評価である、そのうえ、原告P7は、被告により、長期にわたって賃金差別、昇進昇格差別という仕打ちを受けてきたのであり、同原告がこれらを振り返って頭書の所感を述べたとしても、十分な根拠を有するものであり、それが被告に対する誹謗中傷などと言われる筋合いはない。

(七) 原告P2について

(1) 別紙一の六四番

原告P2は、一九七七年八月以降現在まで一七年間出納(資金)元方に固定して配置されているが、資金係等の内部事務は二五ないし二八歳の女性が圧倒的に多く、また標準者は内部事務を数年間経験後、判断事務をなべて経験し、その過程で知識・能力を高めているところ、同原告の知る限りでは被告の関西にある約一三〇の支店の中で約一七年間も出納一資金)元方をしている者は存しない。同原告は、そのことを差別と感じ、そのように表現したにすぎず、事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものではない。

被告は、同原告は定型的判断の多い業務に適性があったにすぎないと主張するが、同原告は、外交係、為替係、外国為替係に配属されたことはあるといっても、①外交係では集金のみを担当し、融資外交は一切任されておらず、②為替係ではそもそも内部事務に区分けされており、③外国為替係については、稟議書作成等の判断事務は与えられなかったのであり、ほとんど判断業務に就かせずにおいて、同原告に定型的判断の多い業務に適性があると正当に判断できるはずがない。

(2) 別紙一の六五番

昭和三九年一月、東海支部役員をしていたP107、原告P9に転勤の辞令が出たこと、同年七月、東海支部の代議員のうち、原告P10を含む五名が転勤となった。従って、同原告の手記は事実に反するものでも、事実を歪曲・誇張するものでもない。

被告の配転攻撃は、同原告が手記に書いた以前からも組合で積極的に活動する者に対してなされており、その例として、昭和三九年に配転となったP107、原告P9、原告P10らを挙げたのである。そして、昭和四〇年以降、全国的には、例えば原告P9には昭和四〇年一月、原告P8には昭和四〇年八月、原告P10には昭和四二年四月、同P49には昭和四三年八月と、活動家に対する配転攻撃が続けてなされている。

(3) 別紙一の六六番

①昭和四〇年二月四日の映画会を食堂で上映したところ、翌日、P45次長が庶務係で映画会の食堂使用を許可したか、内容はどうであったか、P108に対してしつこく聞き、また、次の例会には自分も参加して皆と話し合いたいと発言したこと②従組東海支部は、α17支店の食堂で労働講座を開催していたが、被告が食堂の使用を禁止してきたり、二月五日から八日までスケートに行った内容についてまで参加者から聞き出したりしたこと③昭和四三年八月、名演(労演)の幹事二名に対しても、次長が一時間半もカンヅメにし、名演が政治活動であり、銀行内で政治活動をしてはならないとの就業規則に反するから名演に参加するなと干渉したことがあり、同原告の記載は事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものでない。

(4) 別紙一の六七番

原告P2が手記において、被告の選挙干渉と記載したのは、以下の事実があったからである。①昭和四三年二月に同原告を含む名古屋市内の支店有志二二名がα18へのスキーを予定したところ、α17支店長はα18山荘の利用申込書に許可の判を押さないとか、監視役として大卒のP46を派遣するなどの干渉をした。それ以前には、支店長が会社の福祉施設の利用申込みに関して、許可に難色を示したり、監視役の参加を条件としたことはなかったが、右二月のスキー旅行については、同原告が参加すること及び同人がその直後の三月五日に役員選挙に立候補する予定であったことから、右のような干渉を行ったものであり、これは明らかに同原告が右スキー旅行を通じて他の組合員に働きかけることを嫌悪したものである。また、②三月五日の労組選挙に同原告と選挙に出ないと話し合っていたK氏(本件出版物ではAさんとなっている)が突如分会長に立候補し、被告は職制を使い、同原告に入れるなと攻撃し、預金係では役付者が見ているところで書かせ、自由に投票をさせなかったことがあった。

(5) 別紙一の六八番

①昭和四三年一一月二六日、原告P2はα16支店からα25支店へ、α25支店のSさんは本店へ、本店のAさんはα16支店へとそれぞれ転勤となったが、S、A両名とも組合青婦人部の活動家であった。②同原告の転勤の一〇日後にα16支店の青婦人部がつぶされ、その先頭に分会長のK氏が立っていたと聞いた。③昭和四六年七月、同原告はα1支店に転勤となったが、原告P9と交替で、係、席まで同じであった。

被告は、同原告が青婦人部の役員であったことを知らなかったと主張するが、被告の組合は支店をとってみれば、支店長に次ぐ次長までが組合員であるから、被告は容易にこれ(組合役員、青婦人部の役員)を知り得る立場にあるのであり、知らなかったはずはない。

(6) 別紙一の六九番

α36支店では殆どの人が午前八時頃出勤し、打合せ会、会議、金庫から書類の搬出、前日の残務整理、機械コーナー(ATM両替機)の補充と忙しく仕事をしているが、当番二名と原告P2を除く従業員は、毎日残業を記入せず、サービス残業となっている。労基署に申告後は若干改善され、ATM当番の人は記入するようになっているが、実態は変わっていない。したがって、同原告の記載が事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものでない。

(八) 原告P47について

(1) 別紙一の七〇番

原告P47が長女、次女出産の折に嫌がらせを受けたと記載した根拠として、次の事実があり右記載は事実に反するものでない。①昭和四五年の長女の出産による産後休暇後に出勤した際、従前のタイプ印刷係に出勤し、タイピストである自分の机のあるタイプ室に入ったが、自分の机がなく、上司に尋ねると、印刷係に係香えだと言われた。印刷係は中高年のベテラン女子従業員や病気上がりや役職につけない男性が集められていた職場であり、印刷係のする仕事は、印刷機の前に毎日一日立ちっぱなしで、何百枚の印刷物作りで、手はインクで汚れ、通達のセットや発送部門を担当していたP109は、中高年女性いじめと感じたのか退職した。②昭和四九年の次女出産時も印刷係で迎え、立ち仕事、印刷物の重い束の持ち運びなど、妊婦にとって有害で、お腹が出てくると機械につかえ作業がしにくい仕事であったが、被告は労働基準法上の軽作業転換の配慮をしなかったこと、そのため原告P47が座ることのできる気送管中継の仕事を自ら願い出ざるを得なかったが、この仕事は一般従業員の仕事ではなく、用務員の人達がする仕事であった。

(2) 別紙一の七一番

α19支店で他の人と区別する方針がとられていたことの根拠は、以下の事実であり、当該記載は事実に反するものではない。①同原告の仕事の分担が、片手間に誰かがやる計算書発送の封筒のあて名書き、前日の支店の預金高の計数を還元帳表から台帳に転記するといった三〇分もかからない作業であった。②昼食のとり方として、他の従業員の食事とぶつからないよう、四八歳のP110主任と一一時から行くこととされ、机の配置も同原告の左側が柱で、右の列に次長、代理が並び、向かいの机は男性四人が並び、融資課の五人の女性とは顔もあわさない場所であった。

そもそも妊娠五ヶ月の者を、しかも初めての営業店へ転勤させたこと自体が問題である。

(3) 別紙一の七二番

労基法上の権利行使等が低賃金の理由であると記載した根拠として、次の事実があり、当該記載は事実に反するものではない。①原告P47は産休のない年の定期昇給は二一〇〇円という平均近い昇給をしているが、一人目、二人目の出産で一〇〇〇円、三人日の出産で八〇〇円と低く抑えられていた。②同原告は、井ノロ裁判の証人として出頭する際に有給休暇取得の理由を書かされたり、担当上司であるP48代理から「あんたのためにも、本当はこんなのに出ない方がよいと思う」と言われた。③同原告は、男女賃金差別是正の労基署申告で、原告P6、同P88とともに二四名の代表となっていたが、当時の従組執行委員長から取り下げを懇願され断った経緯があった。④同原告が組合代議員に立候補すると先輩、同僚から再三にわたって「出ない方が得よ」と言われた。

(九) 原告P49について

(1) 別紙一の七三番

原告P49に対する仕事上の差別の具体的内容として、①同原告がα14支店において融資係として四年七ヶ月の経験を有していたにもかかわらず、転勤となったα7支店では約五年間、主に堺市立病院の派出業務をさせられ、徹底して単調な業務を押しつけられた、②α1支店において約四年間外交係の補佐的な集金業務をさせられたのであり、同原告の手記部分の記載は事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものではない。

他の従業員であれば、被告は融資の判断事務、預金主任のような仕事を行わせている。にもかかわらず、原告P49は単純業務ばかりである派出業務を担当させられ続けたのである。しかるに被告は同原告に対し、これらの仕事に従事させる合理的な理由を何一つ説明してこなかったのであるから、これをもって同原告が差別と感じるのは、通常人であれば当然のことである。

(2) 別紙一の七四番

わずか一年の在勤での転勤が異例ならば、特殊技能を持っておらず、かつ北海道に縁もゆかりもない原告P49を東京から非常に遠いα20支店に転勤を命ずることもまた異例なことであり、「札幌は涼しくて、ええやろ」という支店長の冷たい言葉から転勤が不当な意図のもとに行なわれたことが十分窺え、右転勤が「まったくの異常な転勤」だとする同原告の手記部分の記載が事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものではない。

(3) 別紙一の七五番

原告P49が「差別」と記載した具体的内容として、①同原告は二級に進級するのが大方の同期より半年ほど遅らされていた。②α20支店への転勤自体が大きな差別である。③同原告が独身寮で年長者として代表の役を務めるべきところ、寮長が難色を示したため一年間据え置かれた。④親睦会の幹事を外されたことがあり、原告P49の記載が事実に反したり、事実を歪曲・誇張するものではない。

同原告の転勤に先立ち、支店長が「今度来る人はいろんなことがあったらしいから、気をつけてほしい」旨述べたことを、同僚から後日聞かされたのであり、これらの事情からこれを差別と感じるのは通常人の感覚であり、何ら歪曲に当たらない。

(4) 別紙一の七六番

当時α20支店では四、五名の女子職員が肩や腕の痛みを訴え、頚肩腕障害と診断され、原告P49がこれらの女子職員の相談役として活動していたところ、その女子職員に対し、次長、支店長代理から様々な詮索があって職場が嫌な雰囲気になったことがあるから、同原告の手記部分の記載が事実に反するものでも、事実を歪曲・誇張するものでもない。

同原告の活動はα20支店では周知のことであったのであり、被告がこれを承知していないはずがない。被告の「露骨な干渉」としては、同原告が相談に乗っていた女子従業員(旧姓)P111が入院した際、被告側からの見舞いが殆どなく、たまに見舞いに来た次長は、P111の体調については、あまり聞くこともなく、P111の読んでいた本をじろじろ見渡すなど、「詮索」としか思えないような行動をとっていたこと、その後、P111を他の女子従業員が避けるようになったこと、後日、他の女子従業員がP111に謝罪していたことなどがある。

(5) 別紙一の七七番

当該記載は、原告P49が当時α21支店において外交係だったP112及びP50の二名から聞かされたことであり、事実に反したり、事実を歪曲・誇張したりするものではない。

また当時、α37支店に勤務していたP50が同原告に対し集会の場所を電話連絡したところ、その直後に、α21支店の次長P113からα37支店長P114に電話がかかり、同日の退行時に外交係二名がP50の尾行を始めた、このような、いわゆる活動家に対する尾行・監視は頻繁に行われていたのであり、同原告の手記はほんの一例である。

(6) 別紙一の七八番

原告P49は、α7支店在勤五年間のうち、その殆どを堺市立病院の派出として診療費の収納を、半年ほどを堺市税の収納事務をやらされたもので、その間、一時期(二ヶ月間ほど)資金事務方を任命されたことはあるが、それは補助的な業務で一人前として扱われたわけではなく、このように銀行業務の中でも最も単調な業務の一つである派出(収納事務)だけを徹底してやらされていたのである。このように、単調な収納だけに限定される派出の仕事ばかり担当させることは同原告の能力を萎ませるだけであり、嫌がらせ以外の何物でもなく、これを差別と評価しても、事実に反するものではなく、事実を歪曲、誇張するものでもない。

(7) 別紙一の七九番

原告P49が昭和五七年五月頃、当時のP51支店長に対し要請したことは事実であり、その際、P51支店長からは、自らも組合執行委員の経験者であったことから、組合への苦情処理依頼のタイミングについて助言をしてもらったとして、原告P49の手記の記載は事実に反するものでも、事実を歪曲、誇張するものでもない。

(8) 別紙一の八〇番

当時被告では集金業務をできるだけ廃止し、顧客に店頭に来てもらうということが方針であったが、わざわざ他の従業員の業務から集金業務だけを取り出して寄せ集め、それを原告P49に割り当ててそれしかやらさないというやり方は、被告の方針に真向から反する非合理的なものであり、しかもわざわざ同原告にこの集金業務をやらすため、当時の支店長代理は苦労して「集金先リスト」を作らされていたくらいであるとし、このような効率の悪い、意味のない仕事を、特に創設して同原告にやらせるというやり方は明らかに差別であり、原告P49の記載は事実に反するものではなく、事実を歪曲・誇張するものでもない。

(9) 別紙一の八一番

原告P49が毎年一回行なわれる担当代理との面接において、「研修に行かせてほしい」「他の業務も経験させてほしい」「担当先を持ちたい」という希望を表明し、毎年一回提出する「自己申告」中において、以上の希望を記載していたにもかかわらず、同原告の希望は一切聞き入れられなかったのであり、同原告の手記の記載は事実に反するものでもなく、事実を歪曲・誇張するものでもない。

(10) 別紙一の八二番

店頭事務方とは、二〇歳ほども年下の資金係主任の下での、当時、一般に新入従業員がやっていたATM機への現金格納、同機からの現金の回収、手形の持ち出しがその業務内容であり、到底原告P49のようなベテラン従業員にさせるような仕事内容ではなく、一年が経過しても事態は変わらず、同原告は「屈辱的な日々を余儀なくされ」て、ノイローゼ気味になったほどである。その後、融資係も一年間担当させられたが、それは名ばかりで、最初の半年は歩積両建の整理作業、後半の半年は無担保ローン、商業手形取扱いなど、いずれも通常は初めて融資係に配属された女子従業員の仕事とされていたものであることから、被告は同原告に対し徹底的な仕事差別をもって臨んだのであり、これを差別と表現しても事実に反するものでもなく、事実を歪曲・誇張するものでもない。

(11) 別紙二の四七番

被告が原告P49に対して賃金差別で臨んできたことは、これまで述べてきたとおりであり、それが退職金や年金に影響することは当然のことである。また被告では、他の都市銀行に比べて激しい合理化が進められ、賃金レベルは上位六行中最下位である。サービス残業も横行している。さらに、被告が原告らに行なってきたいじめ、見せしめ、嫌がらせなどの事実の存在と、それがいかに陰湿で、醜悪で、非人間的であるかは随所において述べてきたとおりである。また、被告の人事・労務管理の実態として、被告従業員の中に頸肩腕障害などの職業病が発生し、労基署で労災として認定された後も、なお業務起因性を否定し、解決への姿勢を示すどころか、かえって嫌がらせをするというような共通の対応が存在する。このように従業員の生命、身体その他の権利を尊重しようとせず、むしろこれに背く人事管理の実態について、「人権侵害がひどく」等と評価するのは、極めて正当である。

(一〇) 原告P1について

(1) 別紙一の八四番

当該記載は、単に原告P1がα23支店に二五年間勤務していたことや、α23支店からα22支店に転勤したこと、あるいはその通勤時間が一時間以上であるという客観的な事実を記載したにすぎない。

ところで、右転勤が異常であったとする根拠として、次の事実がある。①右転勤は、原告P1が頭取に対する要請書を出すなど、賃金差別に対する闘いを始めてから間もない時期のことである。②右転勤によって通勤時間が従前の三〇分程度から六〇ないし七〇分程度と長くなり、主婦としての役割を果たさなければならない同原告にとって大変な苦痛、不利益となったのであり、これは報復として行われた不利益扱いであり、少なくともその疑いが濃厚である。

(2) 別紙一の八六番

当該記載は、単に原告P1が転勤について怒りをもったという事実を記述しているにすぎない。

(3) 別紙一の八七番

原告P1の記載は、「労演サークルに参加、原水禁運動などをしているうちに、またまたα23支店へ転勤となりました」と述べるにとどまり、右転動の理由が、「労演サークル」への参加や「原水禁運動」であると断定しているわけではない。すなわち右記載は何ら事実に反するのでも、事実を誇張・歪曲するものでもない。

(4) 別紙一の八八番

当時のα23支店の各係には、年配のベテラン従業員が一五人ほどいて、それぞれの係を仕切っていたのであり、右記載は、このようなベテラン女子従業員に対する同原告の「内心の気持ち」を素直に記載しただけである。

原告P1の活動に対して「監視」がなされていたと考える根拠として、①同原告は母店であるα23支店に二五年間にわたって勤務した。②有志で淡路島へキャンプにいったときにP52、P53らがついてきたこと、女性数名でα24山荘に宿泊したときに被告の役職である代理が一人ついてきた。

(5) 別紙一の八九番

原告P1をはじめとするα23支店の女子従業員が、朝の掃除当番に時間外手当を要求しようという集会をしたところ、翌日の朝礼でP54次長が「マルクス、レーニン」などの用語を使ってこれを非難したのであり、本件出版物の右記載は事実である。

(6) 別紙一の九〇番

当該記載にある極々の発言内容は、青婦人部主催の泊まりがけでの懇親会の参加したメンバーの発言内容を、原告P1がそまま記載したものであって、何ら事実に反するものではない。

(7) 別紙一の九一番

当該記載を裏付ける事実として、原告P1が、ある新入従業員から「先輩が『P1さんとはつき合わないほうがいいよ』と言っている」と打ち明けられたことがあり、また、同原告と「仲良くしていた」ことを理由とする転勤とは、P55、P56、P57の三名の転勤である。

(8) 別紙一の九二番

「脱走する」と言って来なくなった人とは、当時融資係に在籍していたP58のことで、「歌の好きな明るい人」とは、合唱団に所属していたP59のことであり、この二人とも、原告P1の見るところ、考え方も大変しっかりしていた人物であったにもかかわらず、銀行を退職していったからこそ、同原告としては、「それだけ緊張感を強いられていたのでしょう。」という感想を持ったもので、右記載はそのことを述べたに過ぎない。

(9) 別紙一の九三番

当時は、通常、同じ支店内において次々と係替えがなされる例はないにもかわらず、原告P1に関しては、代理事務、為替、資金、総務、融資、当座、などの各係を点々とさせたうえ、後輩従業員に対して仕事を教えさせ、その従業員が仕事を覚えると、同原告を別の係に回し、その従業員が退職するとまた同原告を元の係に戻すということが行なわれたのであり、これは「嫌がらせのため」である。

(10) 別紙一の九四番

当該記載は、単にこのような係替えによって原告P1が悔しい思いをしたという事実を記述しているに過ぎない。

右の係替えが「不当な係替え」であるのは、①当時、総務係において同原告に与えられた仕事は、通常は新入従業員の仕事とされていた、お茶汲み、通達類の整理、メール関係の業務といった雑用ばかりであった。②同原告には、経費、給与といった総務の重要な仕事はやらせなかった。③被告は、これらの新入従業員の仕事を同原告にやらせる一方で、同原告の仕事を新入従業員にやらせており、これに納得できなかった同原告が、上司であるP63代理に理由を問いただしたところ、P63代理は「ローテーションだ」と答えたが、そのようなローテーションは存在しないということがあるからである。

この係替えは、同原告が組合役員選挙に立候補して九〇名中一八票を獲得したために、活動家としての影響を恐れた被告が元気をなくさせようとして行ったものである。なぜならば右選挙の投票について上司の筆跡鑑定が行われていたからである。

(11) 別紙一の九五番

一七年間も同じ級にとどまっていることは明らかに異常であり、それが始まった時期が、原告P1が男女差別賃金闘争に参加した時期と符合することから、「その仕返しなのか」と述べたとしても、それは合理的な推論というべきであり、何ら非難に値するものではない。

(12) 別紙一の九六番

①原告P1がα23支店在勤中には、同原告よりも資格が下のP115が主任とされ、α22支店在勤中にも、やはり同原告より資格が下のP116が主任にさせられた。被告においては、資格が仕事に対する習熟度として一般的に理解されているのであり、実際にも資格の上位の者が係主任になるのが通例であるから、その順番を逆転させれば、このような取り扱いは異例であり、何人もこれを不審に思うのは当然である。原告P1はもちろん、原告一九名全員が今日に至るまで係主任にはさせられていない。

②同原告は、α23支店在勤中、ボーナス時の預金獲得額がいつもトップクラスで、顧客からも信頼を得、また店頭モニターで優秀者として通達に載ったり、表彰もされたにもかかわらず、優秀テラーには一度も選ばれず、一方、まったく窓口に出ておらず、生産性も上げていないP117が選ばれた。また、α22支店在勤中も、同原告は五人料金獲得に寄与したとして二度にわたって業務本部長賞を受賞し、店頭モニターでもオールAとされたが、やはり一度も優秀テラーには選ばれなかった。そういうことがたびたびあったことから、同原告が懇意的に外されているのではないかと判断したのは合理的な根拠に基づくものであり、全く当然のことである。

同原告は、九八年下期、α38支店では、ほとんどの項目で実績が一番であったにもかかわらず、優秀テラーの推薦順位が四名中三番目であった。

(13) 別紙一の九七番

右記載に挙げられた例については、原告P1が直接に体験した事実であるから、右記載は事実を歪曲・誇張するものではない。

(14) 別紙二の四九番

①銀行の査定は、その基準、方法とも原告らには秘匿されており、もともと不透明極まりないものである、②原告P1は約一七年間も同じ級に留め置かれてきたが、同原告の知る限りでは、このような例は他になく、異常であったところ、差別是正要求を出した後、突然三級となり、しかもそれについて銀行側から何ら合理的な説明を受けていない。

(一一) 原告P67について

(1) 別紙一の九九番

昭和五一年一〇月、原告P67が女性二四名で男女賃金差別の是正を求めて労基署に申告した直後に、同原告が当時在勤していたα25支店のP69次長が現実にそのような言動をとっていたのであり、事実に反するものではない。

(2) 別紙一の一〇〇番

女性が結婚することが分かると、上司からすぐに「いつ辞めるのか」「子供は母親が育てるのが一番だ」などと言われるのが被告における実態である。「女性が結婚しても、子供ができても安心して働き続けられる職場」と言うためには、「コース別人事制度」による男女差別や「長時間過密労働」があってはならないが、これを改めようとしない被告に対し、原告P67が反対する意見を述べたものである。

(3) 別紙一の一〇一番

平成元年、α25支店におけるP70次長の発言を記載したものである。

(一二) 原告P6について

(1) 別紙一の一〇五番

招待しなかった内国為替のP71課長が、自分から「会費を払うから職場の上司として出席させてほしい」と言いだして原告P6の結婚式に出席したのである。これは、同人が出席者の顔ぶれをチェックするなど監視役を果たしたことは明らかである。

(2) 別紙一の一〇七番

被告はレクリエーション委員を新たに任命し、その活動として、組合青婦人部が行う文化・レクリエーション行事と同じような内容の行事を同じ時期にぶつけてきた。また昭和四二年五月二日、本店支部青婦人部のP72部長及びP73副部長が、同時に東京転勤を命じられ転出したが、それは時期としても異例であり、右記載は事実である。

(3) 別紙一の一〇八番

当該記載にある女性の役付者とは、昭和四三年に女性役付者となったP75であり、原告P6と旅行を計画していたP74がP75の言動により右計画を取りやめた旨を同原告に告白した。

P75は、課内の女性の年長者として常に被告の指示内容を課内の女性に伝え、取りまとめる役割を果たしていたのは事実であり、その忠実さをもって支店長代理にとりたてられたと見ている従業員が多かった。

(4) 別紙一の一〇九番

被告は、原告P6の頸肩腕障害に関して、労働基準監督署への労災申請について使用者として請求印を押すことを拒んだのであり、被告が同原告による労災申請を嫌悪していたことは事実である。頸肩腕障害については、当時原告P6と同じ課内でも一割を超える人が症状を訴え、何らかの治療を受けていた状況があったにもかかわらず、原告らの要請を被告は即座に拒否したのであり、従って、被告の主張するように、原告の作業内容や専門医での診断・職場環境等から業務上と認め難いと判断したことが拒否の理由とは考えられない。

仮に、被告が業務上と認め難いと判断したとしても、事業主として捺印することは業務上であることを認めたことにはならないのであり、業務上か否かはあくまでも労働基準監督署が判断するのであるから、被告が業務外と判断したことを理由に捺印拒否を正当化することはできない。

職場会で「あなた方の行為は、銀行の信用を失墜させるもので、同じ職場に働く者として非常に迷惑である。」との発言が、労働者から自発的に行われるとはおよそ考えられないこと、及び前述のとおり、銀行が同原告の労災申請を嫌悪していたことから同原告が銀行の意を受けた発言と考えるのは当然であり、その旨記載したにすぎない。職場会での右発言は、「当時の組合執行部が少数派である原告らの労災認定の活動に対し、「ビラ行為について統制違反の厳重注意」なる処分を行った背景の中で、組合主流派に属する組合員が行ったものであり、発言者の個人的な自発的発言でなく、同原告が「労災申請を嫌悪する被告の意を受けた組合多数派の原告らに対する嫌がらせの発言である」と受け取るのは当然である。

(5) 別紙一の一一〇番

当該記載にある発言は、被告において頚肩腕障害に罹患したものの労災申請には踏みきれなかった労働者から聞いたものであり、事実である。被告は頸肩腕障害を労災と認めることを嫌悪しており、その労災認定に向けて活動する原告らと他の労働者が結び付くことを阻止しようとしていた。そして、そのような被告の意を受けた者以外の者が個人的自発的にかかる発言を行うとは考えられない。

(6) 別紙一の一一一番

原告P6は、当時通院していた加賀屋病院の職員から「P71課長に病院へ電話をかけさせて確認していた」という事実を聞いている。右加賀屋病院の職員で、直接P71課長からの問い合わせの電話を受けていたのは、同原告の現在の夫であり、同課長から通院確認の電話があったことは十分確認されている紛れもない事実である。

(7) 別紙一の一一二番

原告P6は、当時の上司であったP71課長に対して、昇格しない理由を問い質したところ、同人は「他の人と比べて使いにくい。基礎技能テストを受けていないので能力査定の対象とならない。」と述べたのであり、なんら事実に反したり事実を歪曲したりするものではない。

原告主張の「基礎技能テスト」とは必ずしも正式のテストのことを意味するものと理解して使用しているわけではなく、当該記載にある「基礎技能テスト」とは、その以前から行われてきた能力テストのことであって、右記載に誤りはない。

(8) 別紙一の一一三番

まず、被告が女子従業員の結婚ないし出産を機に退職を強要したり、労災の被災者に対して様々な嫌がらせをした。次に中高年の女子従業員について、「P60事件」を口実に大量に転勤させたことがある。遠隔地への転勤や定年間近の者に対する配転などにより、退職を強要している。この例として、α39支店からα40支店への配転があった。

右記載の根拠として、次のような事実がある。①原告P6と同じ課内で一割を超える者が、頸肩腕障害の症状を訴え、何らかの治療を受けていた。②同原告らは、これを公傷と認めるよう被告に要請したところ、被告はこれを即座に拒否したばかりか、労災申請に必要な捺印すら拒否するという態度をとった。③被告は、その指定する病院で診察を受けないと病気と認めないという態度をとり、同原告が休業申請したときも、被告の指定医に受診するよう指示し、その指定医は問診と触診だけで、詳しい検査もせず、「異常なし」の診断書を出して病気の存在そのものを否定しようとした。④同原告は、組合の職場会で、「あなた方の行為は、銀行の信用を失墜させるもので、同じ職場に働く者として非常に迷惑である」という被告の意向を受けたとしか考えられない発言を受けた。⑤職業病救済を世論に訴えようとして行なったビラまきに対し、あろうことか組合より「統制違反、厳重注意」の処分を受けた。

(一三) 原告P3について

(1) 別紙一の一一五番及び一一六番

原告P3の″山猫スト〝に関して、東京の人事部から呼び出されたときの人事担当者の発言から、不利益を課されないと理解したにもかかわらず、その直後に支給されたボーナスにおいて、同期の女性らより二〇〇〇円から三〇〇〇円低い額の支給を受けたとの事実があったのであるから、右記載は事実に即するものである。

(2) 別紙一の一一七番

右記載の「Y担当代理」はP76代理である。原告P3は、同代理から「支店長(P118)から『P3は共産党に入党したという情報が入った。P3を預けるから、何とかして共産党から抜けるようにしてほしい。』と言われた。P3君が共産党に入ったかどうかは知らないが、聞くことはしない。君が何をしようがかまわない。どうしてほしいとも言わない。僕にも共産党の友人がいる。」などと言われたこと、このような話の後、二人で「相生寿司」という寿司屋へ行き寿司を食べたことを鮮明に記憶しているので、右記載は事実である。

(3) 別紙一の一一八番

原告P3は、後輩であり親友であるP119から、同じ職場の一年先輩であるP120が同原告を尾行していると教えられた。当時、同原告はベトナム戦争反対運動など職場外での社会運動にも参加しており、銀行からの帰りに会合に立ち寄ることが多かったため、被告の指示によりP120が同原告の行動を監視していたのであり、右記載は事実である。

(4) 別紙一の一一九番

昭和四四年頃、α8支店において当座、預金係を担当していた同原告は、勘定違算のために遅くまでかかり最終電車にも間に合わないことがよくあったため、主任と一緒にタクシーで帰宅したことがあった。同原告が勤務報告書に時間外勤務をありのまま記入していたのに対し、担当代理であるP121から「記入は一〇時までにするように」とか二〇時をオーバーした分は別の日につけるように」と何度か言われたことがあり、右記載は事実である。

(5) 別紙一の一二〇番

被告が筆跡鑑定や思想調査を命じた根拠として次の事実があり、右記載は事実に反するものでない。①守衛のP122が「誰がP3に入れたのか筆跡鑑定しているらしい」と誰かれとなく、言って歩いていた。②P78主任や先輩従業員のP123から民青への加入について問い糺された。③担当代理であったP77とP78主任に寿司屋「一梅」で酒を振るまわれ、民青への加入について執拗に質問された。

(6) 別紙一の一二一番

原告P3のボーナス査定が低い理由に関して、α41支店のP79支店長、α26支店のP80支店長らから、「時間外労働が多過ぎる」「他の人よりも休みをよく取る」「協調性に欠ける」などの説明を受けたのであり、右記載は事実に反するものでない。

(7) 別紙一の一二二番

α26支店のP80支店長は、ボーリング大会で優勝した原告P3に対して、記載のような暴言を吐きながら優勝商品を手渡したが、同原告はそのときの情景を鮮明に記憶しているのであり、右記載は事実に反するものでない。

(8) 別紙一の一二三番

当該記載にある「Y君」とは被告の元従業員であったP81である。原告P3は、同人より右事件について説明を受け、聞いた内容をそのまま記載しただけであるので、右記載は事実に反するものでない。

(9) 別紙二の五七番

当該記載は本件出版物の二三八頁の四行以下に記載の「でっち上げ事件」についての評価ないし感想であるところ、右の記載事実はP81本人から聞いたとおりであり、真実であり、従って、右の感想は当然である。

(一四) 原告P82について

(1) 別紙一の一二五について

P83支店長とのやり取りについて、原告P82が「じゃ、生産性が、誰と比べて、どのくらい低いのですか?」と聞くと、P83支店長は答えられなかったので、原告が「資料はないのですね」と尋ねると、P83支店長は、前言を翻し、「生産性が他と比べて差がある」のではなく、「生産性が期待水準に充たない」と言い出したのである。このようにボーナス低査定の理由について、P83支店長は、十分な説明をせず、原告に問い詰められると理由を変更するという態度に出たのである。

(2) 別紙一の一二七番

平成五年三月に大阪中央労働基準監督署より指導・勧告がなされた結果、α11支店でも次のような改善がなされた。①月水金の週三回あった朝礼が水曜日一回に減らされた。②朝礼のある毎週水曜日に行われていた代理、謀長、次長参加の役席会議が、毎週金曜日になり出席者も課長、次長のみとなった。このことから、被告においてサービス残業があったことは明らかである。

(3) 別紙一の一二八番

昭和四五年六月二〇日頃、原告P82が当時の上司であるP124代理から、年休を取ったときに右記載の発言を受けたのは事実である。

(4) 別紙一の一二九番

被告所定の本部への報告書の中に一ヶ月間の時間外勤務の内訳として経常事務・サークル活動・その他の分類がなされていることから、被告自身がQCサークル活動は時間外を伴うことを前提にしていることは明白であるから、右記載は事実に即するものである。

なお、被告所定の本部への報告書「月別一人員送信補助表」と題する報告書の書式の中には、一か月間の時間外勤務の内訳として、経常事務、サークル活動、その他の分類がなされていますが、このことからも被告自身、QCサークル活動が通常時間外を伴うことを前提にしていることは明らかである。

(5) 別紙一の一三〇番

ビラ撒きについて、原告P82とP83支店長との間の一連のやり取りの最後に、同支店長が「今後一切言いません。」と発言したことは事実であり、それまでのいきさつからみてこれを「非を認めた」と評価して、その旨記載したものであり、右評価は当然のことである。

同原告のビラ撒きに対して、同支店長が「支店長として残念ですな。真意はなんなのですか。」、「休暇を取ってビラを撒くなど、子が親につばをかけるようなことです」、「ビラの内容も間違っているところがある」等の発言をしたことを、「そのビラまきにも干渉し、暴言を吐く。」と記載したのは、正当な評価によるものである。

(一五) 原告P13について

(1) 別紙一の一三一番

当該記載の差別の具体例として、①昭和四三年の新入行者の女性のための指導から、原告P13を外したこと、②昭和四三年七月ころ、営業第三課の六人位が同席して飲食する機会があったところ、その際P125代理が、同原告及び原告P88に対して「共産党というのは何でもすぐ反対するし、資本主義の悪いとこあげてばっかりする。」旨のいやがらせ発言を行ったこと、③昭和四五年の組合選挙において原告P13が分会委員に立候補した際、被告は、あえて同じ係に所属するP126を対立候補として立候補させたこと、④昭和四五年の組合選挙の結果、同原告は約四〇票を得て健闘したが、その直後被告は、同原告の影響力を弱めることを意図して、同原告を外国為替謀輸出係へ係替えしたことがある。

右①ないし④の事実、及び昇格昇給差別の実態などから、本件出版物において、「青婦人部の解散の時に反対の意思表示をしたことから、いろんな差別が始まったのではないかと思います」と推測したものであり、かつ、右推測は合理的であって、何ら事実に反したり、歪曲したりするものではない。

(2) 別紙一の一三二番

昭和五二年一〇月一日付で原告P13は昇格したが、そのときP86係長は同原告に対し「昇格しました。今の時期を逃すと昇格できないと思う。」と述べた。当時、同原告は、一二月五日に三人目の子供を出産予定であり、次の昇格時期である四月一日には出産、産休の事実が査定の対象となり昇格させられないことを意味していた。この年の四月一日の査定で同原告は前年の第二子の育児休暇の時期が査定期間に含まれていた。

P86課長が「組合から『本人に納得の行く説明をせよ』と言われたので説明する。」と言って次のような「理由」を説明した。すなわち、「銀行はサービス業である。勤務時間が短くても皆と同じ仕事をしているというが、時間がくれば帰る、『子供が熱を出したから』と言って休む人にはそれなりの仕事しか与えられない。もともと人より少ない仕事の量なのだ。」というものである。これは男女差別に他ならない。

(一六) 原告P11について

(1) 別紙一の一三四番

原告P11が同期同学歴者に比べて低く査定されており、資格手当で一万円の差をつけられたことをその目に見える始まりと考え、その旨記載したにすぎず、何ら事実に反したり、事実を歪曲したものではない。

(2) 別紙一の一三五番

入行後一年四ヶ月の短期間で転勤を命じられる例はないこと、原告P11は、サークル活動や組合活動などに積極的に参加しており、かかる活動を被告は嫌悪していたことから、同原告に対し、被告が不当な差別をおこなったものといえる。

(3) 別紙一の一三六番

原告P11が勤務したα37支店、α42支店、α43支店、α30支店及びα44支店のいずれにおいても、支店長は、個人面接の際、「仕事はよくやってくれている。私は公平な評価をしている」とコメントするのみで、昇給、昇格に関する説明はなされなかったものであって、右記載部分は事実である。

(4) 別紙一の一三七番

原告P11の場合、同年齢の他の職員と比較して研修機会の回数、内容に著しい格差があるのは確かな事実であり、何ら事実を歪曲したものではない。

(5) 別紙一の一三八番

α29支店、α30支店をはじめ、いずれの支店においても原告P11と職場の同僚との交流に干渉が繰り返されたのは事実であって、何ら事実に反したり、事実を歪曲したりしていない。

(6) 別紙一の一三九番

被告は原告P11の勤務実績を無視し、差別的処遇・取扱いを行ってきたものであって、何ら事実に反するものではない。

原告P11がα31支店に勤務していた当時、西日本外交実績一覧表(昭和六三年上期外交活動実績四月実績)において第二位にランクされる外交実績をあげたにも拘らず、支店長、次長、取引先課長は、同原告についてのみ下線、確認印を行わず、これを無視しようとした。

(7) 別紙一の一四〇番

当該手記の記載部分は、何ら事実に反したり、事実を歪曲するものではない。

(8) 別紙二の五八番

とりわけ、被告は、利益第一主義の施策を取り続け、国民の利益を度外視してきたのであり、このことは協力預金による収益を稼ぐために、多数の中小企業・個人取引先を変額保険に加入させ、予期せぬ損失を与え、被告に対し相当数の裁判が提起されていることによく現れている。かかる被告の施策を「モラルに欠ける反国民的施策」、「過当な競争」と評価することは、被告に対する適正な評価であり、誹謗ではない。

(9) 別紙二の五九番

テレビのCMで被告の明るいイメージが作出されているのは事実であり、被告に長時間・超過密労働が蔓延しているのもまた、否定できない事実であり、この関係を当該記載のように表現するのは当然であって、被告を何ら誹謗、中傷するものではない。

(一七) 原告P88について

(1) 別紙一の一四一番

昭和四五年九月頃、原告P88がサークルのキャンプに参加したことに対して上司のP89主任やP90代理からしつこく干渉され、また、昭和四九年から昭和五五年にかけて大阪頚腕罹病者の会の活動に対して上司のP91代理から干渉され続けており、右記載は何ら事実に反しない。

(2) 別紙一の一四二番

昭和四六年二月のある日、上司が原告P88の自宅を訪問し、母親に対し右の言動をとったことは、紛れもない事実である。

(3) 別紙一の一四三番

原告P88が昭和五一年四月、進級の査定に疑問を持ち、担当の役付者(課長、課長代理)にその点を質問したところ、担当役付者から当該記載の発言のとおりの回答を受けたのは全くの事実である。

(4) 別紙一の一四四番

原告P88が研修を受けていないのは事実である。

(5) 別紙一の一四五番

当該記載内容は、何ら事実に反するものではない。

特に、仕事差別について言えば、原告P88は、入行後一〇年目になっても、ファイリング、入出庫チェック、帳票点検、コピー等の仕事しか与えられなかったのである。

(一八) 原告P92について

(1) 別紙一の一四七番

被告においては、職務上の失敗等に伴う懲戒的な転勤を除いて、通常の場合、男子従業員の転勤は昇給・昇格を伴うことは常識となっており、それゆえ右記載は何ら事実に反するものでない。

(2) 別紙一の一四八番

当該記載は昭和五四年ないし昭和五五年のα12)支店在籍中の原告P92とP93貸付担当課長とのやりとりをありのまま述べたものであって、何ら事実に反したり、事実を歪曲したりするものではない。

(3) 別紙一の一四九番

当該記載は昭和六三年夏期ボーナスの支給をめぐる原告P92とα32支店P94支店長とのやりとりをありのまま述べたものであって何ら事実に反するものではない。

(4) 別紙一の一五〇番

当該記載は平成二年夏期ボーナスの査定をめぐる同原告とα45支店P95支店長とのやりとりをありのまま述べたものであって、何ら事実に反するものではない。

(5) 別紙一の一五一番

当該記載内容は何ら事実に反するものではない。

(一九) 原告P4について

(1) 別紙一の一五二番

当該記載は、昭和四八年四月ころのα8支店P96支店長の言動をそのまま記載したものであって事実である。

(2) 別紙一の一五三番

これは昭和六二年ないし昭和六三年当時のα33支店P97支店長の言動を記載したものであって、事実である。

(3) 別紙一の一五四番

被告においては、時間外勤務についてのガイドラインが設けられていた時期があり、それが店舗ごとの事務表彰項目に入っていたため、時間外勤務の時間を実際より少なく記入するのが当然という雰囲気があり、ときには係の主任が少なめに申告するように指示することもあったこと、及び原告P4は時間外勤務を正確に申告していたため、他の職員よりも統計上の時間外勤務が多い結果となっており、上司などからしばしば「早く帰れ」、「あんただけ時間外が多い」と言われた。

(4) 別紙二の六〇番

原告P4の給与の総支給額が、執筆当時、二四万一一〇〇円であるということは争いようのない事実であるし、その額は、総合書記で入行した大卒男子の場合、四、五年で到達する額であり、原告P4は勤務年数(手記を執筆した当時で二三年)を考えれば、それを「人に言えない」と感じるのも当然である。また、「大企業は、人間であることを求めて、ものをいう人間、行動する人間には、こういう仕打ちをするのでしょうか」という記載についても、結婚・出産後も働き続けてきたことへの様々な嫌がらせや、長年にわたって昇級がなく、また定期昇給も標準より少ない理由を支店長に問い質しても、具体的な説明はなかったことなど、それまでに記載してある原告P4の活動とそれに対する被告の仕打ちを前提として評価したものであり、合理的な根拠を有するものである。

二  慰謝料請求

(原告らの主張)

1 本件戒告処分は、前記のとおり違憲、違法であり、憲法上はもちろん、私法上も保護される原告らの表現の自由に対する重大な侵害である。原告らは、被告の企業内における違法、不当な労務管理、労働条件等の事実を社会に公表し、社会的批判によってこれを是正しようとしたのであるが、本件戒告処分によってその途を閉ざされ、今後、敢えて、右事実を公表しようとすれば被告によっていかなる不利益処分を課されるか分らない状態に陥れられた。また被告は、原告らに対して、本件出版物のどの部分が虚偽あるいは事実を歪曲したものであるかを具体的には全く示さず、突如として本件戒告処分という不利益処分を課せられたのであり、原告らの精神的動揺、不安、怒りは計り知れない。

よって原告ら各自が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、各一〇〇万円を下らない。

2 原告らは、訴訟代理人豊川義明他一〇名に本件訴訟を委任し、着手金として各自金一〇万円を支払った。

3 よって、原告らは被告に対し、本件戒告処分の無効確認を求めるとともに損害賠償として、各自金一〇〇万円の慰謝料及びこれに対する平成五年二月一七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに各自金一〇万円の弁護士費用及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

原告らが、弁護士費用として各自一〇万円を支払ったとの原告らの主張は不知。

原告らの被告に対する損害賠償の請求に関する主張は争う。

三  争点

1  本件戒告処分の効力

(一) 就業規則における懲戒事由該当性の有無―要件と事実

(二) 処分の相当性

(三) 不当労働行為の成否

2  慰謝料請求の可否

第三当裁判所の判断

一  本件出版の経緯等

証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

1  本件出版の経緯

原告らは、全国銀行従業員組合連合会(以下「全銀連」という。)及び組合の青婦人部の流れをくむグループであり、組合内少数派として、あしおと金融労働研究会を結成し、①青婦人部解散反対運動、②労使強調路線反対、③労災職業病認定闘争、④組合規約改定反対運動、⑤井ノロ裁判闘争(パート解雇撤回闘争)支援、⑥その他の労働条件向上の運動を行ってきた者たちである(原告P12三〇回期日、甲八六、甲九〇ないし一六六、甲二五七)。

月刊「銀行マン」編集部は、都市銀行に勤務する労働者を対象とし、その職場の労働条件についての記事を掲載した職場新聞「銀行マン」を毎月発行している任意の組織である。右編集部は、毎月職場新聞を発行する傍ら、都市銀行の問題点を内部から取り上げるとして単行本を出版していたが、すでに出版されていた「大銀行のナカは闇」(乙二)、「大銀行のわれら闇を照す」(乙三)という二冊の単行本に続くものとして、原告ら及びその家族らの手記を内容とする単行本の発行を企図した。そして、銀行マン編集部及び株式会社日本機関誌出版センターは、原告ら一九名に対し、各自が被告に入行した経緯、自己が体験した職場の勤務実態、労務管理の実態について手記を寄稿することを求めた。これに対し、原告らは、自分たちが受けていると考えている賃金、昇格差別の是正、被告における労働実態、被告の営業の在り方について、これらを一般に知らしめることで、社会的批判がおこり、被告も是正しなければならなくなると考え、右編集部からの要請に応じた(原告P12三〇回期日、同三二回期日)。

2  本件出版物の作成の経緯

平成二年の初めに、銀行マン編集部からの執筆の依頼を、原告P12ほか一、二名の原告が受け、原告ら全員で協議をし、それぞれが一番印象に残っていることを中心に書くことになった。そして各自が手記を寄せ合い、また、原告P12は、本件出版物の一五頁の端書きも作成した。その後、ゲラ刷りの段階で、原告P12が各自の手記部分の「てにをは」を更正した。このゲラ刷りの段階ですでに日本機関誌出版センターが作成した表題、目次はつけられており、銀行マン編集部が書いた二章、四章、六章、「あとがき」もできあがっていた。ただ出版社が作成した帯については発刊後付けられた。ゲラ刷りの段階で本件出版物の内容等について特に異議がでるわけでなく、本件出版物は発行された(原告P12三一回期日、三二同期日)。

3  本件出版物の構成、内容及び性質

本件出版物は、B六版三〇七頁の単行本で、「トップ銀行のわれら闇犯罪を照らす。」「告発する銀行マン一九人とその家族たち」という標題が付されていた。また本件出版物に付けられた帯は、黄地の幅約五センチメートルのものであり、そこには「前略三和銀行頭取様、あなたはこんな差別と犯罪を知っていて許しているのですか。」「こんな悪事を働く(銀行)だったとは!誰も知らない仮面をはぎとれば・・・・」「世間の半分以下の給料、尾行、見せしめ配転」「強制残業にカエレコール」「妊産婦に差別」との記載がなされていた。そして本件出版物は、序章「前略三和銀行頭取様」、第1章「銀行マンいじめは いま・・・」、第2章「銀行マンの二四時間スケッチ」、第3章「サービス残業、今もはびこる」、第4章「三和銀行ウラおもて」、第5章「尾行、人権無視の百貨店ですか」、第6章「バブル崩壊後の銀行で」、第7章「労災認定患者一五人の職場から」の八章からなり、全体の約三分の二が原告ら及びその家族の寄稿した手記で占められている(当事者間に争いがない事実)。

その内容は、概していえば、被告における経営姿勢や人事政策、労務政策を批判し、原告らに対し、思想または性による昇級、昇格、配転等において差別や嫌がらせが行われ、また、サービス残業が強いられているなどと記載するものである。そして、その批判的が前述のグループ又は組合内少数派の立場からの記述であることは、一読して明らかである(甲一、乙四)。

二  被告における経営理念、労務政策及び人事制度

証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

1  被告の経営理念等

(一) 中期経営計画

被告においては、近時の金融自由化をはじめとする環境変化に対応するため、中期的展望のもと、被告の「あるべき姿」を想定し、その「あるべき姿」に到達する諸施策を定めるべく各中期経営計画が設定された。昭和六二年度からは「ユニバーサルプロジェクト九〇」(以下「UP九〇」という。)という中期総合計画が実行された。この計画においては、単に抽象的な目標を掲げるのみならず、具体的な目標を計画し管理することが必要とされ、目標管理ということが導入された(乙四三)。そして、この目標管理は、これ以降の「ユニバーサルプロジェクト・アクセルⅡ」「ベスト九五」「ベスト九八」にも引き継がれていった。

(二) 「三つのS」

「UP九〇」(昭和六二年度~平成元年度)において、目標管理とともにコーポレートカルチャー(企業文化、風土)として設定されたのが「三つのS」である。これは、Strategy(戦略性ある企画力)、Strength(強さに満ちた実践力)、Speciality(高い専門性に基いた営業力)を意味するとされた。この「三つのS」の趣旨としては、多様化、高度化する顧客のニーズに応えることにより、経営目標を達成しようとするものであり、ストラテジーとは、常に創意と工夫をもって新しいやり方、新しい戦力を考える習慣を身につけることを、ストレングスとは、仕事に対す基本的な取り組みとして顧客より信頼されるに足りる強い実践力をもつことを、スペシャリティとは、高い専門性、プロとしての自覚、営業力をもつことを、それぞれ指していた。

そして、この「三つのS」は、次の「ユニバーサルプロジェクト・アクセルⅡ」(平成二年度~同四年度)においても引き継がれ、同計画の「三つのS」とは、Strength(絶対諦めない心)、Strategy(独創的な戦略)、Speciality(プロとしての自信と営業力)を意味するとされた。

これらは、新入行員向けの研修資料である「われらの銀行」に掲載され、各行員に周知された(甲二四九、乙四三、四三)。

(三) 「四つの人ザイ」

平成四年春、被告のP127頭取が、「一九九二年度上期全国支店長会」における頭取訓辞で、「人材育成が最大のポイント」であるとして「人罪」「人在」「人材」「人財」の四つの用語を用いて人材育成を要請した(当事者間に争いがない事実)。

これは、被告において、平成四年度上期より、重点方針として「清新・溌刺とした強い集団作り」を掲げていたことから、このためには人材育成が最大のポイントであるとして、支店長らに対し、まず自分自身を厳しく評価し、人間的に魅力ある尊敬できる人物となるよう心がけること、部下においても被告の組織強化のため教育指導していくことを要請したものである。

これは、行内紙「三和」に掲載され(甲二五〇、乙四六)、各支店において支店長が説明した(P5二八回期日)。

(四) TQC(全行的品質管理活動)

被告では、昭和五二年にQCサークル活動が始まった。これは、「①顧客の立場に立って、常に物事を考え、行動する。②日々全力を発揮して仕事に取り組める、働きがいのある職場をつくる。③人格、教養、技能ともに優れた行員となる」ことを目指したものであった(乙五一)。このQCサークル活動が、昭和六一年にTQCにひきつがれた。これは、各部店のトップから第一線の全員までが、QCの考え方に基づいて仕事の管理、改善を行うことで、「方針管理」「サークル活動」「提案」の三つを柱としたものであった。このサークル活動は、TQCの一環として、各部店で係りを中心にサークルを結成し、自己啓発、相互啓発を行い、職場の地道な管理・改善を全員で行うことをいい、そのねらいは、働きがいのある風通しのよい組織を作り、顧客に役立つような仕事の身近な問題を自主的に取り上げて改善を図り、その過程で各人が人間的にも成長することであるとされていた(乙三九、五一)。

(五) 組合

被告における労働組合は、昭和二一年四月二七日に結成され、昭和二二年四月、上部団体である全銀連に加盟した。全銀連は、その設立趣意書で①生活の擁護、②銀行経営の民主化、③金融行政の民主化を掲げ、昼食時一斉休憩闘争、帝國銀行、北國銀行闘争、レッドパージ反対闘争、協和銀行、北陸銀行闘争を行った。そして、昭和二四年、組合の中央委員会に青婦人対策部が、各支部ごとに青婦人部がそれぞれ設置され、活発な活動を行なっていた。昭和二八年以降、地銀の労働組合がスト権を中心にした闘争を行うなか、都市銀行(市中銀行)の労働組合グループは次第に地銀労働組合グループと距離を置き始め、昭和三一年五月、都市銀行(市中銀行)労組グループは、全銀連を脱退し、同年七月市銀連を結成し、全銀連は分裂した。市銀連の路線は①組織縦割り、②単組自主性、③経済闘争主義であり、組合もこの市銀連の路線に従い、労使協調路線を取り始め、以後、組合委員長と頭取が定期的に会談をもつようになった。そして組合執行部の経験者が、被告の役員となることも多く、人事部の重要なポストに就く者もいた。昭和六〇年から平成六年までの被告役員の中で、組合執行部経験者が占める割合は約四分の一であった(原告P12三〇回期日、甲四七、四八、六〇、六四、六五の二、八五、二五二、二五四ないし二五六、一〇一四ないし一〇二三)。

他方、原告らは、前述のとおり、全銀連時代の組合活動を引継ぎ、労使協調路線をとる組合執行部に対し批判的な活動を行い、全国大会代議員選挙への立候補、推薦活動、職業病闘争、男女差別賃金闘争等の個別闘争を行っていた。

2  被告の人事諸制度

(一) 被告の労務管理

(1) オンライン化

昭和四〇年代初め以降、営業店の端末と中央コンピューターを通信回線で結び、営業店で発生した取引を直ちにコンピューターで処理するシステム、いわゆるオンライン・バンキング・システム(被告では、サンバックシステムと呼称)の開発が行われ(乙五二)、右開発は三次にわたった。第一次サンバック計画では、昭和四三年の為替業務のオンライン化、昭和四八年の全預金種目のオンライン化が実現された。また、ワンライン・システム(店頭を単純取引の窓口と複雑取引の窓口にわけ、単純取引を扱う窓口のテラーには記帳機をもたせて窓口即時処理体制をとらせること)、会計システム(手作業による集計事務をコンピューターに置き換えること)も導入され、さらに営業店の窓口にはCD(現金自動支払機)が設置された。第二次サンバック計画では、昭和五二年以降順次融資外国為替などの全業務及びCIF(顧客情報ファイル)がオンライン化され、綜合オンラインが完成し、また営業店の店頭にはATM(現金自動預入支払機)が設置された。さらに、第三次サンバック計画では、昭和六三年以降銀行業界で初めて、基本業務システム(預金・融資・外国為替等)と情報システムを統合したオンラインシステムが実施された。この昭和四〇年以降のオンライン化により、事務の大量集中処理が可能となり、営業店の事務は大幅に軽減された。また、事務の機械化、合理化により、定型的な業務が減少した結果、一時期職員数の減少傾向があらわれた。具体的には昭和五〇年代にはCD・ATMの設置台数の増加により営業店の窓口事務が減少し、職員数(とりわけ従前右窓口業務に従事していた女性職員の数)が減少した(乙五七~六〇)。

(2) 事務表彰制度

事務表彰制度は、前述の第一次サンバック計画で導入された「ワンライン・システム」「会計システム」の定着化のため、昭和四九年下期から始まったものであり、正確な事務処理、窓口機能の充実により、顧客の信頼に応えうる事務体制の確立と一層の事務効率の向上を図るべく実施されているものである(乙六一~六二)。

(3) 時間外勤務

被告では、時間外勤務について、自己申告制度が採用されている。すなわち職員各人が勤務報告書の任命欄に時間外勤務の事由及び終了予定時刻を記載して上司に報告し、上司がそれを確認して時間外勤務を任命する。そして上司の任命を確認した職員本人が時間外勤務を行い、その内容を勤務報告書の時間外状況の実績欄に記入して、上司がこれを確認して終了する(乙七二~七五)。

被告においては、午前七時までに、又は午後八時を越えて時間外勤務を命じる場合は、時間外勤務に関する協定書に基き予め労働組合と協議することとされている(乙七五)。また、かつて時間外勤務についてガイドラインが設けられたことがある。

原告らは、平成四年五月一三日、大阪労働基準局長に対し、被告におけるサービス残業の実態についての調査の申立てを行い、右申立事案は中央労働基準監督署が担当することになり、α26支店ほか二店で立入調査が行われ、原告らは、担当監督官から、労基法違反になるような問題点があったこと、文書による勧告はしていないが、右問題点について、本店、支店の幹部に必要な指導は行った旨の説明を受けた(甲四一一、四一五、四一六)。

(4) 早帰りの促進(フレッシュ・アップ・キャンペーン)

被告においては、早帰りの促進のため、昭和六〇年八月よりフレッシュ・アップ・キャンペーンを実施し、水曜日を「フレッシュ・アップディ」と名付けて定時退勤を勧めてきたが、さらに徹底をはかるため、人事部が改めて各支店長宛に「フレッシュ・アップディには遅くとも六時半に退行させるように」通達を出した(乙七八~八二)。

(二) 従業員の健康管理問題に関して

(1) 被告における従業員の健康管理への取組みとして以下のものがある(乙六四、P5二六回期日)。

ア 健康の保持、増進

体力づくりのための施設として、各種体育施設、会員制体育施設の設置。

イ 疾病の予防・早期発見

定期検診、特殊検診、その他健診諸制度(人間ドック・妊娠保健指導・子宮がん検診等)の実施。カウンセリング制度、安全衛生管理制度の実施。

ウ 治療リハビリテーション

各種救済制度(在宅保健施設事業補助金制度・災害補償規定・頚肩腕障害者に対する救済措置等)の実施。診療・治療体制(健康管理センター・契約病院・頚肩腕障害者のリハビリテーションとしての出社制度等)の充実。

(2) 被告は、頚肩腕障害に対する予防対策として、昭和四七年に機械業務従事者に対する特殊検診の拡充(最新鋭の特殊検診機器を搭載した特殊検診車の購入、巡回して検診ができる体制の完備)や本店健康管理センター内物療センター(頚肩腕障害を含む神経性・筋肉性の疾病に対して牽引などの治療を行う施設)の設置をおこなったほか、同年、職員が頚肩腕障害に罹患したと訴えてきた場合には、健康保健外費用の支給や時間外通院等を認める特例措置を設け、昭和五七年には、頚肩腕障害罹病者に治療行為として訓練の場を提供することで職場復帰の促進をはかるリハビリ出社の制度を設けている(乙六五、七〇)。

(三) 女性従業員の勤続状況

平成六年三月末現在の被告における在籍女性従業員の平均勤続年数は六年四ヶ月であり、平均年齢は二六歳六ヶ月である(当事者間に争いのない事実)。他方、都市銀行の中で、被告を除く上位四行についてみれば、平成六年三月末現在女性職員(事務員)の平均勤続年数、及び平均年齢は、住友銀行が五年九ヶ月及び二六歳、三菱銀行が六年一一ヶ月及び二七歳一ヶ月、富士銀行が七年四ヶ月及び二七歳五ヶ月、第一勧業銀行が九年一ヶ月及び二九歳一ヶ月である。また全産業を通じても女性労働者の平均勤続年数は七年余りであり、平成八年時点でも勤続四年以下の者がなお半数近くを占めている(乙三四、乙一三四)。

(四) コース別人事制度

被告においては、昭和六一年にいわゆるコース別人事制度が導入された。これは、職務群を定型・非定型の二つの分野に大別し、それぞれの持ち場で高度化を目指す体制づくりを狙いとして導入されたものであり、定型的職務を中心とする一般書記系統と、非定型的職務を中心とする総合書記系統がある(乙八一)。総合書記系統では、判断能力、渉外能力、企画能力等が求められ、担当職務は、銀行業務全般、さらには金融経済等に対する幅広い知識が必要とされ、国内外の転勤を命ぜられるのに対し、一般職においては、本人の同意なく住居の変更を伴う転勤は命じていない。そして、コース別人事制度の導入により、男性社員で一般職を選択した者が、約一〇〇名、女性職員で総合職を選択した者が約一〇〇名存在した(当事者間に争いがない事実)。

(五) 昭和四九年一〇月の給与改訂に対する是正勧告

被告は、組合と合意して、昭和四九年一〇月に給与改訂を実施した。これは男子書記のみ二級三号該当者に対し八〇〇〇円、二級二号二年次該当者に対して五〇〇〇円の各本俸引き上げを行ったものであった。右改訂に対し、昭和五一年一二月二日付で大阪中央労働基準監督署から被告に対し、労働基準法四条違反であるから是正するように勧告がなされた(当事者間に争いがない事実)。

3  資格制度・給与制度・人事考課制度

(一) 資格制度

被告の資格制度は、昭和四一年四月に導入された。それ以前は、職員は、部長、支店長以下支店長代理補までの種々の役職についている者(役付者)とついていない者(書記)と区分され、役付者については、役職のレベルにより、書記については本俸の多寡により区分され、役職への任用を基本とする能力主義をとっていた(乙八三の二)。資格制度導入当時の資格体系は参事、副参事、主事、副主事、主任書記、三級書記、二級書記、一級書記であった(乙八三の九)。その後、昭和六一年六月、系統別資格体系が導入され、書記系統を一般書記系統と総合書記系統に分け、前者は、事務処理・応対など定型的職務、後者は渉外や融資案件の授信判断などの非定型的職務を中心に担当することとされた(乙)八三の三及び一四)。原告らは、いずれも総合書記を選択した(原告P6三三回期日)。

その後、数次の変更を経て、本件出版物が出版された平成四年七月当時の総合書記系統の資格体系は、理事(一級)、参事(一級から三級)、参事補(一級から三級)、主事(一級及び二級)、主事補(一級)、主任書記(一級)、三級書記(一級から三級)、二級書記(一級から四級)、一級書記(一級から三級)であった。また、それぞれ資格要件が定められ、主事とは、役付者にふさわしい人格・教養を備え、主事補としての経験深く、総合金融を含む銀行業務全般及び金融・経済等について広範かつ高度な知識を有し、部門管理者として円滑な業務推進の成果をあげうる者又は専門分野においてこれと同等に評価される者とされている。また、主事補とは、役付者にふさわしい人格・教養を備え、総合金融を含む銀行業務全般及び金融・経済等について広範かつ高度な知識を有し、部門管理者として円滑な業務推進を行いうる者又は専門分野においてこれと同等に評価される者とされている。さらに、主任書記は、三級書記として三年以上の実務経験を有し、所定の選考基準を充たすとともに、①総合金融を含む銀行業務全般及び金融・経済等に関し、担当業務において成果をあげうる相当の知識及び基礎的な管理知識を有し、渉外、授信判断、企画・開発等の職務について、実績を通じて優れた能力を示すとともに、指定された場合は、係員の指導・統括のほか、管理者の職務の一部を代行する能力を有する者、②専門分野において、右と同等に評価される知識、能力を有する者のいずれかに該当すると認められる者である。そして、原告らの多くの資格としての三級書記とは、二級書記として四年以上(大学卒は三年以上)の実務経験を有し、①銀行業務全般及び金融・経済等に関し、担当業務の成果に結びつけ得る相当の知識を有し、渉外、授信判断、企画、開発等の職務を独立して遂行する能力を有する者、②専門分野において右と同等に評価される知識、能力を有する者のいずれかに該当すると認められる者とされている。

さらに、資格と役職との対応関係としては、主事補以上の者が役付者(たとえば主事補では代理、副調査役等)とされている(乙八三の一ないし五一三ないし一五、一八)。

(二) 給与制度

本件出版物が出版された平成四年七月時点で給与制度は、定例給与(本俸、資格手当、職務手当、生計手当、技能手当)、雑給与(当宿直手当、時間外勤務手当、休日勤務手当、勤務出勤手当等)、賞与、その他給与(住宅手当、昼食現物給与、通勤交通費)により構成され、その主なものは、本俸、資格手当、職務手当、賞与である。書記の場合、定例給与では資格手当が最も大きな割合を占め、職務手当と生計手当が残りをほとんど占めている。

定例給与のうち本俸は、主事以下の職員に支給され、原則として毎年四月に査定決定される。本俸の査定は資格毎に定められた号棒金額をもとに何号棒上昇させて適用するか決定する。資格手当は、資格規定に基き決定された資格によって定額の資格手当が支給され、昇格進級により資格手当の額も増額される。職務手当は職務を一応の尺度とし、職務において発揮される能力の発揮度合いの査定により決定されるので、これもまた人事考課により決定されることになる。

賞与は、被告の業績などに基き総支給額を検討し、従業員組合との協議のうえこれを決める。そして、各部店のその前の期の業績や事務の成績等をもとに、各部店に対する総支給額が決定される。各職員への配分方法は毎年従業員組合との交渉結果をもとに決定されるが、役付者、書記いずれにおいても、その半期の実績等に対する貢献度に対する部店長の査定によっている。(以上、乙八三の四、一五)

(三) 人事考課制度

被告における人事考課には、各部店での現場評定と現場評定の結果や他の情報をもとに人事部が行う評定がある。現場評定は、各部店の部店長が、各職員毎に、直属の上司の意見を参考に日常的に行うものであり、全行一律の様式の評価書面(能力開発表、能力診断カルテ等)により、一年に一度作成されている。これにより、部店内の職務付与や賞与査定、OJTや自己啓発の目標設定などの運用が部店長により行われる。他方、人事部における評定は、部店から送られる評価書面の記載内容や年二回の人事計画説明会で部店長から伝達される詳細な現場評定の内容さらには人事部が随時行う臨店面接の結果や支店の業務と関係のある本部の各部からの意見などを総合して行い、その結果に基き職員ごとに異動、昇格、進級、職務手当、研修内容などを決定している(乙八四の二)。

(四) 昇格・進級と人事考課

昇格・進級は原則として四月、一〇月に行われる。昇格、昇級は人事部が、能力開発表の評定、人事計画説明会での部店長の意見や昇格・進級に対する推薦などをもとに職員の資質及び職務を通じて示された職務遂行能力、勤務成績、貢献度、その他を総合的に査定し、資格要件に準拠して決定されている。総合書記の場合、二級書記四号までは一定の経験年数を経れば基本的に昇格・進級する。主任書記への昇格については、中級業務試験二科目の合格が必要条件とされている。但し、銀行の認めた公的資格試験を取得した者等については、右中級業務試験に合格したものとされている。また、役付者として最初の資格である主事補への昇格や、参事補への昇格の際には、昇格推薦を受け、人事部が選定した者に面接(主任者面接及び役付者面接)を行い、その結果も昇格決定の参考としてい(乙八四の三)る。

原告らのうち、原告P9、P10、P7、P3、P11、P12の六名をのぞく一三名は、中級業務試験で二科目以上合格していない(P10三六・四五、弁論の全趣旨)。

4  職務配置(異動・職務付与)制度

(一) 被告における異動の理由は、①ポスト・ニーズに応ずる場合、②職員に幅広く業務を担当させる場合、③マンネリを防止する場合、④顧客との公正な取引関係を保つ場合である。このうち、②、③の目的でおこなわれる異動をローテーション人事と呼んでいる。

被告における昇級、昇格が、おおむね四月、一〇月に行われているため、その際まとまったポストニーズが発生するので、この時期に異動がおこなわれることが比較的多いが、他の要因を伴うものも随時おこなわれているので、時期は決まっていないというのが実情である。同様に、一ヶ月の中では一日付の異動が多いが、それ以外の異動も相当数存在する。さらに異動と異動との間の期間は一般的に三年前後が多いが、行内の事情により短ければ一、二年、長ければ一〇年に及ぶこともある(乙九、P128二二回期日)。

(二) 人事部では、異動の決定のため、人事計画説明会や研修等での面談、本部各部からの情報等により異動の要因について日常的に整理している。そして、部店長の要望あるいは本部各部の意見をもとに各部店の戦力強化の観点から必要とされる人員の資格・能力・適性を検討し、他方、異動の対象となる職員については、日頃の人事考課に基き、資格・能力・適性を把握し、適材適所の観点から検討するとともに、当該職員を現在の部署から転出させることの可否については、当該職員が現在担当している職務の状況から検討する。

被告における異動において、職員個人の事情は、特別な場合(配偶者や子が病気で、特殊な医療施設でないと治療が受けられないなど)をのぞき考慮しないとされ、異動先も限定されているわけではない。また、本人の希望により転勤させるという制度もない。女子職員の転勤の数は、昭和三八年度で三七九名、同三九年度で三九七名であった(乙二四、P128二二回期日)。

なお、労働協約第一一条に、本部の執行委員、中央委員及び支部長の異動には、労働組合の同意が必要であるとされている(当事者間に争いがない事実)。

(三) 異動先での職務付与については、課長以上の職務は人事部が決定するが、それより下位の職員(支店長代理以下)については、支店長が職場の必要性と職員の資質、能力、適性をもとに適材適所の観点から決定している。「主任」については、正式な職制ではなく、給与上の手当もない(P128二二回期日)。

5  研修制度

被告における現在の研修制度は大別すると①職場教育、②集合研修、③自己啓発の奨励に分類される。①の職場教育とは、それぞれの職場において、上司が部下に対し、仕事を通じて計画的に必要な知識、ノウハウ、仕事に対する取組姿勢を日々指導していくものである。被告では、この職場教育を研修制度の基本とし、各種マニュアル類、ノウハウ集等を作成するとともに、新入行員に対して、支店毎に教育担当者を指名し教育指導をおこなっている。②の集合研修とは、職場教育の補完として、そのとき土岐の職員「の担当業務遂行上の必要性うぃ勘案し、一定数の職員を、職場をはなれて一定の場所に集め教育することをいう。これには新入行員、課長といった各階層毎の階層別研修と融資、外交といった業務別の業務別研修がある。また、人事部が受講者を指名する指名研修と部店に広く受講者の申込みを募る応募研修がある。但し、応募研修といっても、受講基準、受講内容等により受講者は選抜される。さらに③の自己啓発の奨励策としては、通信教育制度、公的資格取得制度、試験制度(中級業務試験・業務スキル試験)、認定スキル制度、公募試験制度を設けている。また、基礎技能テストは、昭和五二年の第二次サンバックシステムの導入に伴い、汎用端末機の操作が必要となったことから昭和五三年以降実施されるようになったものである(乙五五、P128二二回期日)。

三  争点1(本件出版の懲戒事由該当性)について

1  就業規則の解釈等

(一) 原告らは、就業規則の懲戒規定の解釈について、限定・厳格な解釈が要求されると主張する。懲戒処分が労働者に不利益を課するものであることからすれば、これを無限定に拡大して解釈することは許されないが、懲戒規定が企業秩序を維持するために設けられるもので、必ずしも明文の規定を必要としないことに鑑みれば、懲戒規定故当然に限定・厳格解釈が要求されるとまではいえず、個別的な就業規則において、社会通念に従い、合理的に解釈すればよいというべきである。

就業規則第五四条第三号は、「故意又は重過失」を要件としているから、右規定が軽過失を含まないことはいうまでもないことであり、また、その「銀行の信用を失墜し、または損害をおよばしたとき」という部分は、「損害をおよぼしたとき」については結果の発生を要件としていると解釈すべきであるが、「信用の失墜」とは信用毀損を意味し、これについては、その行為の性質上、被告の社会的評価を害するおそれのある行為をすれば足りるというべきである。

就業規則第五四条第八号の「名誉または信用を傷つけたとき、あるいはこれにより職場の秩序を乱したとき」とある部分の名誉又は信用の毀損についても、行為の性質上、人や会社の社会的評価を害するおそれのある行為をすれば足りるというべきである。

本件においては、本件出版物により、被告に明確な損害が発生したと認められる証拠はないから、専ら「名誉、信用」を害するおそれがあったかどうかが問題となる。

(二) 本件出版物は、後述のように、被告において労働基準法違反等の各事実が存し、かかる被告の経営方針に反対する原告らに対し、被告が長年賃金差別、昇格差別等を行い、原告らを不当に虐げてきたという内容の図書であり、かかる図書を出版することは、少なくとも形式的には就業規則第五四条第四号、第八号に該当するといえる。しかし、前述のとおり、懲戒規定が企業の秩序維持のため設けられるものであることに鑑みれば、形式的には懲戒事由に該当するとしても、主として労働条件の改善等を目的とする出版物については、当該記載が真実である場合、真実と信じる相当の理由がある場合、あるいは労働者の使用者に対する批判行為として正当な行為と評価されるものについてまで、これを懲戒の対象とするのは相当でなく、かかる事由が認められる場合には、これを懲戒処分の対象とすることは懲戒権の濫用となるものである。

2  本件出版物の検討(総論)

(一) 原告らに対する思想等による差別

(1) 本件出版物は、その序章に、原告らが被告に申し入れた差別是正要請書を掲げるように、その主たる目的は、原告らに対する差別の存在を訴え、その是正を図るところにあり、原告らの思想、組合活動、労働運動等を理由に昇給・昇格、配転などにおいて、被告から種々の差別を受けた旨記載するものである。

そこで、前述したところに従い、当該記載が真実であるか、真実と信じる相当の理由があるか、あるいは労働者の使用者に対する批判行為として正当な行為と評価されるものであるかについて検討する。

(2) 原告らは、前述のように、全銀連時代の組合活動を引き継いで来たグループであるが、組合の青婦人部を主な活動の場としてきた。原告P4を除く原告らは、いずれもその役員となったり、分会員となり、労働条件の問題を積極的に発言し、また、サークル活動を行ってきた(甲七〇、八六)。原告P8、同P2、同P9、同P10は、組合の全国大会の代議員となったこともあり、組合の執行部を批判してきた。原告P8は、昭和三八年の全国大会では、定例給与改善要求をし、また、資格制度導入について執行部を批判する発言をしたこともある(甲四三八)。これらの中で、原告らのグループと組合執行部は対立を深めていったことが窺える。組合は、昭和四二年、全国大会代議員の選出方法を分会単位から支部単位の選出とし、代議員数を約三分の一にする等の改定を行ったが、これらによって、原告らのグループが代議員となることが困難となったとして、原告らはこれを原告ら執行部批判派弱体化のための方策であるとして非難してきた。また、組合は、昭和四三年、青婦人部の解散を決めたが、原告らのグループは、これが原告ら執行部批判派弱体化を狙ったものとして激しく反対してきた(P12三〇回期日)。

原告ら組合執行部批判は、昭和四三年以降、あしおと金融労働研究会という名称で、会報「あしおと」を発行して、青婦人部解散反対、労働協約の改定反対、労災職業病闘争等を行い(甲九〇ないし一六六)、また、代議員選挙には執行部批判派として候補者を立て、推薦してきた(甲一六七、一七四ないし二四六)。

(3) 組合は、原告らの執行部批判派を、共産党又は民青同の属する者あるいはそのシンパと把握しており(甲一七一、一七二、弁論の全趣旨)、その認識は被告と共通していたものと窺える。共産党又は民青同は、資本主義体制を批判し、思想的には革命を目指す団体であったから、これを被告経営陣や労使協調路線をとる組合執行部が警戒心をもっていたことは見やすい道理であり、後記認定の、上司らのこれを示す言動はこれを裏付ける(3(二)(3)、(6)、(四)(1)、(八)(2)、(4)、(一二)(3)、(一六)(5))。そして、不当労働行為があったか否かの判断については、そこまで必要がないから踏み込まないが、原告ら以外のものに情報収集がされた事実があり(甲五八二、五八四、五八五、一〇六三)、原告らに対しても、情報収集がされていたことは推認することができる(3(一三)(五))。

そして、原告らにおいても、原告らのグループが被告からそのような立場にあるものとして警戒心を持たれていること(むしろ、それ以上に差別されたと主張するが。)は認識していた(弁論の全趣旨)。

(4) 原告らの資格及び賃金は比較的低い段階にある(被告も争わない)。被告は、賃金については、職務職能賃金体系によって決定されており、学歴や勤続年数ではなく、職務遂行能力、その発揮度合いによって決まるとし、確かに、原告らの職務遂行能力及びその発揮度によっては、資格や賃金が低いままであることはあり得るが、現実には、年功賃金的運用が相当程度行われていたということができ(甲五三八ないし五六一)、資格や賃金が低いことに原告らが納得するような理由が示されていたともいえず、原告らのグループが揃って低ければ、原告らがこれを差別だと信じたとしても、これには相当の理由があるというべきである。

(二) 被告の経営理念批判

被告は、本件出版物が被告の前述の経営理念ないし経営姿勢、すなわち、中期経営計画における目標管理、「UP九〇」(昭和六二年度~平成元年度)において、目標管理とともにコーポレートカルチャー(企業文化、風土)として設定された「三つのS」、平成四年春のP127頭取の「一九九二年度上期全国支店長会」における訓辞「四つのジンザイ」論、TQC活動(全行的品質管理活動)等を、これらが労働強化をもたらすもので、これによって職場環境が悪化したり、職業病の根元になっているなどとして、「ノルマ漬け」「専制支配体制」「反国民的」「分断工作」「孤立政策」等の用語を用いて批判した部分について、事実に反するもの、あるいは被告を誹謗中傷するものと主張する。

右の「目標設定」「三つのS」「四つの人ザイ」「TQC」等は、いずれも、被告が金融自由化に対応すべく設定したものであり、また人材育成の必要性等について説いたものであるが、労働者が、労働強化に反対したり、労働条件の維持改善を主張すること自体は、何ら違法のものではなく、目標管理などは、その導入の理由はともあれ、運用によっては、労働強化に繋がる可能性はないわけではなく、被告では、業績により各支店等、さらには各従業員ごとの賞与の支給額に差が出るというシステムを採用しているのであるから(P5二九回期日)、労働強化に繋がる可能性は現実的なものであり、労働者が使用者に対してする批判行為として正当な行為といいうる。

以上からすれば、本件出版物の記載する「目標設定」「三つのS」「四つのジンザイ」「TQC」等の被告の経営理念や経営姿勢の批判自体は、これを懲戒処分の対象とすることはできないというべきである。

(三) 被告の労務政策批判

(1) 人員削減に対する批判

原告らは、右各記載部分において、昭和四〇年代以降の被告におけるオンライン化に伴い、人員調整がなされ、かえって職員の労働負担が増えた旨主張し、右人員調整を「人減らし」と評価し、また正確な事務処理、窓口機能の充実を図るべく導入された事務表彰制度も否定的に評価しているものである。確かに被告が主張するように、オンライン化に伴う合理化、機械化や、事務表彰制度については、被告内においてこれを評価する者もいるが(P5、乙五六、乙六一~六二)、事務の合理化は、作業能率を上げることを目的とし、労働負担減少のためのものではないから、これが行われたとしても、従業員にはその賃金に相応する労働が要求される以上、必ずしも、労働負担が減少するものではなく、これらに関する原告らの各記載は、労働者が使用者に対してする批判行為として正当な行為といいうる。

(2) サービス残業の指摘

「長時間労働」「サービス残業」「早帰り促進(フレッシュ・アップ・キャンペーン)」に関する記載は、原告らは、被告においてサービス残業(時間外賃金の請求をせずに時間外労働に従事すること)という形で長時間労働の実態がが強制されているとして各記載を行っているものである。被告が、明確にサービス残業を強制している事実は証拠上認められないが、被告において厳格な時間外勤務の管理がなされ、これが支店毎の賞与額に反映されるというシステムをとっていること、これが結果的に時間外の記入を妨げていると推認される。そして、原告らの申立てにより、中央労働基準監督署の立入り調査が行われ、監督官が、問題点があったと述べることもあったことも考慮すれば、被告においてサービス残業があること、他方で時間外の正確記入を続ける原告らに対しては、帰宅を促すことがなされることを指摘する各記載は、労働条件改善のための活動としての範囲を逸脱するものとはいえない。従って、右記載は、労働者が使用者に対してする批判行為として正当な行為といいうる。

(3) 男女差別の記載

本件出版物には、被告において男女差別が存在する旨の記載があり、また、結婚や出産について嫌がらせを受けたりした旨の記載がある。被告において、その資格や賃金において、男女間に格差があることは、概ねこれを認めることができるが、だからといって、これが直ちに不合理な差別によるということはできず、格差が生じる原因には様々な要因があるから、その原因を容易に判断できず、被告の労務政策として男女差別を行ったとまでは認定できないところである。また、コース別人事制度を男女差別のための制度という点も認められないが、現実に、男女間に、賃金や資格における格差が存在し、昇級について男女で異なる扱いがされたこともあり、コース別人事制度における総合職の割合にも男女で大きな開きがあることからすると、男女差別が存在すると記載したことは、労働者が使用者に対してする批判行為として正当な範囲にあるといえる。

(4) 不当配転

本件出版物は、原告らが、その活動故に不当に転勤させられたとの記載もある。被告においては、前述のとおり、ポスト・二ーズによる異動、ローテーション人事による異動があり、異動期間もその時期も一、二年から一〇年に及ぶものまであり、また、従業員の承諾も必要とされていないものであるから、その期間の長短や、これが承諾なくされたからといって、直ちに不当なものであるとはいえないのであるが、前述のように、資格や賃金については、原告らが差別扱いと信じる相当の理由があり、原告らが活発に組合の執行部に対する批判的活動をしたり、被告を批判したりする活動をしてきたことを考慮すれば、その具体的な活動と関連性が一般的に否定できない時期のものについては、これを不当な異動であると非難したとしても、原告らがこれを活動を理由とする不当な異動であると信じたとしても、これには相当の理由があるというべきであ

(三) 本件出版物の表現

本件出版物の表現には、露骨で扇情的なものが含まれる。しかし、その多くは、異なる体制を標榜する者の労働運動において使用者側に対してされる常套文句というべきもので、専制支配といったり、奴隷を記載したとしても、それがその本来の意味で使われているとは、読者の誰も考えないであろうし、個々の使用方法とも関わるので個別に検討することになるが、概していえば、そのことのみをもって誹謗中傷ということはできない。

被告は、本件出版物が、ビラのようなものとは異なるというけれども、本件出版物の性質が、前述のように、原告らの立場からの主張を記載したものであることからすれば、本件出版物が書籍であるといって、特段別異に考えなければならないものではない。

3  本件出版物の個別的検討

(一) 序章について(別紙一の一ないし一一、別紙二の一二ないし一九番)

序章は、「不当差別人事の是正に関する要請」という要請書の形を取る部分(別紙一の一ないし八番、別紙二の一二番)とこれに続く記載であり、原告らが被告から不当な差別を受けていることを主張するものである。右要請書の部分は、原告らほかが、平成元年五月に、被告人事部長宛に送付した要請書と殆ど同一であって、本章における記載は、原告らが思想信条を理由に過去数十年に及ぶ差別を受けたなどと記載するものの、差別については、前述のとおりであるし、この章全体としては、結論的な記述に止まり、若干の誇張があるとしても、労働者が使用者の不当を訴える程度のもので、労働者の使用者に対する批判行為として正当な行為の範囲を超えているとまではいえない。

(二) 原告P8について

(1) 別紙一の一二番

原告P8は、入行時就業時間を午前八時五〇分始業、同九時開店、午後三時閉店、午後五時終業との説明を聞いていたが、午後六時ないし八時までの残業がしばしばあり、時には最終電車にも乗れず、タクシーで帰寮することもあった。

新入行員であった原告P8が残業を拒否することが容易であったとはいえないから、当時同僚で夜間大学に通学し、また卒業した者がおり(乙七七)、学業の継続は本人の意思による部分が大きいとしても、右記述が事実に反するとまではいえない。

(2) 別紙一の一三

原告P8のα1支店での在籍期間は四年一ヶ月であり、前後の同支店配属の新入行員とほぼ同程度の在籍期間であった。

原告P8は、転勤を希望していなかったこと、組合内少数派として活動していたこと、就職試験の面接時、被告面接担当者から大阪で勤務することを確認されていたこと、同原告より先輩の高知出身者より先に郷里の高知へ転勤となったことなどから、活動を原因とする不自然な転勤であると考え、それを記載したものであるというが、面接担当者の言をもって勤務地を限定する趣旨とすることには無理があるし、同原告は昭和二八年に雇用された者で、雇用以来α1支店勤務が四年一か月となっており、右期間は他の新入従業員の一支店における在籍期間として短いものではなく、被告においては従業員を一時期出身地において勤務させる例も多いこと、また、転勤が必ずしも入行年度順にされるわけではないことからすると、同原告の転勤が同原告の活動を原因とするとはいえないが、同原告の活動状況からすると、これを不当な配転であると信じる相当の理由があるというべきである。

(三) 別紙一の一四番

昭和五六年一月九日に、原告P8が、α31支店に赴任する当日、喫茶店で、原告P8は、P22支店長代理が、「今度来る人の奥さんは病気らしい。」「以前二年ぐらい前にP3というのがいたやろ。あんな連中と一緒や。いてもいなくても変わらんようなもんや。」等と話していた。これを聞いた原告P8は、直ちにかかる発言があったことについて支店長に抗議し、同年二月には書面で回答を求めた(甲一〇四六)。

P22、P10は、これを発言の内容について一部否定するが(乙八五、八六)、原告P8が、P22のこのときの発言について支店長に抗議をおこなったことは否定しないところ、P22が発言したという内容であれば、原告P8が支店長にまで抗議をおこなったとは考えにくく、右陳述書はたやすく信用しえない。

右P22支店長代理の言動が、被告による分断工作であるとまでは認められないものの、右言動からすれば、原告P8が、これを分断工作と考えたとしても、相当の理由があるといえる。

(4) 別紙一の一五番、一六番及び別紙二の二四番

原告らが思想信条を理由に差別されてきたと記載するものであるが、単に結論的な記載であって、前述したとおり、そのように記載する相当の理由があり、労働者の正当な批判活動の範囲を超えているとまではいえない。

(5) 別紙二の二〇番

原告P8が、α2支店から大阪の本店営業部に転勤したのは、α2支店に配属されてから八年四ヶ月後のことであった。また、原告P8は、当時組合の四国支部長であったことから、同人の転勤は、労働協約に従い組合の同意を得てなされた。従って、右転勤自体には違法とか不当の問題はなく、これを異例というのは事実に反し、二ページ前では、高知転勤を非難しておきながら、大阪への再転勤を非難するのは、身勝手な理屈でしかないが、ただ、これにより被告の信用がさほど傷つくとも思えない。

(6) 別紙二の二一ないし二三番

原告P8が記載するところは、年齢の若い上司の下で仕事をさせられたこと、単純作業をさせられたことをいうのであるが、年齢の下の者が上司となることはめずらしいことではなく(甲四五三)、単純作業をさせられたとしても、これが直ちにいじめになるものではないが、昭和四二年ころ、原告P8が大阪本店取引課に勤務していた際、当時の上司より「組合活動に熱心すぎると昇進の妨げになる。」などと言われたこと、当時同原告は入行一四年目であったが、同原告の前任者は入行後間もない行員であったことが認められ(甲一〇四六)、これらによれば、労働運動に熱心であった同原告が、その処遇について、右のように記載したとしても、心情吐露の部分では虚偽とはいえず、いじめられたかのようにいう部分も、そのように信じる相当の理由があるというべきである。

(7) 別紙二の二五番

右記載も、被告の労務管理を批判するもので、「専制支配」との記載は、いささか扇情的であるものの、原告らがいうように、同語は労働運動における常套句であり、だからといって直ちに許されるというものではないけれども、前述のとおり、書籍という形であれ、本件出版物は、一立場からの記載であり、労働運動の宣伝手段として出版されたものであるから、読者としても、これを学術用語として理解するとは考えられず、これらからすれば右記載は許容範囲と考える。

(三) 原告P9について

(1) 別紙一の一七番

賃金差別を主張するものであるところ、2(一)に記載のとおりであり、かつ、労働者の正当な批判活動の範囲である。

(2) 別紙一の一八番

原告P9が、α3支店から大阪のα4支店へ転勤したのは四年一〇ヶ月後のことであり、これは転勤時期として不自然なものではなく、また原告P9が入行した当時(昭和三四年一二月)、被告の国内店舗の八四パーセントにあたる一五七店舗が関西地区もしくは関東地区に集中しており(乙一五)、原告P9の転勤当時、同期入行者の転勤先としては大阪もあれば東京もあった(乙一三八の二)。昭和三九年に在籍二年末満で転勤した者は相当数いた(乙一四)。また、当時被告は東京進出に力を注いでいた時期であり、昭和三二年ないし昭和三六年の五年間に名古屋地区六ヶ店に入行した新入従業員のうち約四分の一は東京地区に転勤となっている。そうであれば、右記載は事実に反するものである。

(3) 別紙一の一九番

被告のコース別人事制度を批判するものであるが、これが労働者の正当な批判活動の範囲にとどまることは前述のとおりである。

(4) 別紙二の二六ないし二八番

原告P9は、昭和四一年の結婚に際し、同じく被告で勤務していた妻と同居するため、妻の東京地区への転勤を希望したが、受け入れられず、妻は昭和四二年二月末被告を退職するにいたった(甲一〇四七)。これを同原告が「冷たい」といっても、あながち事実に反するとはいえない。

(四) 原告P12について

(1) 別紙一の二〇番

原告P12が、入行二年目で、京都のα48店に勤務していたとき、P24次長宅に招かれ、「君を青婦人部の役員にしたのは間違いだった。」と言われ、また同席していたP25代理からも「君のことを心配している。」といわれたことを認めることができる(甲一〇四八)。当該記載については、P25はこれを否定する(乙八七)が、原告P12の記述が具体的であること(P12三〇回期日、甲一〇四八)などに照らし、これを否定するP25の陳述はたやすく信用しえない。そして当該記載は、時期の点について誤りがあるものの、概ね事実を記載したものである。

(2) 別紙一の二一番

昭和五九年一〇月、原告P12がα34支店に勤務していたとき、P129支店長が、原告P12の実績を削り、P26氏の実績に上積みしたと述べ、P129支店長とP103次長、P130代理が、原告P12に謝罪した。P129はこれを否定する(乙八八)が、原告P12の成績が書き加えられた実績優秀外交ランキング表(甲二七一)に照らし、たやすく信用しえない。ただし、当該記載で、昇格のため原告P12の成績を上積みされたとするP26の昇格時期は、本件出版物の記載と異なり、一年半後のことであった(乙八九)。

(3) 別紙一の二二番

原告P12は、毎年自己申告書の意見欄に研修を受けれないことや昇格に対する不満を記述していたことが認められ(甲二七二、二七三)、右記載を虚偽ということはできない。

(4) 別紙一の二三番及び二四番

昭和五一年皮下期外為優秀外交表彰基準(乙一〇二四)における外為優秀外交に対する期待目標としては、1「外為取扱高純増額(対前年同期比)二、〇〇〇千ドル」、2「内今期の新規実績五〇〇千ドル」、3「新規外為先獲得件数三件」とされていた。また、表彰の査定にあたっては、右期待目標のほかl「国内貸掌握先の外為増減状況(前年同期比)、2外為連携件数(含む海外)、3旅行者外貨取扱獲得件数、4その他外交活動(業務本部の定める優秀外交表彰基準項目を参考)等の項目を勘案することとされていた。また、当時、原告P12が獲得してきた取引先は、いずれも取り扱い高の小さい個人事業者であり、原告P12が指摘するP27は取り扱い高の大きい法人を手がけていた。また原告P12が問題とする昭和五一年度下期は、同原告が転勤して半年足らずの間のことであった(乙九〇、九一)。これによれば、成績のすり替えがされたかのようにいう部分は憶測の域を出ないものである。

(5) 別紙一の二五番

原告らが差別を受けているというだけの記載であり、前述(2(一))のとおりである。

(6) 別紙二の二九番

別紙二の二一番の記載を受けての記載であり、その表現は穏当なものではないが、別紙一の二一番の事実が概ね認められる以上、これも労働者の正当な批判活動の範囲というべきである。

(7) 別紙二の三〇番

不公正な査定がされている旨記載するものであるが、別紙一の二一番の事実を踏まえたもので、これも労働者の正当な批判活動の範囲というべきである。

(8) 別紙二の三一及び三三番

原告P12が差別を受けているという記載であり、前述のとおりであり、労働者の正当な批判活動の範囲というべきである。

(9) 別紙二の三二番

労働強化、職場環境の異常、人減らしなどを記載するもので、被告の経営理念等に対する批判の項において述べたとおり、これを懲戒処分の対象とすることはできないというべきである。

(五) 第2章の記載について

(1) 別紙一の二六ないし三二番

これらはサービス残業についての記載であるが、前述のとおり、労働条件改善のための批判活動の範囲を逸脱するものとはいえない。

(2) 別紙二の三四番

従業員を「社畜」という表現は穏当でないが、差別に関する記述については前述のとおりである。

(3) 別紙二の三五番

「三つのS」が労働強化をもたらしているという趣旨であって、これに対する批判が許されないことでないことは前述のとおりであり、右記載も正当な批判活動の範囲というべきである。

(六) 原告P10について

(1) 別紙一の三三番

当時、名古屋地区に配属された新入行員のうち相当数の者(約四分の一)が、東京地区へ転勤しており(乙一三)、また、昭和四二年度に東京地区から大阪地区へ転勤した者は九〇名余りいたのであって(乙一八)、原告P10の転勤が組合活動のやりすぎによるものとはいえない。

(2) 別紙一の三四番、三六番、三七番及び四〇番

原告P10が、α8支店からα9支店に転勤になったのは、α8支店に配属されてから四年四ヶ月後であり、同時期の転出者は一〇名(男子行員三二名)であった(乙一九、乙九四)。また原告P10が、α9支店からα10支店へ転出したときにα9支店から他の支店に転出した者は一三名(男子行員二八名)であった(乙二〇、乙九三)。

被告における転勤は、前述のように、ポストニーズによる場合やローテーションによる場合もあって、比較的短期間で転勤する事例も多くあり、原告P10が労働運動に熱心であり、時間外労働を正確に申告していたとしても、それだけから転勤がこれを理由とするというのは飛躍があり、右記載の各時期の異動については同原告だけが転勤したものではないから、右記載を真実と認めることはできない。

(3) 別紙一の三五番、三八番及び三九番

当時、α8支店において期初に残業時間の目処が設けられ、管理者も残業時間を守るように指導していたもので(甲一〇四四添附資料①、乙九四)、右記載の事実があったと認めることができる。

(4) 別紙一の四一番

本件出版物九一頁の表は、原告P10が平成三年一〇月のα35支店での時間外勤務報告書に基き作成したものであり(甲一〇四三)、真実と認められる。

(5) 別紙二の三六番

サービス残業についての記載であり、前述(2(三)(2))のとおりである。

(七) 原告P30について

(1) 別紙一の四二番、四四番

当時α11支店では、原告P30を含め三名の女子行員が硬貨整理など元方の補助業務に従事しており(乙九五の一)、原告P30と同時期に同支店に在籍していたP131、P132も電話交換業務から出納係に係り替えとなっており、そのほかにもP133、P134、P135も同様に係り替えになっていることが認められるものの(乙九五の一)、原告P30は同人らと異なりすでに当時出納係、定期預金係に配属された経験を持ち、再度電話交換手をつとめた後の昭和四〇年六月には庶務計算係に配属されていたものであることを考慮すれば、原告P30がかかる記載をすることも相当な理由があるものといえる。

(2) 別紙一の四三番

被告が、原告P30の結婚式への同僚の出席を妨害したと認めるに足りる証拠はないが、原告らのグループの中には、他にも原告P6、原告P11、原告P88、原告P7といった同じように同僚から結婚式への出席をいったん了承されながら断られたという者がおること(甲一〇五八、一〇六四)に照らせば、被告からの不当な干渉としてかかる記載をすることも相当な理由があるといえる。

(3) 別紙一の四五番

昭和四二年一月に被告に提出された診断書(乙九五の二)によれば、当時原告P30は妊娠四ヶ月であった。したがって公金テラーの研修が行われた昭和四一年一一月には妊娠二ヶ月であり、公金テラーから後方(資金事務方)に係り替えになった昭和四二年一月には、妊娠四ヶ月であった。また同診断書で「切迫流産」とされ同年一月四日から同月一六日まで休みをとっている。

また、ドンゴロスの運搬作業については、他の行員が外へ出かけていなかったり、また、自らの担当事務を処理していたりしていたときには、原告P30が硬貨の入ったドンゴロスを金庫から出さざるを得なかったが、これは例外的にな場合であって、これが状態であるかのように記載したり、これが原因で切迫早産になったとの記載は、事実に反する。

(4)別紙一の四六番

右記載を裏付けるものはなく、これが真実であると認めることはできない。

(5) 別紙一の四七番

α12支店でP32は、第一子出産後復帰したとき、代替要員が仕事に従事していたことから、席がなかった。また当時P33代理から「やめるつもりはないか。」と言われた。第二子出産後復帰したときも、同人の仕事をP35がやっていたため、P32の机がなかった。また復帰後は外為係の業務を分担し、その中には書類の綴りや整理の仕事もあった(甲一〇四九)。「やめるつもりはないか。」との発言については、P33はこれを否定するが(乙九六)当時、出産を期に退職する女性が相当数いたことから人員計画の確認のため退職の有無を確認する管理職がいたこと(乙一二九)と照らし合わせれば、右P33の陳述は信用しえない。したがって当該記載については、P32の同僚であったP34の陳述書(乙九七)等に照らし、被告が不当な意図をもってP32を処遇していたとまでは認められず、また表現においてやや誇張があるものの、概ね事実を記載したものと認められる。

(6) 別紙一の四八番及び四九番

差別についての記載であり、2(一)に記載のとおりである。

(八) 原告P7について

(一) 別紙一の五〇番

右記載の根拠として、原告P7は、①同原告は昭和四〇年頃から職場内の労演に参加したり、職場での組合集会でも積極的に発言するようになっていったが、当時α13出張所に配属されていた一年先輩のP36や他の同僚・後輩も仕事以外では話さなくなったこと、②その頃、同原告は普通預金係から集金係へ係替えになったが、集金係は通常新入行員が担当するもので、α13の中を長靴をはき、駆け回り、集金先によっては鳥や魚の血のついた肉片やうろこのついた紙幣を読むといった仕事であり、通例の配転でないこと、③同原告は昭和四二年頃、春婦人部東部市場分会の役員になり、活発に活動したことから、昭和四三年四月の昇給時期において「標準」を下回ったことを挙げる。同原告は昭和四〇年頃から職場内の労演に参加したり、職場での組合集会でも組合内少数派の立場から積極的に発言するようになっていったことは、被告が、組織的にこれを把握していたとまで認めることはできないが、同原告の上司が、正確ではないとしても、そのような事実を認識していたことは推認でき、和四三年四月の定期昇給で、同僚のP136、P137は標準の二八〇〇円であったが、原告P7はそれより一〇〇円少ない二七〇〇円であったことは、当事者間に争いがない。しかし、先輩や同僚・後輩が仕事以外では話さなくなったことが被告の指示によるものと認める証拠はないし、集金係りへの係替えについては、原告P7より一〇年以上業務経験の長い者が原告P7同様に専ら集金を担当していたことが認められ(乙九八)、前記事実によっても、被告が、同原告を嫌悪して処遇したとまでは認めることができない。ただし、同原告が組合内の少数派の立場にあり、現実に係替えがされたり、昇級に格差があったことからすると、同原告が被告から嫌悪されていると信じる相当の理由はある。

(2) 別紙一の五一番

原告P7は、昭和四四年一月に本店営業部で勤務していたとき、同僚の融資係りのP106から、同じ融資係りのP38が「あのひとに仕事をさせないように。「破壊者」やから「現物」をさわらせないように。」と言っていたということを聞いた。(甲一〇五〇)。これを否定するP37の陳述書(乙九九)は、右認定を覆すに足りず、右記載は真実と認められる。

(3) 別紙一の五二番

原告P7は、当時全く仕事のない日があり、P39代理にもう少し仕事らしい仕事をさせてほしいと要請した(甲一〇五〇の別紙資料1)。当時の仕事の状況等について、P39はこれを否定するが(乙一〇〇)、甲一〇五〇の別紙資料1に照らしたやすく信用しえない。また当時取引先課の代理が原告P7に「君は製糞器だ」とからかったことがあった(甲一〇五〇)。ただ、これが同原告を孤立させるためであったとまで認められないが、同原告の被告または組合内の立場からすると、同原告が孤立させるように仕向けられたと信じたことには、相当の理由がある。

(4) 別紙一の五三番

被告が孤立化政策をとったとする部分については、前項(3)と同様である。

昭和四八年七月、α15支店に在勤中、それまで昼休みにいっしょに卓球をしていた同僚のP40が突然、原告P7の卓球の誘いを断るようになった。昭和五一年二月二四日、P40と食事をした際、P40から、上司のP41からいっしょに卓球をするのをやめろといわれたと聞いた(甲一〇五〇)。P40はこれを否定するが(乙一四五の一〇)、原告P7の陳述は具体的であること、食事にいった日時はP40は否定していないことから、P40の陳述はたやすく信用しえない。

(5) 別紙一の五四番

原告P7は、昭和五六年五月、被告にリハビリ出社を要請した。昭和五七年一一月、被告の申し入れにより(乙一四五の二)、被告と組合との間で「頚肩腕障害者のリハビリテーションとしての出社に関する覚書」が締結された。

この「頚肩腕障害者のリハビリテーションとしての出社に関する覚書」では、リハビリ出社は治療行為としての訓練であり、その実施する訓練の内容は、医師の指示に従うものとされていた(乙七〇)。原告P7のリハビリ出社に関し、同原告の主治医であった西淀川病院のP42医師は、訓練時間を一〇時から一五時、内休憩時間を約二時間、訓練日を週四ないし五日、作業内容として自己のペースで必要な自発休養がとれ、身体同一部所の動作の反復繰り返しをなるべく避け、一定の限度内で多様性があることを指示していた(乙一〇一)。

従って、仕事が少ないなどという非難は、作業時間及び内容に制限のあるリハビリ出社を求めた立場からは身勝手といわなければならないが、他の同僚が仕事をあまりしなくてもよい同原告に対し好感を持たなかったことは、推認に難くないところ、P43支店長等に関する部分は全くの推測といわざるをえないもず、これを非人間的扱いという表現は穏当でないとしても、取り立てて咎める程度のものではない。

(6) 別紙一の五五番

中級業務試験を二科目以上合格し七年以上主任書記に登用されていない者は、平成六年二月末で五〇名いた。これによれば、昇格しなかったことが差別に当たるとはいえないが、右記載も他の差別を受けたという記載と同様、相当な理由があるといえる。

(7) 別紙一の五六番

差別を主張するもので、他の同様の部分と同様相当な理由がある。

(8) 別紙二の三七番

原告P7の手記部分のまとめに当たる部分であり、前述のとおり、被告の経営理念や経営姿勢、労働政策や人事制度に反対する立場の原告らがこれを批判しても、労働運動としての許容範囲であり、個別の事実については、原告らがこれを真実と考える相当の理由があるといえる部分も多く、正当な批判活動の範囲というべきである。

(九) 第4章の記載について

(1) 別紙二の三八ないし四〇番

合理化、人員削減を批判する記載であり、正当な批判活動の範囲というべきである。

(2) 別紙二の四一番

右記載部分は、Hという人物の言葉を借りた形で、被告における目標管理が、いわゆる「目的のためには手段を選ばず」との考えと行動が中心に座り、全てを支配するようになり、そのためにサービス残業が日常化し、従業員は、ノルマ達成のために、権利が剥奪され、人間性が後退しているとするものである。確かに、被告主張のように、目標管理が諸悪の根元のように記載しているとの評価もなし得ようし、記載の表現方法も、権利が剥奪されているとしたり、異常が常態化し、人間性が後退しているという部分は、扇情的と言わざるを得ないが、労働者が労働強化に反対し、非難したからといって、これを不当ということはできないところ、目標管理は、その導入の理由はともあれ、運用によっては、労働強化に繋がる可能性は常に存在するのものであるし、残業しながら時間外手当を請求しない従業員がいることも認められるのであるから、被告の経営方針に反対してきた原告らが、目標管理のマイナス面を鋭敏に感じて、これを右のように表現したとしても、原告らが故意に虚偽の事実を記載したとまではいえず、正当な批判活動の範囲というべきである。

(3) 別紙二の四二番及び別紙一の六三番

被告を専制支配体制と非難するものであるが、前述((二)(7))のとおり、正当な批判活動の範囲というべきである。

(4) 別紙二の四三番及び四四番

原告らの認識を記載するもので、正当な批判活動の範囲というべきである。

(5) 別紙二の四五番

記載は扇情的ともいえるが、正当な批判活動の範囲というべきである。

(6) 別紙一の五七番

被告における合理化を批判するものであるが、正当な批判活動の範囲というべきである。

(7) 別紙一の五八番

被告による選挙干渉を記載するところ、被告が組織として選挙干渉をしたとまでは認めることはできないが、被告においては、組合が労使協調の姿勢をとっていることは前述のところ、組合内多数派の組合員には原告らの上司に当たる者もいて、時には、勤務時間中に選挙のための活動をしたことがあったことは認められる(甲一〇六三)。これによれば、原告らのように使用者との協調を拒否する立場の者が、本件出版物のような記載をしたとしても、正当な批判活動の範囲というべきである。

(8) 別紙一の五九番

右記載の前半は、TQC活動に対する原告らの評価であるが、TQC活動に反対する原告らが右のように記載したからといって、これが被告の信用を低下させるようなものともいえないし、原告らの活動として相当性がないとはいえない。

後段の部分は、被告がノルマを押しつけているとの記載であるが、労働者が労働強化に反対することは違法ではないし、右の程度の表現をしたとしても、正当な批判活動の範囲というべきである。

(9) 別紙一の六〇番

被告の合理化を非難するものであるが、正当な批判活動の範囲というべきである。

(10) 別紙一の六一番

被告が報復的な配転攻勢をかけたという事実は認めることができないが、同章の当該部分の記載は、原告らの労働運動の歴史的記述であり、原告らの認識を記載したという色彩の大きい部分であるから、批判活動として正当性を欠くとまではいえない。

(11) 別紙一の六二番

労働強化を被告の人事制度と結びつけて記載するもので、時期的な間違いはあるが、結局のところ、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(一〇) 原告P2について

(1) 別紙一の六四番

原告P2は、昭和五二年八月以降現在まで一七年間出納(資金)元方に配置されてきた。同原告は、外交係りでは集金のみ担当し、為替係りでは内部事務を担当し、外国為替係りでは稟議書作成等の判断事務は与えられなかった(甲一〇五二)。他方原告P2の所属する資金係りの約六割は三〇歳以上で、その大部分は男性である。被告において、資金元方を一〇年以上経験している者は、原告P2以外五二名おり、最も長いものは二三年四ヶ月である。平成七年三月当時被告では約一万四九〇〇名の従業員がいたが、原告P2と同じく一七年以上、資金元方に従事している者は六名しかいない(乙二九)。右事実によれば、同原告が、差別と記載したとしても、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(2) 別紙一の六五番

昭和三九年一月東海支部の役員であったP107や原告P9に転勤辞令が出た。同年七月原告P10を含む東海支部の代議員五名が転勤となり、さらに昭和四〇年以降一月に原告P9、八月に原告P8、昭和四二年四月に原告P10、昭和四三年八月原告P49が転勤となった(甲一〇五二)。被告が、活動家を対象として配転命令をしたとまで認めることはできないが、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(3) 別紙一の六六番

当該記載で、昭和四〇年二月の食堂での映画会の開催について庶務係りに食堂使用の許可の有無、内容を問いただした、昭和四〇年のα17支店の食堂での労演講座の開催を妨害した、昭和四〇年のα16支店のスケート参加者へ詮索した、昭和四三年八月の名演開催を妨害した、とされているP45次長がα16支店に在籍したのは、昭和三七年四月から同三九年一月までである(弁論の全趣旨)。してみれば、右記載は事実ではないといえる。

(4) 別紙一の六七番

原告らは、α17支店の女子行員のα18山荘へのスキー旅行に原告P2が参加することとなっていたので、これに干渉し、P46を監視役として同行させ、また、対立候補を立て、かつ選挙干渉したというのであるが、右スキー旅行に、P46が同行したことは認められるものの(甲一〇五二)、当時、原告P2は、α16支店の分会長に立候補の予定であり、分会長は分会毎に選挙されていたのであるから、同原告がα17支店の女子行員に働きかけることは無意味であり、結局、右P46の同行をもって被告の選挙干渉ということまでは認めることはできない。同原告の選挙干渉についての記載は、事実に反する部分が多く、当該記載の他の部分も、これを事実と認めるのは困難である。

(5) 別紙一の六八番

昭和四三年一一月二六日、原告P2はα16支店からα25支店に、α25支店のSが本店へ、本店のAさんはα16支店へとそれぞれ転勤となった。S、A両名とも組合青婦人部の活動家であった。昭和四六年七月、原告P2は、α1支店に転勤となったが、原告P9と交替で係、席まで同じであった(甲一〇五二)。当該配転が原告らの組合活動を理由とするものであったとまでは認められないが、かかる入れ替え的な配転がなされたこと等から不当な配転と評することが相当ではないとはいえない。

(6) 別紙一の六九番

α36支店では、ほとんどの者が八時に出勤し、打合会、会議、金庫からの書類の搬出等仕事をしているが、当番二名と原告P2を除く行員は、毎日残業を記載せず、サービス残業となっている。労基署への申告後は、ATM当番の者は残業を記入するようになっているが、依然としてサービス残業は残っている(甲一〇五二)。

(一一) 原告P47について

(1) 別紙一の七〇番

原告らは、嫌がらせがあったという根拠として、①昭和四五年の長女の出産による産後休暇後に出勤した際、印刷係に係替えとなったが、印刷係は中高年のベテラン女子行員や病気上がりや役職につけない男性が集められていた職場であり、印刷係のする仕事は、印刷機の前に毎日一日立ちっぱなしで、何百枚の印刷物作りで、手はインクで汚れるというものであったこと、②昭和四九年次女の出産時も印刷係で迎え、立ち仕事、印刷物の重い束の持ち運びなど、妊婦にとって有害で、お腹が出てくると機械につかえ作業がしにくい仕事であり、被告が労働基準法上の軽作業転換の配慮をしなかったことを挙げる。

確かに、原告P47が産後休暇後に出勤したとき、係を替えられたことはあるが、休暇中は休暇前の業務を他の者がすることになるので、休暇後、元の仕事をさせなければ嫌がらせになるというものではない。原告P47が担当した業務は、印刷物のセット、発送の仕事の仕事であり立って行う作業であった(甲一〇五三)。この点P138は座り仕事であったとするが右P138は原告P47とは別の部屋で執務していたのであり(甲一〇五三)右記載は信用しえない。そして紙さばき、帳合、ホッチキス留めといった作業は軽作業といってよいものの、立ち仕事であることから、第二子妊娠中も当該業務につかせていた点において、被告は妊婦に対する配慮を欠いたといわれてもやむを得ないのであり、当該記載部分が結論的な簡単な記載であることをも考慮すれば、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(2) 別紙一の七一番

昼休みの取り方まで細部にわたって他の者と区別する方針がとられていたというが、被告にとってそのような必要性があったともいえず、単なる憶測に過ぎない。ただ、同原告の立場からすれば、「考え方の違う人」と言われたことはあり得ることであるし、右記載の程度であれば、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(3) 別紙一の七二番

原告P47の産休のない年の定期昇給は一二〇〇円という平均に近い昇給をしているが、一人目、二人目出産時の定期昇給は一〇〇〇円、三人目出産時の定期昇給は八〇〇円であった。また一五年間同じ資格であった(甲一〇五三)。

被告の出勤・休暇等承認票には備考欄で事由説明が求められ、原告P47は、井ノロ裁判で証人として出廷するときの有給休暇の申請に際して、裁判への出頭を記載したこところ、担当上司であるP48代理から、「あんたのためにも、本当はこんなのに出ない方がよいと思う。」といわれた。また、男女賃金差別是正の労基署への申告について、従組執行委員長から申告の取り下げを懇願されたが断った(甲一〇五三)。これらによれば、右記載は相当性を欠くものではない。

(一二) 原告P49について

(1) 別紙一の七三番及び七八番

原告P49と同時期にα7支店に勤務していたP139、P140、P141は、同支店の勤務のほとんどの期間にあたる約五年間派出業務を担当していた(乙三〇)。当時原告P49は三〇歳前半であったが、その余の者は四〇歳代後半の者達であった。また職務手当は当時内勤者が三万一〇〇〇円であったのに対し、派出者は二万七〇〇〇円とされていた(甲一〇五四)。

原告P49は、α1支店で、約四年間外交係の集金業務に従事していた。この係において、原告P49はセールス力、商品知識の伸長度が低いとの指摘を受けたことはない(甲一〇五四)。

これらによれば、右記載は、批判活動として正当性を有する。

(2) 別紙一の七四番

当時一年での転勤は短い方であったが、昭和四二年一月一日から同四三年一二月末までの二年間に在籍二年未満で転勤した例は六一件であり(乙二一)、出身地以外や、地縁のない支店への転勤もあった(乙二二)。

被告が原告P49の活動を理由に配転したと認めるに足りる証拠はない。

(3) 別紙一の七五番

単に差別があったというだけであり、当時、原告P49の二級への進級が他の大半の同期より二年遅れたこと(当事者間で争いのない事実)、原告P49は、同僚から、α20の支店長が「こんど来る人はいろんなことがあったらしいから、気をつけてほしい。」と言っていたと聞かされたことからすれば(甲一〇五四)、同原告が差別があったという相当の理由がある。

(4) 別紙一の七六番

干渉があったという根拠として、原告らは、入院したP111に見舞いがなかったこと、見舞いに来た次長がP111が読んでいた本をじろじろと見たこと、その後、他の女子行員がP111を避けるようになったことを挙げるが、殆ど憶測に近く、これによって干渉があったという事実を認めることはできない。

(5) 別紙一の七七番

右記載は、原告P49が尾行されたとの記載であるが、甲一〇五四によれば、尾行されたのはP50であり、同原告が尾行されていたとの右記載の事実を認めることができない。そうすると、原告が、左翼分子云々と言われたとの記載も、それが事実であったとは認め難い。

(6) 別紙一の七九番

賃金差別を主張するものであり、2(一)に記載のとおりである。

(7) 別紙一の八〇番

差別を主張するものであり、2(一)に記載のとおりである。

(8) 別紙一の八一番

原告P49が受けた研修は「新入行員研修」「養成行員研修」であった(甲五九四、甲一〇五四)。被告の当時の研修制度からすると、他の研修については同原告が役職者でなく、業務との関係で受講対象とならなかったに過ぎないのであるが、原告P49は、担当業務に不満をもっていたのであり、前後の記載とあわせて読めば、なお、批判活動として正当性ある範囲を超えないというべきである。

(9) 別紙一の八二番

担当業務に対する不満であり、批判活動として正当性を有する。

(10) 別紙一の八三番

序章記載の要請書の提出に関して、差別の事実を述べるもので、序章と同様、懲戒処分の対象とならない。

(11) 別紙二の四七番

差別と記載するが、同原告の立場からの記載であって、批判活動として正当性を有する。

(一三) 原告P1について

(1) 別紙一の八四番

原告らが、序章記載の「不当差別人事の是正に関する要請書」を提出したのは、平成元年五月であり(甲一)、右記載が転勤の原因を提出のためというのは事実とはいえない。ただし、不当に配転させられたというかぎりでは、原告らの立場からの記載とすれば、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(2) 別紙一の八五番

単に差別を受けているというだけの記載であり、2(一)に記載のとおりである。

(3) 別紙一の八六番

右記載の限りでは、事実であり、これを不当であるかのようにいう部分も、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(4) 別紙一の八七番

右記載の限りでは、虚偽の事実を記載したものではない。これが労演に参加したり、原水禁運動をしたことが原因であるとの印象を与える趣旨としても、未だ、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(5) 別紙一の八八番

原告P1が、α23支店に赴任した当時、各係にベテランの女子行員がいてそれぞれの係を取り仕切っていた。原告P1は、右ベテラン女子行員のリーダー格であるP142とともに仕事をしていたが、青婦人部の活動もいちいちP142に報告しなければならないように感じていた(甲一〇五六)。ただ、これをもって被告の監視がついていたというのは、単なる推測に過ぎない。

(6) 別紙一の八九番

昭和四三年ころ、女性だけが掃除当番をしていた問題で女性全員で集会をもったことがあった。その後、原告P1は同僚の男性から当日の夜次長らが集会に参加した者を中立派、無所属、○○派=共産党と分類していたと聞かされた。また、翌朝P54次長が右集会について朝礼で注意をおこなった(乙一〇八)。従って、右記載は概ね事実といってよく、同原告伝聞部分についても、同原告がそのように信じるについて相当の理由がある。

(7) 別紙一の九〇番

当該記載は、青婦人部主催の泊まりがけの懇親会の席上で、参加したメンバーが発言した内容であり(甲一〇五六)、事実でないとはいえない。

(8) 別紙一の九一番

昭和四三年か昭和四四年ころ、「紅岩」という中国革命を礼賛する内容の劇に新入行員全員をつれていったところ、翌日から新入行員全員があからさまに原告P1をさけるようになった。また、ある新入行員から、先輩から原告P1とつきあわない方がいいといわれたと聞いた(甲一〇五六)。原告P1とともに組合、青婦人部の活動をしていたP55は昭和四四年四月に転勤となり、P56は昭和四八年七月に、P57は昭和四九年四月に、それぞれ原告と親しくなったころα23支店から転勤となった(甲一〇五六)。これらによれば、右記載については、相当の理由がある。

(9) 別紙一の九二番

当時融資係にいたP58は、一身上の都合で退職しているが、原告P1に「脱走する」といって辞めていった(甲一〇五六)。そして、業務に緊張は必要であり、中には過度に緊張した場合がなかったとはいえず、してみれば、右記載のうちP58に関する記載は虚偽を記載したものとはいえない。他方P59に関しては、当時預金係にP59というものはいなかったのであるから(弁論の全趣旨)、当該記載は事実に基かず、また記載について相当な理由があったものでもない。

(10) 別紙一の九三番

昭和四一年当時、α23支店では、次々と係替えされることはなかったが、原告P1は代理事務、為替、資金、総務、融資、当座と係替えとなった(甲一〇五六)。右が直ちに嫌がらせとはいえないが、右係替えは頻繁であり、同原告が嫌がらせと感じたことは相当の理由がないとはいえない。

(11) 別紙一の九四番

原告P1は、代理事務のチーフの仕事から総務係に係替えとなったが、これを不満とした同原告は次長と三〇分ほど押し問答をした。当時原告は入行八年目であったが、総務係において、お茶汲み、通達類の整理、メール関係の業務に従事し、経費、給与といった業務には従事しなかった(甲一〇五六)。当時、総務係にはP143というベテラン行員がおり、このものが経費、給与といった業務に長年従事していた(乙一〇九)。なお当時係替えがなされる前の三月に、原告P1は組合の役員選挙に立候補し、依頼していた三倍の一八票を獲得し、ますます活動家として自信をつけていた(甲一〇五六)。右事実によれば、係替えを必ずしも不当とはいえないが、同原告が不満を持ったのは事実であり、右記載は、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(12) 別紙一の九五番

原告P1は、昭和五一年以降、一七年間同じ級にとどまっているが、昭和五一年一〇月は原告P1が男女差別賃金闘争に参加した時期であった(甲一〇五六)。これによれば、原告がこれを不当と信じる相当の理由がある。

(13) 別紙一の九六番

人事や表彰に対する批判であり、批判活動として正当性を有しないとはいえない。

(14) 別紙一の九七番

右記載部分は、事務表彰制度によって労働環境が悪化したことを記載するもので、右制度の批判そのものが懲戒の対象となるものでないことは前述のとおりであり、具体的に記載された事実に関しても、原告P1は、P144代理が、P145氏に「お前なんかやめてしまえ。」と怒鳴っているのを聞いたことがあり、また、原告P1は、P146からは「親が倒れて電話がかかってきても、仕事を代わってくれる人がおらず、泣く泣く仕事をやって帰った」、P66からは「親の法事に忙しいからといって休ませてもらえなかった」、P147からは二週間の休暇をとるに際して、休ませていただきますと支店長にいうために一時間待っており、休暇明けには、また支店長に休暇ありがとうございましたと言わせられた」ということを聞いているのであって(甲一〇三六)、これらによれば、右記載は、殆ど事実といってよい。

(15) 別紙二の四八番

批判活動として正当性を有する。

(16) 別紙二の四九番

批判活動として正当性を有する。

(一四) 原告P67について

(1) 別紙一の九八番

単に賃金・退職金についての差別を記載するもので、2(一)と同様である。

(2) 別紙一の九九番

右記載における発言者について原告らの主張は変遷しているが、発言時の具体性からすると、発言者を誤るといのは理解し難いところであり、右記載は真実性と認められない。

(3) 別紙一の一〇〇番

記載の原告P67の発言が被告の方針に真っ向から反対するものとは常識的にも考えられないが、原告の立場からの記載であって、批判活動として正当性を有する。

(4) 別紙一の一〇一番

原告P67は、平成元年、α25支店において、支店長室において、P70次長から「個人的な意見だが、僕が支店長だったら、銀行に対して逆らう人は上げないだろう。あなたもおとなしくしたらどうか。」と言われた(甲一〇五七)。

これによれば、右記載の発言部分は事実を記載したものである。

(5) 別紙一〇二番及び一〇三番

賃金等の差別を記載するものであり、2(一)記載のとおりである。

(一五) 第6章の記載について(別紙二の五〇ないし五三番)

この章は、被告が、反国民的なことを行っているとして、「三つのS」「四つのジンザイ」「サービス残業」を批判するもので、その批判が許されないものでないことは、前述のとおりである。ただし、右五一番の記載の中で、被告が下げるべき貸出金利を下げないで高い金利を利用者に押しつけているとか、従業員が高い金利を押しつけるために強い心が要求されているとか記載する部分についてこれを認める足りる証拠はない。

(一六) 原告P6について

(1) 別紙一の一〇四番

差別を記載するものであるが、前述のとおり、右記載する相当の理由がある。

(2) 別紙一の一〇五番

昭和五一年六月、原告P6は、結婚式を会費制でおこなうこととし、職場の同僚一〇名を招待した。いったん全員が喜んで出席すると返答したものの結婚式の一週間前に全員が出席を断ってきた。後にそのうちの一人であったP148が原告P6に「○○(原告P6)さんの結婚式には参加しない方がいいと忠告された」と話した。他方当時内国為替課のP71課長は、原告に職場の上司として出席させてほしいと述べ、式でスピーチもおこなった(甲一〇五八、乙一一三)。

右事実によれば、被告が原告P6の結婚式への出席を妨害したとまではいえないものの、同原告が妨害があったと信じたことには相当の理由がある。

(3) 別紙一の一〇六

記載の事実は概ね認められる(甲一〇五八)。

(4) 別紙一の一〇七番

被告が新設したレクリエーション委員が、組合青婦人部が行う文化、レクリエーションと同じような内容の行事を行った(甲一〇五八)。昭和四二年五月二日、四月に選任された本店支部青婦人部のP72部長、P73副部長が転勤となった。このとき同日付けで転勤したものは一〇七名いた(乙九)。昭和四四年当時、被告人事部は、右申出の組合活動、思想信条を調査するように指示していた(甲五八四)。

これらによれば、右記載は、批判活動として正当性がある。

(5) 別紙一の一〇八番

昭和四六年中頃、P75が、内国為替課で女性の初めての役付者(支店長代理)となった。このころ、原告P6は、同僚のP74ほか数名といっしょに旅行に行く約束をしていたが、P74が旅行を断ってきた。後に、P74は、原告P6に対し、P75から原告P6と一緒に行動しないほうがいいと言われたと告げた(甲一〇五八)。当該記載について時期の誤りはあるものの、原告P6が右のように記載したことは、相当の理由がある。

(6) 別紙一の一〇九番

原告P6は、昭和四五年頚肩腕障害に罹患し、昭和四六年五月に労基署に労災申請をした。その際、被告は、原告の右障害が業務上のものとは認めがたいとして事業主としての証明印の押印を拒否した。当時組合の執行部は、組合内少数派である原告らのおこなった頚肩腕障害の労災申請活動のビラ配布に対し、「ビラ行為について統制違反の厳重注意処分を行った(甲二六三)。そして職場会の中で、組合主流派とされる組合員が、原告らの労災申請や、これに関する宣伝活動について「あなた方の行為は銀行の信用を失墜させるもので、同じ職場に働く者として非常に迷惑である」という発言を行った(甲一〇五八)。これらによれば、原告らが、その立場から、右記載をしても、批判活動として正当な範囲である。

(7) 別紙一の一一〇番

原告P6は、労災申請に踏み切れなかった者から、被告の役付者が「あの人たち(原告ら)が通院している病院で治療をうけると治らない。」「アカのなる病気だ。」といわれたことを聞いた(甲一〇五八)。これによれば、右記載は概ね事実といってよい。

(8) 別紙一の一一一番

原告P6が、昭和四六年三月に職場復帰し、加賀屋病院に通院していたが、P149代理は、原告P6が病院に行っているか確認の電話をし、確認がとれなかったときは、P71課長が原告P6にどこに行っていたのかを質問していた(甲一〇五九 添付№2)。

(9) 別紙一の一一二番

原告P6は、他の女子行員が入行六、七年目で二級三号になっていった中、入行一一年目の昭和四九年まで二級三号に昇格しなかった。原告P6が、二級三号二号格しない理由をP71課長に、質問したところ、昭和四七年四月二〇日、P71課長は「営業部での二級三号申請対象者の順位が下位であった。」「対象者の三〇パーセントが昇格していない。」「二級二号は優秀者」と説明した(甲一〇五九 添付№2)。しかし、原告が、昇給の遅れを差別のように記載したことは、前述の他の賃金差別と同様に、相当の理由がないことはない。

ただし昭和四八年以前には基礎技能テストやあるいは全行的な能力テストはなかったことから(P5第二六回期日)、基礎技能テストを受けなかったから昇給しなかったという点は事実と認められないものの、これは被告の信用を低下させる事実ではない。

(10) 別紙一の一一三番

結婚をする女子行員に対し、結婚したら女性は家庭を守るべきだと言われたり、妊娠した女子行員に対し、子供の幸せのために女性は家庭に入った方がいいと言われたりする(甲一〇五八)。一般書記でα39支店からα40支店へ転勤となり、着任前に退職した者がいた(甲一〇五八)。そして、原告らの賃金が現実に低位にあることからすると、右記載は正当な批判の範囲内である。

(9) 別紙一の一一四

コース別人事制度を避難し、女性に対する不当な処遇を記載するものであるが、右記載の程度であれば、労働運動における制度の批判として正当な範囲である。

(一二) 別紙二の五四ないし五六番

批判活動として正当な範囲である。

(一七) 原告P3について

(1) 別紙一の一一五番及び一一六番

昭和四〇年四月二〇日、原告P3は、共同で山猫ストを行ったP150と、次長とともに人事部に赴き、毎朝早朝から時間外手当もなくただ働きをさせられ、上司に訴えても改善されなかったからストを実行したという事情を説明した。これに対し、人事部の担当者は、支店長に対し是正するように指導する、今回のことは人事部としては何もなかったことにすると言った。そして、原告P3らがおこなった山猫ストは、無断欠勤として処理され、直後のボーナス支給がカット支給されたが、この件に関し、原告P3らは始末書を書くこともなく、文書なり口頭での処分も受けなかった(甲一〇六〇)。山猫ストは違法なもので、これを欠勤として扱われるのは当然のことで、人事部の担当者が、何もなかったことにすると言ったとしても、これは山猫ストを理由に処分しないという趣旨というべきであろうが、原告P3がこれを誤解したとしても、これには相当性がある。

(2) 別紙一の一一七番

昭和四二年二月ころ、外為係に配属となり、営業終了後、P76代理から、支店長から原告P3が共産党に入党したという情報が入ったこと、同原告を預けるから共産党から抜けるようにして欲しいといわれたこと、原告P3が共産党に入ったかどうかは知らないし、聞く事もしない、原告P3が何をしようともかまわないし、どうして欲しいともいわないなどといわれ、その後「相生寿司」という寿司屋へ行き寿司を食べた(甲一〇六〇)。P76は右発言について否定するが(乙一一四)、原告P3は、今だに「相生寿司」のカッパ巻きが変わっていたことを記憶しているとしており、具体性があり信用しうる。

(3) 別紙一の一一八番

原告P3は、昭和四二年ころ、後輩のP119から帰るとき気を付けた方がいい。P120さんが最近ずっと尾行していると告げられた(甲一〇六〇)。右P119の言辞から実際に尾行された否かは明らかでなく、尾行があったとしてもそれが被告の指示によるものとまで認める証拠はないが、同原告の立場及びP119の言辞からすれば、同原告が右記載のように記載したことは相当の理由がある。

(4) 別紙一の一一九番

昭和四四年ころ、原告P3は、α8支店で当座預金係を担当していたが、勘定違算のため午後一〇時をすぎて残業することが月に一、二回あり、最終電車にも間にあわず主任とタクシーで帰宅することもあった。そして原告P3が時間外勤務報告書にありのままを記入したところ、P121代理が「記入は午後一〇時までにしてほしい。」「一〇時をオーバーした分は別の日につけて欲しい」と報告書の書き換えを求めてきたことが何回かあった(甲一〇六〇)。

(5) 別紙一の一二〇番

原告P3は、昭和四四年のα8支店在籍中に、組合の分会長に立候補したが、その選挙の投票に関して、守衛のP122某が、誰が原告P3に入れたのか筆跡鑑定をしているらしいと言って歩いていた。また、当座係のP78や同じ寮にいた先輩行員のP123から民青に入っているやろうと聞かれた。さらに担当代理のP77とP78から寿司屋「一梅」で酒を振る舞われた上、民青に入っているやろう、店で他に誰が入っているなどと質問された。このとき原告P3は酔いつぶれ、銀行の会議室の長椅子のうえで寝かされていた。またP77代理が、嘔吐で汚れたワイシャツの着替えを持ってきてくれた(甲一〇六〇)。P77は、民青に入っているやろうなどと述べたことはないと否定するが(乙一一五)、原告P3の陳述は具体的であり信用しうる。

右によれば、右記載には、相当の理由がある。

(6) 別紙一の一二一番

差別を記載するものであり、原告P3の賞与の額は、他の同僚に比べ低かったこともあるから、右記載には、相当の理由がある。

(7) 別紙一の一二二番

α26支店在籍中のボーリング大会で、原告P3が優勝したが、その景品のヘアドライヤーを手渡すとき、P80支店長は「P3かあ。これを君にやるくらいならゴミ箱に捨てた方がましだ。」と言ったと認められる(甲一〇六〇)。P80はこれを否定するが(乙一一七)、そもそも同人は原告P3が優勝したことすら記憶がなく、またそのときP80はかなり酒に酔っていたことが認められ(甲一〇六〇)、P3の陳述が具体的なことも合わせ考慮するならば、右P80の陳述は信用しえない。

(8) 別紙一の一二三番、別紙二の五七番

α26支店において、原告P3は、P81から、当該記載部分のような内容を電話で聞いた。P81は、原告P3にいくら本当のことを言っても、聞き入れてくれないといって被告を退職していった(甲一〇六〇)。原告P3は、P81の右言辞を信じて、本件出版物に記載したものであるが、その記載は、P81の説明の真偽の裏付けをとらず、右説明より誇張して、被告がP81を横領犯人にでっち上げた、約一週間監禁した、自白を強要したなどと記載したもので、これを真実として記載する相当な理由はなく、批判活動として正当な範囲を超えるものである。

(一八) 原告P82について

(1) 別紙一の一二四番

原告P82が組合内少数派として活動してきたことからすれば、右記載には、相当の理由がある。

(2) 別紙一の一二五番

当時積み立て預金やJCBカードの勧誘も、原告P82の職務であった(乙一四三の一)。当時α27支店の営業課では定期預金の獲得額、積立預金、JCBカード、五大公共料金の獲得件数を「個人の実績表」に記載しており、これは毎日のように支店長まで回覧されていたが、原告P82は、獲得実績がほとんどなかった(乙一一九、乙一四三の一)。このため、原告P82が、平成二年七月二日に同年六月の賞与査定の説明を求めた際、P83支店長は、生産性が低いと答えた。また別の日には、生産性が期待水準にみたないと答えた(甲一〇六一)。しかしながら、右記載の程度であれば、相当性を欠くものではない。

(3) 別紙一の一二六番

昇進について差別をいうものであり、右記載する相当の理由がある。

(4) 別紙一の一二七番

サービス残業を記載するものであるが、事実でないとはいえない(甲一〇六二)。

(5) 別紙一の一二八番

昭和四五年六月二〇日ころ、原告P82は当時の上司であるP124代理から、年休を取る際に「突然休まれると係の他の人が迷惑する。仕事が回っていかない。」「健康管理には十分に気を付けなさい。」と言われた(甲一〇六〇)。これによれば、右記載には相当の理由がある。

(6) 別紙一の一二九番

被告における勤務報告書には、時間外項目の一つとしてサークル活動が記載されている(乙七二)。だからといって、サークル活動が必ず残業を前提しているともいえないが、現実にサークル活動が時間外にされることもあったのであるから、右記載を持って虚偽とはいえない。

(7) 別紙一の一三〇番

平成元年五月、原告らの「賃金・昇格などの不当差別是正」の要請に対し、披告も組合も何らの反応がなかったことから、平成二年七月二四日、原告らのグループは本店前でビラ配布をおこなったが、これに対しP83支店長が、「支店長としては残念です。」などと発言したことから、原告P82は毎朝支店長に抗議し、同原告の夫も支店長に抗議の電話をかけ、七月三一日午後二時三〇分ころ、支店の前でハンドマイクで利用者や従業員に支援を求めた。そして八月二日に、同原告が抗議した際に、P83支店長は「今後一切いいません」と答えた(甲一〇六一)。P83は「今後一切言いません」と言ったことを否定するが(乙一一九)、このとき同原告の夫が店舗前でいわゆる街宣活動を行っていたのであり、事態を収拾すべく支店長としてかかる発言をすることもあり得ることからすると、右P83の陳述はたやすく信用しえない。従って右記載は、正当な批判活動の範囲というべきである。

(一九) 原告P13について

(1) 別紙一の一三一番

単にこのころから差別が始まったというだけであり、前述のとおり、差別を主張する記載には、同原告が差別があると信じる相当の理由がある。

(2) 別紙一の一三二番

出産を理由に昇級昇格を差別されたという記載あるが、原告P13は、昭和四一年入行後、同四五年まで一級一号から二級二号まで毎年昇格していたが、第一子出産後の昭和四六年から昭和四八年一〇月まで昇格せず、同月二級三号に昇格したが、昭和四九年一二月七日に第二子出産後昭和五一年一〇月までの三年間は二級三号のままであった。その後、同年一〇月一日付で原告P13は三級一号に昇格したが、P86係長にそのとき「昇格しました。今の時期をのがすと昇格しないと思う。」といわれた。原告P13は同年一二月五日に第三子出産予定であった。

また、定期昇給については、昭和四三年四月から昭和四五年四月までは各一二〇〇円づつ、昭和四六年には一三〇〇円昇給したが、第一子出産後の昭和四七年四月の定期昇給は一〇〇〇円であった。その後昭和四八年四月、昭和四九年四月には各一三〇〇円昇給したが、第二子出産後の昭和五〇年四月の定期昇給は一一〇〇円であった。さらに第三子出産後の昭和五三年四月の定期昇給は八〇〇円であった(甲六九八、甲一〇六三)。

これらによれば、右記載には、正当な批判活動の範囲というべきである。

(3) 別紙一の一三三番

批判活動として正当な範囲である。

(二〇) 原告P11について

(1) 別紙一の一三四番

昭和五四年、原告P11は四級の一に昇格したが、そのとき同期同額歴の者と比べて一万円少なかった(当事者間に争いのない事実)。当時資格手当が二本立てで、人事考課の結果一万円の差が認められていた(乙一三六の一)。これによれば、同原告が差別があると信じる相当の理由がある。

(2) 別紙一の一三五番

原告P11は、入行後、うたごえ運動や労演サークルなど組合活動に積極的に参加していた(甲一〇六四)。そして入行後一年四ヶ月でα2支店から大阪のα29支店へ転勤となった。これは昭和四一年入行の男子行員の中でもっとも短い在籍期間であった(乙二八)。これによれば、右記載には、相当の理由がある。

(3) 別紙一の一三六番

原告P11は、支店長等の上司に昇級昇格について説明を求めたことはないが(乙一三六の四、五)、それにもかかわらず右のような記載をしたのは、誤解を与えるものである。

(4) 別紙一の一三七番

研修の機会を与えられなかったことを非難し、被告が原告P11に能力開発に機会を与えなかったことを非難するものであるが、批判活動として正当な範囲である。

(5) 別紙一の一三八番

昭和四三年、原告P11は、α29支店在勤中、電話交換手から、外交係りのP87代理が原告P11にかかってくる電話の内容を調査報告するようにいわれたと聞いた。また、昭和四五年の結婚式の際、同僚六、七名が原告P11の自宅に遊びにくることになっていたが、前日になって全員がいけないとの連絡が入り中止となった。さらに平成三年ころ、融資係りの者が原告P11と一緒に飲みにいったところ、上司から原告P11がどんな人間か理解したうえで交流しているのかと尋ねられた(甲一〇六四)。これらによれば、右記載には相当の理由がある。

(6) 別紙一の一三九番

賃金差別を記載するものであり、右記載には、2(一)のとおり、相当の理由がある。

(7) 別紙一の一四〇番

原告P11が、昭和五七年冬の被告の決起大会の様子を報じた職場新聞「銀行マン」を、職場の同僚等に郵送したところ、組合の職場会で取り上げられ、融資役席のP151代理が、原告P11に対し「三流銀行とはなにか。銀行を中傷するのは許せない。」などと言って非難した(甲一〇六五)。P151は、右発言をしたことを否定するが(乙一二二)、同人も同原告が同僚に送った郵送物にっいて職場会で紛糾したことがあることは認めており、それが、同人が記載するような行員名簿の使用の問題であったとはたやすく信用しえないことから、右P151の陳述は信用しえない。当該記載は、Y代理(P152代理)とされたものがP153代理であったりするものの概ね事実に近く、その記載には相当な理由がある。

(8) 別紙二の五八番及び五九番

批判活動として正当な範囲である。

(二一) 原告P88について

(1) 別紙一の一四一番

原告P88が、システム課のプログラム係に係替えとなったことが、被告による原告P88の孤立化策であるとまでは認められないが、原告P88は、昭和四五年ころ、原告P13らのサークルのキャンプに参加したところ、上司のP89主任やP90代理からその人たちとつきあわない方がいいなどと言われたことがあり、昭和四九年から昭和五五年にかけて「大阪頚肩腕罹病者の会」の役員ないし、会長をしていた際にも、上司のP91代理から「いつまで患者会というものを続けるつもりなのか」などと言われたことが認められる(甲一〇六六)。右発言を否定するP90の陳述書は、単に事実を否定するのみでなんら具体的なものではない。したがって、右記載には相当の理由がある。

(2) 別紙一の一四二番

昭和四五年九月ころ、昭和四六年二月一二日、同年五月二〇日の三回にわたり、上司が、原告P88の家を訪れ、原告P88の母に対し、「辞めさせる気はないか。」「痛さははかれない。本人が痛くないのに痛いといって休むことはできるが、お母さんはどう思いますか。」「お宅の娘さんは、痛くもないのに痛いと言って休んでいる。早く手を打たないと取り返しのつかないことになる。」などといった(甲七一九、甲一〇六六)。P154は、かかる発言をしたことを否定するが(乙一二四)、甲七一九等に照らしたやすく信用しえない。

(3) 別紙一の一四三番

昭和五一年四月、原告P88の同期の多くが三級一号に昇級したが、原告P88は昇級しなかった。昇級しなかった理由を原告P88は、P155代理とP156課長に問いただしたところ、「年次有給休暇をよくとる。」「同期が四人いて三人しか昇級させられないとしたらよく休む人とそうでない人がいたら、休まない人をあげる。」と答えられた(甲一〇六六)。

(4) 別紙一の一四四番

研修について不満を記載するもので、批判活動として正当な範囲である。

(5) 別紙一の一四五番

原告P88が、入行後一O年目で行っていた仕事は、ファイリング、入出庫チェック、帳票点検、コピー等の仕事であった(甲一〇六六)。これによれば、右記載には相当の理由がある。

(二二) 原告P92について

(1) 別紙一の一四六番

具体的な氏名が特定されておらず、記載の事実を認めることができない。

(2) 別紙一の一四七番

被告において、男子職員の二ないし三年周期の転勤が、ほとんど進級、昇格からみであるという事実は認められない(P128二二)。

(3) 別紙一の一四八番

昇級・昇格が遅れていると記載するもので、労働運動の範囲内である。

(4) 別紙一の一四九番

原告P92が、α32支店に勤務していた昭和六三年の夏期の賞与の支給額が前年に比べて二万円少なかったことから、P94支店長にその理由を尋ねたところ、「自分の胸に手をあてて考えてみなさい。」と言われたことは認められる(甲一〇六七)。これに反するP94の陳述書(乙一二七)は、当時他の部下について賞与の明細について説明をしていたという一般的な事柄に基き記載したものでありたやすく信用しえない。右支店長の言辞が冊子「銀行マン」を送ったこと意味するとまでは認めることはできないが、不当に査定されていると原告P92が考えたという意味の記載については、批判活動として正当な範囲である。

(5) 別紙一の一五〇番

原告P92は、昭和六三年から平成二年にかけてα45支店に勤務していたとき、平成二年の夏期の賞与が、平成元年の冬期の賞与の支給額よりも減額となり、また平成元年の夏期の賞与より支給率が減っていたことから、仕事中のP95支店長にその理由を質問する文書を横から差し出したところ、同支店長は立腹し、質問の文書を二つに破り、原告P92に投げつけ、支店長室にはいるように指示した。そして査定の理由については、「去年は一般職として査定した。」などと述べた(甲一〇六七)。P95は、暴力的な言動を行ったことはないと否定するが(乙一二八)、甲一〇六七添付の別紙5に照らし、たやすく信用しえない。右によれば、本件出版物の当該記載は、概ね真実であると認められる。

(6) 別紙一の一五一番

労働者の批判活動として正当な範囲である。

(二三) 原告P4について

(1) 別紙一の一五二番

α8支店在勤中の昭和四八年四月、原告P4は、当時妊娠五ヶ月であったが、P96支店長から、「お腹目立ってきたけどいつ辞めるんや。」と言われたと認められる(甲一〇六八)。

(2) 別紙一の一五三番

賃金差別を記載するもので、相当の理由があることは、前述のとおりである。

(3) 別紙一の一五四番

被告では、一時期、半期ごとに時間外勤務についてのガイドラインを設け、それが店舗ごとの事務表彰項目の一つとされていた。そして、女子職員については、労働基準法上の規制との関係から毎月の時間外勤務の累計時間数が年間一五〇時間を上まわるペースに及んだ場合には役付者(管理者)において、右労働基準法上の規制を遵守するよう部下職員に指導していた(当事者間に争いのない事実)。そして当時原告P4は時間外勤務を正確に申告していた。「時間外勤務・休日勤務時間数明細表」の一覧の原告P4の欄に注意マーク(*)が付けられ、それを見た上司が、原告P4に早く帰るように言って来た(甲一〇六八)。これらによれば、右記載をするについては相当の理由がある。

(4) 別紙一の一五五番、一五六番、別紙二の六〇番及び六一番

批判活動として正当な範囲である。

(二四) その他

(1) 帯の記載(別紙二の一ないし六番)には、事実に反し、表現も穏当でないものが多い。しかし、帯については、原告らが関知しない部分であって、これを処分の対象とすることはできない。

(2) 表紙カバーの書名(別紙二の七番)に「闇犯罪」という表現を用いる部分は穏当でないが、本件出版物の性質が暴露本の性質を有することからすれば、かかる表題をつけても、読者一般がこれをそのまま信じるものではないといえよう。

(3) 目次の記載(別紙二の八ないし一一番)は単なる目次であって、内容ではないから、本文と併せて評価されるべきものである。

4  全体的考察

(一) 被告指摘の部分のうち、原告P8(別紙二の二〇)、原告P9(別紙一の一八)、原告P10(別紙一の三四番、三六番、三七番、四〇番)、原告P2(別紙一の六八)は、いずれも転勤が不当であると記載し、その部分については、これが不当であるとまで認める事実はなく、右原告らが賃金等において差別されていると信じる相当の理由があるとしても、右転勤についてまで同様にいい得るだけの根拠はないのであるが、他に差別を受けていると信じる相当な理由がある以上は、この部分でやや根拠不十分のまま記載したからといって、被告においても昇級や昇格において、差別があるかのような印象を与えている訳であるから、右記載を懲戒処分の対象とすることは、処分の相当性を欠くものといわなければならない。

(二) 原告P12の手記部分については、転勤の不当を記載した部分の外、同原告を青婦人部の役員にしたのは間違いであったと述べた部分(別紙一の二〇番)昭和五二年の優秀外交表彰において成績の付け替えが行われたという部分(別紙一の二三番及び二四番)は事実でないが、前者は単に時期の違いだけであるし、後者は、別の成績付け替えの事実を踏まえて憶測したもので、これら懲戒処分の対象とすることは、処分の相当性を欠くというべきである。

(三) 原告P30の手記部分は、結婚後、また妊娠あるいは出産後も勤務を続けることに嫌がらせがあったという内容であり、その記載のうちには事実と認められない部分もあるが(別紙一の四二ないし四六番)、結婚をしても勤務を続けるものの少ない職場環境の中で、女性は家庭を守るべきであるという役割分担の思想を持った上司や同僚が多くいたことは想像に難くなく、職場環境が妊産婦に対する配慮が行き届いていたとはいえないし、前述のとおり、被告の経営姿勢を批判するグループに所属していたのであるから、被害感情を強く持ったとしてもやむをないところである。

(四) 原告P2(別紙一の七六番及び七七番)、原告P1(別紙一の八八)、原告P92(別紙一の一四六番及び一四七番)は些細な事柄であって、これらが被告の名誉を低下させるところはとるに足らない。

(五) このようにみてくると、問題となる記載はごく僅かといわなければならなくなる。本件出版物の記載の中の大部分の記載については、原告らが自ら体験した事実をもとに記載されており、右事実について、被告の経営方針等に反対する活動を長年行ってきた原告らなりの評価を記載したものである。むろん、事実と認められる部分についても、それが原告らの独特の評価と結びつき、原告らの主張する差別や嫌がらせ、被告の諸制度の不当性を裏付ける記載となっているのであるが、前述のように、差別や不当配転を記載した部分については、原告らがその存在を信じる相当の理由があったといわなければならないし、被告の経営姿勢や諸制度を批判すること自体は、労働者の批判行為として正当なものであり、その表現には、別紙二の二九の「魑魅魍魎」の世界、同三四番「社畜」、同五七番の「人間の仮面をつけた鬼」といった不当な部分があることを併せ考慮しても、問題とすべき部分は僅かである(被告が問題とする二一七項目中一割程度である。)。そうであれば、本件戒告処分が懲戒としてもっとも軽いものであるとしても、懲戒事由とされた部分の大半が事実を記載し、又はかかる記載をすることに相当の理由があること、加えて、被告においてはユニオンショップ制がとられていることから、原告らは組合内の少数派として活動するよりほかないものであること、原告らの寄稿・出版協力の目的が主として原告らを含む従業員の労働条件の改善を目指したものであることを総合考慮すれば、本件戒告処分は、処分の相当性を欠き、懲戒権を濫用したもので、無効であるといわなければならない。

4  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの本件出版物へ寄稿、出版を理由とする本件懲戒処分は、無効である。

2 争点2(不法行為に基づく慰謝料請求)について

証拠(証人P5)及び弁論の全趣旨によれば、本件出版物の出版にあたって、被告は、事実関係を調査し、原告らからの聞き取りもおこなったうえで懲戒処分をおこなったことが認められる。本件戒告処分は、前述のとおり、懲戒権の濫用というべきであるが、処分事由となった事実にはこれを肯定できる事実も多くあり、その表現についても穏当でないものや、扇情的なものも多く存在したのであって、処分手続きについては、違法というべき点はない。そして、本件戒告処分は懲戒処分の中でも最も軽微なもので、具体的な不利益をもたらさないものであり、処分が無効となることで精神的損害は回復可能であり、それ以上に金銭の支払いをもってこれを慰謝しなければならないものとは認められない。

3  結論

以上により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 川畑公美)

裁判官和田健は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 松本哲泓

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